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兄の為にした叔母の暴走②

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「お父様と料理長が駆け付けた先で何が起きていたの?」
「……魔力を奪われ、死んだ妖精の遺体と恐らく死ぬ間際妖精に呪いを掛けられ悍ましい姿に成り果てたファラお嬢様がいました」


 室内の殆どを覆っていた蔓に体を拘束され、木乃伊化していた妖精の側には、全身が腐る呪いを掛けられ息も絶え絶えなファラが倒れていた。近くにはアベラルドも倒れていて怪我はしていたが命に別状はなく、意識も明確にあった。体を起こしたアベラルドに状況を聞き、すぐさま騎士団の要請をとフリードに命じた父。だが邪魔をする者がいた。

 アベラルドだ。


「グリージョ公爵はファラお嬢様の研究を熱心に手伝っておいででした。私と旦那様が駆け付けた時、青い薔薇は満開に咲き、強大な魔力を漂わせていました。当然、そんな花を騎士団に見られればグリージョ公爵もファラお嬢様も只では済みません。必ず事情を聞かれます」


 青い薔薇の研究を隠し通したいアベラルドはジグルドの制止を振り切り、青い薔薇の魔力を使って全てを隠蔽した。
 妖精が死んだ事実もファラが呪いによって全身腐り動けなくなってしまっても。


「お父様や料理長は王家に報告しなかったの?」
「しました。しましたが……誰も料理人や魔法が使えないプラティーヌ家の旦那様の言葉に耳を貸しませんでした」
「……」


 当時から優秀な魔法使いの才能を発揮していたアベラルドと魔力量は豊富でも使う術を持たないジグルドでは、魔法使いからの信頼度が大きく違った。誰も疑問にすら思ってくれなかったと料理長は悔し気に零す。


「叔母様は病死したと聞いていたけれど違うとは分かった。でも、お祖母様やお祖父様は叔母様の遺体を見ても病死だと信じたの?」
「いいえ……領地の墓地にある墓に、ファラお嬢様は眠っていません。棺の中は空っぽです」
「……お祖母様やお祖父様は……」
「知りませんよ、当然。グリージョ公爵は恐ろしい魔法使いです。私と旦那様以外の人間の記憶を操作して、ファラお嬢様は病によって亡くなったという記憶を植え付けたんです。あの青い薔薇は不可能を可能にするとんでもない花だ。妖精達の魔力を吸い上げ、強大な魔力を保持する薔薇を使えば出来ない芸当じゃない」
「……」


 予想を遥かに超えた話に頭の処理能力がパンクしそうであるが休んでいる暇はない。セラティーナは墓地にファラの遺体がないのなら何処にいるのかと問うたが首を振られた。


「分かりません……恐らく、グリージョ公爵が隠している筈です」
「叔母様が生きているか死んでいるかも分からないわね」
「ええ」
「十八年前から起きている妖精狩もグリージョ公爵が関係していそうね」
「お嬢様、まさか妖精狩について調べているのですか?」
「ええ。事情があるの」


 この事実をすぐにでもフェレスやランス達に報せたい。長年、黒幕の尻尾すら掴めなかった妖精狩の重要な手掛かりを。


「お嬢様に求婚したのが帝国の妖精族の魔法使いだと聞いています」
「ええ。でも、彼なら大丈夫。とても強い人だもの」
「油断したらいけません。グリージョ公爵がお嬢様とご子息の婚約に拘り続けたのは、恐らくお嬢様がファラお嬢様とよく似ているからだ。求婚したのが妖精なら、仮に妖精狩の黒幕がグリージョ公爵なら絶対に狙われる」


 切羽詰まった料理長の言葉には一理ある。フェレスがどれだけ強くても油断をして捕まってしまえばあっという間に殺される。席から立ったセラティーナは前に回り込み料理長の手を掴んだ。


「今から私と一緒に組合へ行きましょう! 私にしてくれたさっきの話をもう一度彼等にも話してほしいの」


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