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何故そうなった?③

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 組合内の個室に入ると早速時間停止を解いたフェレス。四人は椅子に腰掛け、先程の騒動の理由をランスが語った。


「俺とフェレスで調査をしている最中に、グリージョ公爵家の坊ちゃんが聖女様付きで突っ掛かってきてな」


 この場に妖精狩の事件を調査していると知らないエルサがいる為、敢えて何の調査かは言わなかった。

 シュヴァルツが突っ掛かったのは正確に言えばフェレスだ。
 聖女付きなのはいつもの事だからとセラティーナは訊ねなかった。理由を聞かれると用意していた言葉を述べ、同情の眼を向けられるも気にせず話を聞き続けた。


「第二皇女と帝国へ戻った筈の僕がいて気になったんだよ、彼は。君にちょっかいを掛ける僕がね」
「ちょっかい?」


 少し敵意が滲んでいるエルサの目がフェレスとセラティーナを交互に見やる。変な意味じゃないとエルサを落ち着かせ、続きを促した。


「シュヴァルツ様はカエルレウム卿に何か言いましたか?」
「うん? さっき言った通り、彼は帝国に戻った僕がいる理由を訊ねたよ」
「で、こいつはな……」


 曰く、赤の他人の君には関係ないと突き放した。そこまでは若干の苛立ちをシュヴァルツが感じただけで良かったのだが。問題はその先。


「聖女様と一緒にいるのを見て、お嬢さんと聖女様どっちが婚約者か分からないって煽ったんだ」
「……煽っているのですか?」


 常日頃からセラティーナが持っている疑問だ。フェレスが代弁しただけに過ぎない。


「全然煽っていませんわ。わたくしだってそう思いますもの」
「うーん。私達がそうでも、シュヴァルツ様はそうではなかったのね」
「何故ですか! 指摘されて苛立つくらいなら、最初からお姉様をちゃんと婚約者として扱っていれば良かっただけではありませんか!」
「仕方ないわ。シュヴァルツ様とルチア様は、幼少期から相思相愛の二人だと周囲に認識され、本人達もそう認識している関係ですもの。私という婚約者がいても人の気持ちというのは簡単には変えられない」
「そんなのでよく貴族や聖女が務まりますわね!」


 怒らないセラティーナの代わりにエルサが怒っているのを不思議そうに見つめるランス。集めた情報によると姉妹仲は悪いと、特に妹エルサが姉セラティーナを嫌っているとあったが実物を見ていると全然違うと実感させられた。

 苦笑したセラティーナは何故平気なのかと問われ、一寸考えた後答えた。


「シュヴァルツ様とルチア様が相思相愛の二人だと最初から知っていたから、かしら。もしも、シュヴァルツ様がルチア様への気持ちにけじめをつけて、私をあくまで婚約者として認識してくれていたら多少の情はあったかもしれない。でも、初対面の時から見せられてる嫌嫌顔を思い出すと……とてもシュヴァルツ様を好きになれなかったの」


 好きになろうと努力はしてみたが、肝心のシュヴァルツが全く気持ちを返さないどころか、何年も態度を改めないのできっぱりと諦めた。王国の貴族で最も婚約解消を願っているのはセラティーナと言っても過言じゃない。


「じゃあ、一度もグリージョ様を好きになった事がないのですか?」
「そうね。全く。好きになれなくても家族として、パートナーとしてお互いを見ませんかと提案してもシュヴァルツ様はルチア様ではないと駄目みたい。私が何を言っても聞き入れてもらえなかった」
「グリージョ様が今になってお姉様を気にし出したのは、そこの帝国の方がお姉様にちょっかいを掛けたからですか?」
「え、ええ、まあ」


 ぼやかして言えばそうなる。帝国の人、という情報しか与えていないエルサに、フェレスが皇帝が最も信頼している妖精の魔法使いだと説明した。凡そ三百年以上は生きる古い魔法使いとも付け加えると「三百? お前はせん――」と何かを言い掛けたランスの口はフェレスによって強制的に閉ざされた。声が出ない状態で抗議をされてもフェレスは右から左へ流した。


「ずっと側にあると思い込んでいたのに、急に離れると思って焦っているんだよ、彼は」
「そんなのグリージョ様の都合ではないですか。聖女様が良いなら、自分の気持ちをずっと貫くべきです」
「目の前に大事な物があっても、近くにそれ以上の価値ある物があると目が移ってしまうのさ。ずっと側にあり続けると思い込んでいると尚更手放したくないのさ」


 あまりにも身勝手な話であり、逆にルチアに対しても不誠実な話。問題はシュヴァルツ自身が自覚しているかどうかだが、様子を見ていると多分無自覚なのだと推測する。

 時間停止が解かれた今頃、近くにいた筈のセラティーナ達が消えてシュヴァルツは大層慌てているだろう。まさかルチアを置いて探し出したりはしないだろうが行方を気にしてはいそうだ。先日の小パーティーの件を知りたがる手紙の中にシュヴァルツの手紙が無かったのは幸いだ。現場では気にしても、冷静に考えると必要がないと判断したのだろう。


「ところで、大勢の女性達に囲まれていたのはどうしてなの?」


 もう一つの気になる疑問を出すとランスは呆れた目をフェレスにやった。


「二人が見ての通り、妖精族なだけあってフェレスはかなりの美形だろう? その美形振りに女達をホイホイしちまったわけだ」
「ホイホイ……」

「なんだか虫ホイホイみたいね」と言うエルサの感想に「僕を蜂蜜か何かと勘違いしてない?」と若干不満を露にしたフェレスであった。


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