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独り言

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 エルサからの手紙を読み終えてから気付いた。二つの手紙を届けた鷲が速達往復便だと。魔力を好きなだけ渡して空へ飛ばしてしまった。返事を書いてもプラティーヌ家に送れない! 焦ったジグルドは二つの手紙を握り締め、急ぎ室内に入り呼び鈴を鳴らし、やって来た給仕に便箋と封筒の用意を促した。領地へ行く初日からこの様な事態になろうとは誰が思うか。給仕が運んだ便箋と封筒を受け取ると、机に備え付けられているペンで素早くエルサ宛で返事を書き終えた。王家への返事は明日。

 宿には追加で金を渡して妻の滞在日数を延期させ、自分だけ王都へ戻る。今から郵便へ行っても既に閉店済み。明朝すぐにでも郵便に行って手紙を届けさせよう。そう考えていると窓が強い力で叩かれた。

 誰だ、と警戒するとあの鷲が嘴で窓を突いていた。

 ジグルドがテラスに出ると持っている手紙をリュックに入れろと羽先で示した。


「お前、まさか態々戻って来たのか?」


 当たり前だと言わんばかりに頷かれ、鷲が人間の言葉が理解出来ると知らなかったと驚きつつ、魔鳥なのだから当たり前かと変に冷静な思考でリュックにエルサ宛の手紙を入れた。但し、また魔力を要求された。燃費の悪い鷲め、と苛立ちつつ再度空へ飛ばした。


「……」


 どっちの手紙も驚く内容ばかり。エルサの手紙は、何時起きても変ではない。
 王家の手紙は予想を超えている。
 だが……


「これは、チャンスだ」


 帝国の魔法使いがセラティーナを妻にしたいと皇帝が文を届けたと記されていた。三日掛けて返事を待ってもらっても王家側だけでは拒否が出来ないと判断したらしい。

 きっとセラティーナがシュヴァルツと関係が良好であったら、関係改善に努める国王でもすぐに断りの返事を入れていただろう。

 現実は、セラティーナとシュヴァルツの関係は最初から破綻していた。また、今回セラティーナを妻にと求める魔法使いは帝国最強と名高く、先々代の皇帝からの関係が続いている。皇帝直属の魔法使いであり、古い妖精ときた。

 人間が妖精に惚れるのはあっても、妖精が人間に惚れるとは初めて聞いた。
 古い妖精というのは変わり者なのだと呆れつつ、セラティーナを王国から逃がす最もな理由が出来た。


「グリージョの倅と聖女が間違いを起こしてくれるのが一番手っ取り早かったのだがな」


 清い心を保つ必要のある聖女だから肉体関係は無理でも、口付けの一つや二つ交わせば良かったものを。友人以上恋人未満の関係を保ち続けられるだけで決定的な証拠がなくては婚約解消も婚約破棄も難しい。いや、それ以前にアベラルドが納得する理由での解消か破棄が必要なのだ。


「私のやり方は間違っている。ただ、どんな手を使ってでも……アベラルドからセラティーナを逃がさねば……」


 長年冷遇しているのも、妻が自分に同調してセラティーナを嫌っていようと無視を貫いているのも、求められればどんな教育だって受けさせてきたのも、商品の価値を見抜く目を鍛えたのも、シュヴァルツとルチアが相思相愛と囁かれてセラティーナが馬鹿にされているのを放置しているのも、料理長に頼んでセラティーナの料理にだけ魔法を掛けさせているのも。
 全てセラティーナが何の未練もなくプラティーヌ家を、王国を捨てて他国へ行かせる為の手段。


「妖精は長生きな分、飽きやすい性分と聞く。帝国に幾つか家を買っていて正解だったな」


 妻にと求められても長生きな妖精だ、きっとセラティーナを飽きて捨ててしまう。国にも実家にも戻れないセラティーナの為に事前に用意していた家を渡せばいい。使用人もセラティーナ一人を世話するのに必要な人数だけ付ける。
 生活費も毎月困らない額を渡す。

 仮に妖精がセラティーナを飽きなくてももしもの為に家はそのまま残す。セラティーナが妖精の家で肩身の狭い思いをしないようやはり多額の生活費を用意する必要がある。


「だが、大丈夫なのか? 確か、帝国の第三皇女が例の魔法使いに懸想していると聞いたことがある。もしもそのせいでセラティーナに危険が及べば……いや大丈夫、か。魔法の家庭教師はセラティーナの才能は天才級だと誉めていた。帝国側や妖精が味方にならない場合は、帝国で運営している商会支部を撤退させると脅して更に……」


 一人部屋で考えを口に出していると気付かないジグルドは真夜中になっても対策を講じ続けた。



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