72 / 110
君に原因がある
しおりを挟む後頭部に手を回し、プラチナブロンドを指の腹で撫でられ、隣からは恐ろしく冷たい視線を感じながらどこか状況を愉しんでいるフェレスに困惑していると微笑まれる。
「君にも原因があるんだよ? 彼が君にしつこくするのは」
「……」
「どうしてか何となく分かってる顔をしてるね」
粘り強さで言うとシュヴァルツが上だ。折れて一応要望を受け入れているセラティーナが負け。受け入れたところで結局長年一緒にいたルチアを見捨てられないとどこかで高を括っていた。フェレスから指摘を受けても反論の余地がない。
「君にとって不幸なのか、幸運なのか。今まで君の周りに彼のような人間がいなかったから、君も正しい選択が取れていない」
前世と今世の周囲の人間関係は大きく違うものの、同じ点を挙げるならセラティーナを散々冷遇、放置をしておいて捨てられる寸前になると必死に追い縋るシュヴァルツのような人間はいなかった。
前世の父とは和解しており、友人関係で揉めた経験もなく、フェレスとは最後まで関係良好で終わった。今世の場合はセラティーナのスルースキルが高すぎるせいであまり深く考えてこなかったものの、エルサとは和解している、母については一生無理な気がする。父は……妖精狩が解決したら改めて話をしたい。
「カエルレウム卿っ、いい加減にしていただきたい! いくら何でも距離が近すぎる」
「うるさいなあ、少しの間口を閉じてて」
「っ!」
手をシュヴァルツに上げ、親指と人差し指を合わせて左から右へ動かした。
見目から変化は感じられないがシュヴァルツはしっかりと異変に気付いている。口を開こうともがく姿から、上下の唇を合わせたのだと察した。更に此処に来れないよう結界を貼りシュヴァルツからの邪魔を徹底的に阻止した。
「フェレス……」
「うるさいし、人の邪魔をする彼にはピッタリさ。さてセラ、君へのお説教はまだ終わってないよ」
愉しげな表情のまま、後頭部に回っている手に引き寄せられフェレスの顔の距離が一気に縮まった。端から見たらキスをしていると勘違いされる距離で後ろから結界を叩く乱暴な音がするのはそういうこと。
「セラ、教えて。彼の諦めの悪さは君に理由がないと言える?」
「……いいえ」
妖精は見目が整った者が多くフェレスはその筆頭とも言える。見慣れていても恥ずかしさは消えないが視線だけは逸らさなかった。
「フェレスの言う通りだった。シュヴァルツ様のやり直しを受け入れたところで私が出した条件を守るとは信じていなかった。ルチア様をずっと大事にし続けていたから、私とやり直しをしたい理由でルチア様を拒絶出来ないと」
自分の認識の甘さとシュヴァルツがルチアを見捨てられる筈がないという思い込みを否定出来ない。現に、セラティーナの予想と違ってシュヴァルツは本気でルチアとの接触を絶とうとし、やり直しを願っている。仮にシュヴァルツが去ろうとルチアが逃がさない。ルチアが何かをしでかすと考えていた。
どれも他人任せでセラティーナ自身の行動がない。
「追い詰められた人間は何でもする。今の彼がそうだ。君とやり直す為に聖女を見捨てる選択をした。それをしても君に受け入れられないなら、他の事を何でもする。君に好きになってもらえるようにね」
「ん……」
近付けば触れられる唇にフェレスがキスをした。婚約が無かった事になるまで待っていてほしいセラティーナの希望を叶えていたフェレスでも、そろそろ我慢の限界だった。触れるだけのキスを繰り返し、多少満足すると話の 続きをした。
「彼を諦めさせる簡単な方法がある。君が僕の亡くなった妻の生まれ変わりだと話せばいい」
それが最も納得させられる方法。セラティーナも薄々解していたのか、そうね、と呟いた。
「ただのセラティーナとして、王国を去りたかったの。余計な詮索はされず、好き勝手想像されても時が経ったら誰も私のことを忘れる。帝国に行ってしまえば、ただのセラティーナを気にする物好きはいないと」
「君の身内は?」
「エルサやお父様には話しておくわ。エルサは決めていたけれどお父様にも話していた方がいいから」
過去に何人かいた魔法使いの才能があるプラティーヌ家出身者の存在は、身内以外には時間と共に人々から忘れ去られた。
「そろそろ結界を解くよ」
「うん。私から話すわ。ちゃんとシュヴァルツ様が納得するように」
「ふふ……まあ、無理だと思うよ」
「え?」
「僕から言おうと君から言おうときっと彼はこう言う。“騙されるなセラティーナ”ってね」
「……」
容易に想像出来てしまう光景に小さく溜め息を吐いた。
276
お気に入りに追加
8,600
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
一番悪いのは誰
jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。
ようやく帰れたのは三か月後。
愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。
出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、
「ローラ様は先日亡くなられました」と。
何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる