婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

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君に原因がある

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 後頭部に手を回し、プラチナブロンドを指の腹で撫でられ、隣からは恐ろしく冷たい視線を感じながらどこか状況を愉しんでいるフェレスに困惑していると微笑まれる。


「君にも原因があるんだよ? 彼が君にしつこくするのは」
「……」
「どうしてか何となく分かってる顔をしてるね」


 粘り強さで言うとシュヴァルツが上だ。折れて一応要望を受け入れているセラティーナが負け。受け入れたところで結局長年一緒にいたルチアを見捨てられないとどこかで高を括っていた。フェレスから指摘を受けても反論の余地がない。


「君にとって不幸なのか、幸運なのか。今まで君の周りに彼のような人間がいなかったから、君も正しい選択が取れていない」


 前世と今世の周囲の人間関係は大きく違うものの、同じ点を挙げるならセラティーナを散々冷遇、放置をしておいて捨てられる寸前になると必死に追い縋るシュヴァルツのような人間はいなかった。
 前世の父とは和解しており、友人関係で揉めた経験もなく、フェレスとは最後まで関係良好で終わった。今世の場合はセラティーナのスルースキルが高すぎるせいであまり深く考えてこなかったものの、エルサとは和解している、母については一生無理な気がする。父は……妖精狩が解決したら改めて話をしたい。


「カエルレウム卿っ、いい加減にしていただきたい!  いくら何でも距離が近すぎる」
「うるさいなあ、少しの間口を閉じてて」
「っ!」


 手をシュヴァルツに上げ、親指と人差し指を合わせて左から右へ動かした。
 見目から変化は感じられないがシュヴァルツはしっかりと異変に気付いている。口を開こうともがく姿から、上下の唇を合わせたのだと察した。更に此処に来れないよう結界を貼りシュヴァルツからの邪魔を徹底的に阻止した。


「フェレス……」
「うるさいし、人の邪魔をする彼にはピッタリさ。さてセラ、君へのお説教はまだ終わってないよ」


 愉しげな表情のまま、後頭部に回っている手に引き寄せられフェレスの顔の距離が一気に縮まった。端から見たらキスをしていると勘違いされる距離で後ろから結界を叩く乱暴な音がするのはそういうこと。


「セラ、教えて。彼の諦めの悪さは君に理由がないと言える?」
「……いいえ」


 妖精は見目が整った者が多くフェレスはその筆頭とも言える。見慣れていても恥ずかしさは消えないが視線だけは逸らさなかった。


「フェレスの言う通りだった。シュヴァルツ様のやり直しを受け入れたところで私が出した条件を守るとは信じていなかった。ルチア様をずっと大事にし続けていたから、私とやり直しをしたい理由でルチア様を拒絶出来ないと」


 自分の認識の甘さとシュヴァルツがルチアを見捨てられる筈がないという思い込みを否定出来ない。現に、セラティーナの予想と違ってシュヴァルツは本気でルチアとの接触を絶とうとし、やり直しを願っている。仮にシュヴァルツが去ろうとルチアが逃がさない。ルチアが何かをしでかすと考えていた。
 どれも他人任せでセラティーナ自身の行動がない。


「追い詰められた人間は何でもする。今の彼がそうだ。君とやり直す為に聖女を見捨てる選択をした。それをしても君に受け入れられないなら、他の事を何でもする。君に好きになってもらえるようにね」
「ん……」


 近付けば触れられる唇にフェレスがキスをした。婚約が無かった事になるまで待っていてほしいセラティーナの希望を叶えていたフェレスでも、そろそろ我慢の限界だった。触れるだけのキスを繰り返し、多少満足すると話の 続きをした。


「彼を諦めさせる簡単な方法がある。君が僕の亡くなった妻の生まれ変わりだと話せばいい」


 それが最も納得させられる方法。セラティーナも薄々解していたのか、そうね、と呟いた。


「ただのセラティーナとして、王国を去りたかったの。余計な詮索はされず、好き勝手想像されても時が経ったら誰も私のことを忘れる。帝国に行ってしまえば、ただのセラティーナを気にする物好きはいないと」
「君の身内は?」
「エルサやお父様には話しておくわ。エルサは決めていたけれどお父様にも話していた方がいいから」

  
 過去に何人かいた魔法使いの才能があるプラティーヌ家出身者の存在は、身内以外には時間と共に人々から忘れ去られた。


「そろそろ結界を解くよ」
「うん。私から話すわ。ちゃんとシュヴァルツ様が納得するように」
「ふふ……まあ、無理だと思うよ」
「え?」
「僕から言おうと君から言おうときっと彼はこう言う。“騙されるなセラティーナ”ってね」
「……」


 容易に想像出来てしまう光景に小さく溜め息を吐いた。


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