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姉妹③

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「わたくしは……その、お姉様にずっと謝りたかった」
「エルサ」
「今まで意地悪をして、沢山酷いことを言って申し訳ありませんでした」


 マグカップをテーブルに置き、立って頭を下げてエルサ。旋毛が見えるくらいに深く頭を下げられてしまい、優しい声を掛けエルサに頭を上げさせた。


「言われると確かにされていたのかしらね」
「お姉様……」
「ただ、他の令嬢達からの方が何倍増しにされていたから、エルサにされたことはどれも可愛らしいものばかりよ」
「えっ」


 何をされてきたかと覚えている範囲で挙げていき、どれも素敵な仕返しをしているから、最近では陰口ばかりだと話した。令嬢達の仕打ちに憤ったエルサだが、セラティーナのした仕返しを聞くと幾らか留飲を下げた。


「お姉様はプラティーヌ家を出て行ったら何処へ行くのですか?」
「帝国に行こうと考えてるの」


 初めは魔法使いの能力を示して置いてもらう予定だったが、今はフェレスと共にいたいから帝国へ行きたい。王家からまだ連絡が来ない。本当にフェレスの言う通り、王家は返事を渋っているのかと心配になる。


「そうですか……」


 しょんぼりと落ち込むエルサに苦笑した時だ、扉は開いたままなので「失礼します」と執事と発し、そのまま入った。手には王家の家紋が入った手紙を持って。


「エルサ様。王家から急ぎの手紙が届きました」


 ここでセラティーナではなく、エルサに持って行くのはセラティーナを下に見ている執事らしい。一瞬顔を歪めたエルサだが、セラティーナに首を振られ仕方なく何も言わなかった。
 手紙を受け取り困惑とした。


「どうしましょう……今お父様は領地に向かっているのに」
「速達往復便と一緒に王家からの手紙も速達便として同時に出しましょう」
「そうしましょうか」


 そうと決めれば、早速手紙を書く準備をしたエルサは午前におきたい出来事を素早く書き連ね、ルナリア家・グリージョ家・大聖堂に抗議を頼む旨を最後に締め括った。
 執事に速達往復便の手配を至急求め郵便へ走らせた。王家の手紙と自身の手紙を紐で結び、後は郵送鳥が来るのを待つのみ。


「王家の手紙とは、どんな内容でしょうか」
「その内分かるわ」
「お姉様は何かご存知なのですか?」
「エルサには、いつか私の秘密を教えてあげる」


 エルサが仲良くなりたいと言うのなら、フェレスやランス以外知らない前世がある自分を話したい。目を輝かせたエルサに「本当ですか?  絶対ですよ?」と確認され、絶対だと約束した。

 それから、執事が速達往復便専門の鳥を郵便から手配してもらい連れ帰った。帽子と黒眼鏡を掛けた鷲が背負う小さなリュックに大事な手紙を二つ入れた。


「私の魔力を好きなだけあげます。これで早くお父様に届けて」


 速達は鳥に魔力を与えることで早く届けさせる。魔力が多ければ多い程早く着く。幸い、両親が出発したのが今朝。領地へは王都から五日は掛かるのですぐに届けられる。エルサから多量の魔力を受け取り、鷲は羽先で黒眼鏡を上げると鋭い眼をキラリと光らせたのを二人に見せた。黒眼鏡を下げると助走をつけて飛んで行った。最初から猛速度で飛んで行った鷲を見届け、後は父からの返事を待つだけ。


 ――宿で夕食を摂り、一人テラスに出ていた父の頬すれすれで何かが飛んできた。勢いが良すぎて壁に激突した物体に「なんだ!?」と仰天していれば、砂塵から現れたのは速達専門の鷲。黒眼鏡を上げてドヤ顔を晒す鷲に苛立つつ、誰からの便りだとリュックを開けて手紙を取り出した。


「!」


 一つは王家からの、もう一つはエルサからの。
 まずは王家の、それからエルサの手紙を読み終えた。


「そうか……」


 父――ジグルドは鷲に好きなだけ魔力を与えて空へ飛ばした。


「セラティーナが……」


 生まれたばかりのセラティーナを見た時は絶望し、そして決意した。

 決してあの男に奪われてはならない。その為なら、敢えて悪役になってやると。

 既に元々いた婚約者から今の妻に乗り換えた時点で悪役だった。気にする必要はない。


「どうしても……母上やファラに似た子供が生まれるのを避けたかった」


 元々の婚約者は母の遠縁。万が一があっては駄目だからと何の血縁もない妻を選んだ。多少頭が足りなくても侯爵令嬢なら父が文句を言わないからと知っていたから。


「資格がなかろうと私にはセラティーナあれを守る義務がある」


 それがあの男の本性を見抜けず、ファラを犠牲にしてしまった自分への罰だった。



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