47 / 110
独り言
しおりを挟むエルサからの手紙を読み終えてから気付いた。二つの手紙を届けた鷲が速達往復便だと。魔力を好きなだけ渡して空へ飛ばしてしまった。返事を書いてもプラティーヌ家に送れない! 焦ったジグルドは二つの手紙を握り締め、急ぎ室内に入り呼び鈴を鳴らし、やって来た給仕に便箋と封筒の用意を促した。領地へ行く初日からこの様な事態になろうとは誰が思うか。給仕が運んだ便箋と封筒を受け取ると、机に備え付けられているペンで素早くエルサ宛で返事を書き終えた。王家への返事は明日。
宿には追加で金を渡して妻の滞在日数を延期させ、自分だけ王都へ戻る。今から郵便へ行っても既に閉店済み。明朝すぐにでも郵便に行って手紙を届けさせよう。そう考えていると窓が強い力で叩かれた。
誰だ、と警戒するとあの鷲が嘴で窓を突いていた。
ジグルドがテラスに出ると持っている手紙をリュックに入れろと羽先で示した。
「お前、まさか態々戻って来たのか?」
当たり前だと言わんばかりに頷かれ、鷲が人間の言葉が理解出来ると知らなかったと驚きつつ、魔鳥なのだから当たり前かと変に冷静な思考でリュックにエルサ宛の手紙を入れた。但し、また魔力を要求された。燃費の悪い鷲め、と苛立ちつつ再度空へ飛ばした。
「……」
どっちの手紙も驚く内容ばかり。エルサの手紙は、何時起きても変ではない。
王家の手紙は予想を超えている。
だが……
「これは、チャンスだ」
帝国の魔法使いがセラティーナを妻にしたいと皇帝が文を届けたと記されていた。三日掛けて返事を待ってもらっても王家側だけでは拒否が出来ないと判断したらしい。
きっとセラティーナがシュヴァルツと関係が良好であったら、関係改善に努める国王でもすぐに断りの返事を入れていただろう。
現実は、セラティーナとシュヴァルツの関係は最初から破綻していた。また、今回セラティーナを妻にと求める魔法使いは帝国最強と名高く、先々代の皇帝からの関係が続いている。皇帝直属の魔法使いであり、古い妖精ときた。
人間が妖精に惚れるのはあっても、妖精が人間に惚れるとは初めて聞いた。
古い妖精というのは変わり者なのだと呆れつつ、セラティーナを王国から逃がす最もな理由が出来た。
「グリージョの倅と聖女が間違いを起こしてくれるのが一番手っ取り早かったのだがな」
清い心を保つ必要のある聖女だから肉体関係は無理でも、口付けの一つや二つ交わせば良かったものを。友人以上恋人未満の関係を保ち続けられるだけで決定的な証拠がなくては婚約解消も婚約破棄も難しい。いや、それ以前にアベラルドが納得する理由での解消か破棄が必要なのだ。
「私のやり方は間違っている。ただ、どんな手を使ってでも……アベラルドからセラティーナを逃がさねば……」
長年冷遇しているのも、妻が自分に同調してセラティーナを嫌っていようと無視を貫いているのも、求められればどんな教育だって受けさせてきたのも、商品の価値を見抜く目を鍛えたのも、シュヴァルツとルチアが相思相愛と囁かれてセラティーナが馬鹿にされているのを放置しているのも、料理長に頼んでセラティーナの料理にだけ魔法を掛けさせているのも。
全てセラティーナが何の未練もなくプラティーヌ家を、王国を捨てて他国へ行かせる為の手段。
「妖精は長生きな分、飽きやすい性分と聞く。帝国に幾つか家を買っていて正解だったな」
妻にと求められても長生きな妖精だ、きっとセラティーナを飽きて捨ててしまう。国にも実家にも戻れないセラティーナの為に事前に用意していた家を渡せばいい。使用人もセラティーナ一人を世話するのに必要な人数だけ付ける。
生活費も毎月困らない額を渡す。
仮に妖精がセラティーナを飽きなくてももしもの為に家はそのまま残す。セラティーナが妖精の家で肩身の狭い思いをしないようやはり多額の生活費を用意する必要がある。
「だが、大丈夫なのか? 確か、帝国の第三皇女が例の魔法使いに懸想していると聞いたことがある。もしもそのせいでセラティーナに危険が及べば……いや大丈夫、か。魔法の家庭教師はセラティーナの才能は天才級だと誉めていた。帝国側や妖精が味方にならない場合は、帝国で運営している商会支部を撤退させると脅して更に……」
一人部屋で考えを口に出していると気付かないジグルドは真夜中になっても対策を講じ続けた。
349
お気に入りに追加
8,602
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私は悪くありません。黙って従うように言われたのですから。
田太 優
恋愛
お貴族様に見染められて幸せに暮らせるなんて物語の世界の中だけ。
領主様の次男であり街の代官という立場だけは立派な人に見染められたけど、私を待っていたのは厳しい現実だった。
酒癖が悪く無能な夫。
売れる物を売り払ってでも酒を用意しろと言われ、買い取りを頼もうと向かった店で私は再会してしまった。
かつて私に好意の眼差しを向けてくれた人。
私に協力してくれるのは好意から?
それとも商人だから?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。
一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。
そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
本当の幸せとは?
金峯蓮華
恋愛
政略結婚で、伯爵家から格上の公爵家に嫁いだカトリーヌは夫や義両親、そして使用人にまで次期伯爵夫人に相応しくないと冷遇されていた。しかし、政略結婚とはそんなもの、仕方がない。自分が我慢すれば上手くいくと思って生きていたが、心はもうボロボロだった。そんな時、夜中に目が覚めて、お花摘みにいき、扉を開けるとそこは知らない場所だった。
独自の異世界の緩いお話です。
ご都合主義です。多めに見てもらえると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる