60 / 109
叔母の研究④
しおりを挟むこの本を見てほしいとフェレスに持っている叔母の研究書を見せた。
「私の亡くなった叔母が研究していた花がフェレス達が探している花と少し似ているから、気になって見てもらおうって」
「どれ」
似ている点は魔力を吸う性質。少し興味が湧いたらしいフェレスが研究書を受け取り、パラパラパラとページを開き、全て捲ると次の研究書に手を伸ばした。全部の研究書を捲り終えたフェレスが個室に置かれている丸テーブルに載せると意味深に笑った。
「君の叔母というのは、余程この花を咲かせたかったらしいね」
「ええ。最後の研究書には、やっと開花させられたってあるから、開花自体には成功したみたいだけど」
「その後が書かれていない。セラはそこも気になっているんでしょう?」
「ええ」
開花した事が余程嬉しくて、もう研究書に書く必要はないと叔母は思ったのだろうか。恐らく違う、とフェレスは否定した。
「研究書を眺めながら、この本を持っていた人間の思念を辿ってみた」
「そんな魔法もあるのね……」
相変わらず、魔法の腕に関しては超一流。使えない魔法がないのではないかと信じてしまうくらいに。
「所々書かれているけど、どうも君の叔母は君の父親に対して果たしたい願いがあったようだ」
「……恐らく、叔母は青い薔薇を咲かせて父が魔法を使えるようにしたかったのではと考えているの」
魔力があっても魔法が使えない一族。それがプラティーヌ家。
地位と権力、財力は最高でも魔法使いの才能がないと蔑まれる。セラティーナは魔法使いの才能があったから、あまり言われなかった。その代わり、家族や婚約者に愛されない、相思相愛の二人を引き裂く悪女という不名誉な名が付けられた。
「魔法使いに馬鹿にされない為には、魔法を使えるようにならないといけない。叔母は魔法が使えても父は使えない。二人の仲が良いとは聞かないけれど、実際は仲が良かった。叔母は病が原因で亡くなったけど、この青い薔薇を咲かせた事と繋がりはあるのかしら?」
「僕の予想だが……死んだ理由は病ではなく、多分この薔薇だ」
「え……」
「あくまで予想。気にしないで」
人が気にする言葉を使っておいて気にするなは無理がある。
フェレスに聞いても蕩けそうな甘い微笑みを貰うだけで言葉は貰えず。もう、と溜め息を吐く。
「セラ、そう怒らないで。ただ、興味はある。協力者であったグリージョ公爵を調べてみよう」
「ありがとう、フェレス」
開花させた青い薔薇の行方も気になる。その点も含め、グリージョ公爵を調べるとなった。
「ねえセラ。折角だから、僕とお茶をしようよ。美味しいスイーツとお茶を組合に用意させるから、此処で君とお茶がしたい」
「勿論」
外に出ないのなら、誰かに見られる心配はない。生まれ変わって初めてのフェレスとのお茶。早速、組合に言ってくるよとフェレスが扉を開けた時だ。下の方から騒がしい声がしていた。二人で顔を見合わせ、気になって階段を少しずつ降りて様子を覗くと――吃驚する相手が受付嬢に食って掛かっていた。
「此処にカエルレウム卿がいるのは分かっています! 早く出しなさい」
「ですから、カエルレウム卿は外出中でまだ戻っていません!」
本当は戻っているがフェレスを出せと騒ぐ相手に教える気はない受付嬢は、毅然とした態度で騒ぐ相手――ルチアとお付きの護衛と向き合う。
「言伝てなら、カエルレウム卿が戻り次第、組合からルナリア伯爵令嬢にお伝えします。本日のところはお引き取りください」
「酷いわ! 私はカエルレウム卿に会いたいのよ! セラティーナ様がカエルレウム卿に求婚されたって聞いたから、直ぐにでもセラティーナ様を連れて行ってほしいのに!」
人が多い場所で大きな声を出していい台詞じゃないのだがシュヴァルツの婚約者になりたくてもなれない最大の原因たるセラティーナが求婚されている。ルチアとしては、この機会を逃したくはない。お付きの護衛は聖女たるルチアの願いを叶えない受付嬢に苛立ちを募らせている。今にも襲い掛かってきそうな雰囲気。苛ついた気配を察して組合に所属している魔法使い達の雰囲気も刺々しい。
「カエルレウム卿が戻るまで待たせてもらいます。一番良い部屋に案内しなさい!」
「此処は宿では御座いません。先程も申したようにカエルレウム卿が戻ったら、ルナリア伯爵令嬢にお伝えします。お引き取りを!」
「さっきから聞いていれば、組合の受付嬢風情が伯爵令嬢であり聖女であらせられるルチア様に無礼だぞ!」
剣に手を掛けた護衛を見て、これ以上は見ていられないとセラティーナは階段を降りた。突然現れたセラティーナに瞬きを繰り返すルチアに一言申した。
「なら、伯爵令嬢風情のルチア様が公爵令嬢である私の顔を打ったのも無礼に値するわね?」
202
お気に入りに追加
8,565
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
アリシアの恋は終わったのです【完結】
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる