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散歩をしよう①
しおりを挟む話が通じない相手との会話が体に大きな疲弊を齎すといい経験になった。と前向きに考えないとこの疲れは取れない気がするセラティーナ。組合の魔法使い達も苛立ちの原因が消え去ると散り散りとなった。
食って掛かられていた受付嬢に謝られるも逆にセラティーナも謝った。あそこまでルチアが話が通じないとは誰も思わないとフォローされ、受付嬢も自身の持ち場に戻った。少し散歩をしようとフェレスに手を繋がれ組合を出た。
「セラは聖女と話をしたことはないの?」
「あまりないわ。シュヴァルツ様と常に一緒にいるのは見るけれど、実際に話した回数は片手で足りる程よ」
話と言っても殆ど挨拶を交わすのみ。それが終わるとシュヴァルツはルチアを連れセラティーナを置いて行っていた。シュヴァルツが自分を優先するのは当然だとルチアが考えるのも無理はなく、セラティーナも否定はしない。
「君の婚約者は、本気で君とやり直したくて聖女を拒絶したのかな」
「だとしても、シュヴァルツ様とやり直す未来が全く浮かばないわ。ルチア様との関係も絶てると思ってない」
個人的にシュヴァルツが絶対に叶えられない条件を付けたつもりだ。お互いを熱の籠った瞳で見つめ合い、一時も側を離れたがらなかったシュヴァルツがやり直しの為にルチアを切り捨てられると到底思えない。あの時、やり直す機会が欲しいと訴えた灰色の瞳に嘗てない熱量を注がれるも、セラティーナが信じられない時点でもう無理なのだ。
「そう」
フェレスもセラティーナがシュヴァルツのやり直したいという言葉を全く信じていないと分かっているから不安がない。ならたとえ話をしようとフェレスに出された。
「もしも、そうだな、婚約が決まった一年や二年の間で彼にやり直しを提案されていたら、セラは受けた?」
「分からないわ。けど……今と違ってシュヴァルツ様を信じてもいいとはきっと考えた」
一、二年のたとえ話と現在では年数が違う。もしもだから気にしないでとフェレスは次にルチアについて切り出した。
「あの聖女は君が彼を誑かしたと此方が何を言っても自分の考えを変えない。大聖堂や王家に聖女の力が無くなってしまうと泣き喚いてもらおうか」
「フェレス」
「いい? セラ。話の通じない相手には何を言っても無駄。自分の考えが絶対に正しいと信じて疑わない。そんな相手と真っ向から話し合っても此方が疲れるだけ。なら、聖女のお望み通り彼を聖女の側に縛り付けたらいい」
「どうするの」
「簡単さ。既成事実を作ってしまえば、セラとやり直したい等と戯言はもう言えなくなる」
既成事実を作るとは、つまりそういうことで。そうなると聖女の力が消失してしまう。王国の民の為にもルチアの聖女の能力は欠かせない。癒しの能力や浄化の能力を使えるのはルチアのみ。
「ところでセラは聖女がどうやって子を成すか知ってる?」
「共通の知識として一通りは習ったわ」
必ず王族と婚姻するのが聖女の義務であるが純潔が尊ばれるのにどうやって子を成すのか。特別な方法を用いて子を儲ける。この方法で純潔を保つが使えるのは王族と婚姻した時のみ、というより、歴代の聖女は皆王族と婚姻を結んできた。今回ルチアが初めて例外となってしまった。
「純潔を保つことで聖女の能力は維持される。けれど、王族以外との婚姻が例にないから、恐らく同じ方法で子は成せない。どの道、聖女は彼と婚約しても子供は作れないんだ」
愛し合う者達にとって子供は愛の形であり、公爵家の当主となるシュヴァルツにとっては最優先で儲ける必要がある。
「聖女だって彼の子を欲しがるだろうね」
「王族以外と婚姻した過去がなくても、今回ばかりは例外を作るんじゃ……」
「決めるのはこの国の王家や大聖堂だ。僕達じゃない。まあ、どうでもいい」
「もう……」
取り敢えずフェレスの頭はもうシュヴァルツとルチアの既成事実を作って二人を諦めさせるのが手っ取り早いという考えになっている。セラティーナからしてもその方法が最も二人を大人しくさせるのに早いとは理解している。
最大限穏便な方法でと今まで考えてきたが現状難しくなり、多少強引な方法を取ろうとシュヴァルツとルチアを諦めさせるのが最優先となる。
「セラは既成事実を作ったら、聖女の純潔が失われると危惧しているんだろう? 純潔を保ったまま既成事実を作らせる方法は僕に任せて」
ただ、とフェレスは付け足した。
「純潔を保とうとあの聖女はいずれ能力を失う」
「今のままではって事?」
「ああ。君を敵視し続ければ、聖女にとって致命的な憎しみという感情が生まれる。そうなれば、能力は徐々に弱まり軈て消滅する」
聖女の癒し能力、浄化の能力、これらを必要とする民は大勢いる。いくら考えても能力の消失だけは避けたい。
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