41 / 109
何故そうなった?④
しおりを挟む多数の女性が集まっていた理由も、シュヴァルツとフェレス達が対峙していた理由も知れた。ルチアとセットなのはいつもなのでセラティーナは敢えて触れなかったが一人納得してない者がいた。
「お姉様はグリージョ様と聖女様が一緒にいて何とも思わなかったのですか?」
エルサだった。
「多少、思うところはあるけれど今更何を言っても仕方ないわ」
「お姉様に少しでも気があるなら、聖女様との関係を改めるべきですわ」
「どうかしら。私達が勝手にそう思っているだけでシュヴァルツ様はやっぱりルチア様が好きなのよ」
そうでなければ、毎月の決められたデートをすっぽかしてルチアとデートはしない。
個人的には無くても良いと考えていても、待ち合わせの場所に何時までも来ない相手を待ち続けるのは時間の無駄となってしまう。事前に連絡を入れてほしい。
ここで意見が出た通り、何時までも自分の側にあり続けると信じているから、急に離れていく様を見て焦りを覚えているのだとしたら、とんだ傲慢だと溜め息を吐く。
何度予想をしようと個人の気持ちは個人にしか理解は不可能。一旦、話題を変えるべくセラティーナは椅子から離れ窓に近付いた。先程の広場から組合へは然程距離はない。女性の集団はもういない。シュヴァルツとルチアの姿もない。フェレスやセラティーナがいなくなれば、あの場にいる理由もなくなる。
「エルサ。そろそろ私達はお暇しましょう。お買い物をしないといけないでしょう?」
「は、はい、お姉様」
二人がいないのならもう組合を出ても大丈夫だろう。フェレスとランスにそろそろ行くと告げた時だ、下の階が妙に騒がしいと気付いた。
気になってランスが先に個室を出て行った。
「はは」
急に笑い出したフェレスに驚くも「僕が二人を外へ送ろう」と言葉を発する間もなく転移魔法で組合の外に出ていた。瞬きを何度も繰り返すエルサを気にしつつ、強引過ぎるフェレスをキッと睨みつけた。
「可愛い顔が台無しだから、そう怒らないで」
「フェレスには、騒ぎが聞こえたのよね? 何があったの?」
「大した事じゃない。組合の依頼達成に納得がいかなかった客が酒気を纏って乱入しただけさ」
「もう」
それならそうと言ってほしい。組合に属する者は皆腕っ節が強い猛者ばかり。一般人の酔っ払いを相手にするのは下級魔物よりも簡単で御しやすい。心配不要だとフェレスに見送られてセラティーナとエルサは買い物を始めた。
「来て早々驚きの連続でしたね」
「そうね。さあ、気を取り直して買い物をしましょう。何処のお店に?」
「えっと」
一年前、エルサ自身の力で取引を始めたスイーツ店に行きたいとの事。貴族よりも平民からの人気が高く、良質なスイーツを提供するわりに多種類で手頃な価格で購入可能。
プラティーヌ商会に置くスイーツとして、貴族向けの品をいくつか作ってほしいと依頼していた。派手で豪華な見目と高級品が好きな貴族なら、多少値段を高く付けようと見栄っ張りだから必ず購入する。無論、見目だけではなく味も妥協しない。
今日は試作品を確かめる為に向かっている。
「どんなスイーツを頼んだの?」
「それについては店側に任せました。素人の意見より、プロの感性に任せればと。平民向けを多く作っている職人ですが元は貴族の屋敷で専門の菓子職人として働いていたそうなので任せて大丈夫かと判断しました」
「貴族の屋敷に仕えていたなら、自分で店を出すより安定しているとは思わなかったの?」
「確か、仕えていた主人が亡くなってご子息が後を継いだようなのですが合わなかったらしくて。それで屋敷勤めを辞めてお店を開いたと聞いています」
主人が亡くなったのは十年前、店を始めたのは七年前。軌道に乗り始めたのが六年前。安定した客数を確保し、現在に至る。
「あそこです」とエルサが示したのは、壁全体が緑色の店。ドアノブに下げてある『OPEN』のカードに目をやり、いざ、扉を開けようとドアノブに手を掛ける前に開いた。
店内から現れた男女は——シュヴァルツとルチアだった。
シュヴァルツの腕に抱き着き、うっとりと頬を寄せるルチアと冷たい灰色の瞳を前に向けていたシュヴァルツの表情が固まった。
——どうしてこうなるの
内心溜め息を吐き、同じく固まるエルサを後ろにやったセラティーナは二人へ笑みを見せた。誰が見ても美しく、何の感情も宿っていない無の笑みを。
一気に表情を強張らせ、冷たさが増した灰色の瞳が射抜いてくる。
「あら、セラティーナ様とエルサ様ではありませんか。先程は急に姿が消えてびっくりしたのよ? ねえ、シュヴァルツ」
「ああ」
「いなくなるのなら、挨拶をしてからではなくて? 礼儀と信用第一を大切にしているプラティーヌ家のご令嬢とは思えません」
後ろに立たせたエルサから苛立ちと怒りが伝わる。言われ放題なのはセラティーナも嫌。シュヴァルツを見てもセラティーナを責める視線を貰っただけ。小さく息を吐いて二人へ微笑む。
「ならシュヴァルツ様。今度から、婚約者として決められた約束よりルチア様を優先なさる時は、必ず事前に連絡をくださいね。約束をすっぽかされた挙句、会っても嬉しいと思わないシュヴァルツ様を無駄に待たされる私の身にもなってください」
「なっ! あ、貴女シュヴァルツに対して失礼よ! 謝りなさい!」
「思ったことは口に出してしまう性分なので」
悪びれもせず、堂々と言ってのけたセラティーナは言われた本人以上に怒りを露わにするルチアを一瞥するだけで、シュヴァルツに目を向ける。気のせいか、傷付いた面持ちをしている。何故? と小首を傾げると急にルチアが動き出した。
反応が遅れたシュヴァルツが手を伸ばすもルチアには届かず、同じく反応が遅れたセラティーナは振り上げられた手を避けられず頬を打たれたのだった。
228
お気に入りに追加
8,565
あなたにおすすめの小説
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
旦那様、離縁の申し出承りますわ
ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」
大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。
領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。
旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。
その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。
離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに!
*女性軽視の言葉が一部あります(すみません)
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。
木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。
「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」
シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。
妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。
でも、それなら側妃でいいのではありませんか?
どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる