上 下
45 / 105

姉妹③

しおりを挟む
 


「わたくしは……その、お姉様にずっと謝りたかった」
「エルサ」
「今まで意地悪をして、沢山酷いことを言って申し訳ありませんでした」


 マグカップをテーブルに置き、立って頭を下げてエルサ。旋毛が見えるくらいに深く頭を下げられてしまい、優しい声を掛けエルサに頭を上げさせた。


「言われると確かにされていたのかしらね」
「お姉様……」
「ただ、他の令嬢達からの方が何倍増しにされていたから、エルサにされたことはどれも可愛らしいものばかりよ」
「えっ」


 何をされてきたかと覚えている範囲で挙げていき、どれも素敵な仕返しをしているから、最近では陰口ばかりだと話した。令嬢達の仕打ちに憤ったエルサだが、セラティーナのした仕返しを聞くと幾らか留飲を下げた。


「お姉様はプラティーヌ家を出て行ったら何処へ行くのですか?」
「帝国に行こうと考えてるの」


 初めは魔法使いの能力を示して置いてもらう予定だったが、今はフェレスと共にいたいから帝国へ行きたい。王家からまだ連絡が来ない。本当にフェレスの言う通り、王家は返事を渋っているのかと心配になる。


「そうですか……」


 しょんぼりと落ち込むエルサに苦笑した時だ、扉は開いたままなので「失礼します」と執事と発し、そのまま入った。手には王家の家紋が入った手紙を持って。


「エルサ様。王家から急ぎの手紙が届きました」


 ここでセラティーナではなく、エルサに持って行くのはセラティーナを下に見ている執事らしい。一瞬顔を歪めたエルサだが、セラティーナに首を振られ仕方なく何も言わなかった。
 手紙を受け取り困惑とした。


「どうしましょう……今お父様は領地に向かっているのに」
「速達往復便と一緒に王家からの手紙も速達便として同時に出しましょう」
「そうしましょうか」


 そうと決めれば、早速手紙を書く準備をしたエルサは午前におきたい出来事を素早く書き連ね、ルナリア家・グリージョ家・大聖堂に抗議を頼む旨を最後に締め括った。
 執事に速達往復便の手配を至急求め郵便へ走らせた。王家の手紙と自身の手紙を紐で結び、後は郵送鳥が来るのを待つのみ。


「王家の手紙とは、どんな内容でしょうか」
「その内分かるわ」
「お姉様は何かご存知なのですか?」
「エルサには、いつか私の秘密を教えてあげる」


 エルサが仲良くなりたいと言うのなら、フェレスやランス以外知らない前世がある自分を話したい。目を輝かせたエルサに「本当ですか?  絶対ですよ?」と確認され、絶対だと約束した。

 それから、執事が速達往復便専門の鳥を郵便から手配してもらい連れ帰った。帽子と黒眼鏡を掛けた鷲が背負う小さなリュックに大事な手紙を二つ入れた。


「私の魔力を好きなだけあげます。これで早くお父様に届けて」


 速達は鳥に魔力を与えることで早く届けさせる。魔力が多ければ多い程早く着く。幸い、両親が出発したのが今朝。領地へは王都から五日は掛かるのですぐに届けられる。エルサから多量の魔力を受け取り、鷲は羽先で黒眼鏡を上げると鋭い眼をキラリと光らせたのを二人に見せた。黒眼鏡を下げると助走をつけて飛んで行った。最初から猛速度で飛んで行った鷲を見届け、後は父からの返事を待つだけ。


 ――宿で夕食を摂り、一人テラスに出ていた父の頬すれすれで何かが飛んできた。勢いが良すぎて壁に激突した物体に「なんだ!?」と仰天していれば、砂塵から現れたのは速達専門の鷲。黒眼鏡を上げてドヤ顔を晒す鷲に苛立つつ、誰からの便りだとリュックを開けて手紙を取り出した。


「!」


 一つは王家からの、もう一つはエルサからの。
 まずは王家の、それからエルサの手紙を読み終えた。


「そうか……」


 父――ジグルドは鷲に好きなだけ魔力を与えて空へ飛ばした。


「セラティーナが……」


 生まれたばかりのセラティーナを見た時は絶望し、そして決意した。

 決してあの男に奪われてはならない。その為なら、敢えて悪役になってやると。

 既に元々いた婚約者から今の妻に乗り換えた時点で悪役だった。気にする必要はない。


「どうしても……母上やファラに似た子供が生まれるのを避けたかった」


 元々の婚約者は母の遠縁。万が一があっては駄目だからと何の血縁もない妻を選んだ。多少頭が足りなくても侯爵令嬢なら父が文句を言わないからと知っていたから。


「資格がなかろうと私にはセラティーナあれを守る義務がある」


 それがあの男の本性を見抜けず、ファラを犠牲にしてしまった自分への罰だった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

舞台装置は壊れました。

ひづき
恋愛
公爵令嬢は予定通り婚約者から破棄を言い渡された。 婚約者の隣に平民上がりの聖女がいることも予定通り。 『お前は未来の国王と王妃を舞台に押し上げるための装置に過ぎん。それをゆめゆめ忘れるな』 全てはセイレーンの父と王妃の書いた台本の筋書き通り─── ※一部過激な単語や設定があるため、R15(保険)とさせて頂きます 2020/10/30 お気に入り登録者数50超え、ありがとうございます(((o(*゚▽゚*)o))) 2020/11/08 舞台装置は壊れました。の続編に当たる『不確定要素は壊れました。』を公開したので、そちらも宜しくお願いします。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

【完結】オトナのお付き合いの彼を『友達』と呼んではいけないらしい(震え声)

佐倉えび
恋愛
貧乏子爵家の三女のミシェルは結婚する気がなく、父親に言われて仕方なく出席した夜会で助けてもらったことをきっかけに、騎士のレイモンドと大人の恋愛をしていた。そんな関係がずるずると続き、四年が経ってしまう。そろそろ潮時かと思っていたころ、レイモンドを「友達」と言ってしまい、それを本人に聞かれてしまった。あわや『わからせ』られてしまうかと身構えていたら、お誘いがパタリと止み、同時にレイモンドの結婚話が浮上する。いよいよレイモンドとの別れを覚悟したミシェルにも結婚話が浮上して……? 鈍感な我がままボディヒロイン×冷静沈着な計算高いどSヒーロー。 *ムーンライトノベルズにもタイトルを少し変更してR18版を掲載

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

そんなに悲劇のヒロインぶりたいなら手伝ってさしあげます

mios
恋愛
人の良い悪役令嬢が、自称ヒロインに自分を苛めるように言われて、そう言う特殊な性癖の方だと勘違いしたまま、学園総出でお手伝いした話。 12話完結+転生者それぞれの話+その後 *ツッコミ所はたくさんあると思いますが、生温かい目で読んでいただけるとありがたいです。 *21話で終了予定でしたが、マリィの今後を書きたくなったため、すこし続きます。 第二部はシスコン(若干)の話です。

処理中です...