上 下
40 / 105

何故そうなった?③

しおりを挟む


 組合内の個室に入ると早速時間停止を解いたフェレス。四人は椅子に腰掛け、先程の騒動の理由をランスが語った。


「俺とフェレスで調査をしている最中に、グリージョ公爵家の坊ちゃんが聖女様付きで突っ掛かってきてな」


 この場に妖精狩の事件を調査していると知らないエルサがいる為、敢えて何の調査かは言わなかった。

 シュヴァルツが突っ掛かったのは正確に言えばフェレスだ。
 聖女付きなのはいつもの事だからとセラティーナは訊ねなかった。理由を聞かれると用意していた言葉を述べ、同情の眼を向けられるも気にせず話を聞き続けた。


「第二皇女と帝国へ戻った筈の僕がいて気になったんだよ、彼は。君にちょっかいを掛ける僕がね」
「ちょっかい?」


 少し敵意が滲んでいるエルサの目がフェレスとセラティーナを交互に見やる。変な意味じゃないとエルサを落ち着かせ、続きを促した。


「シュヴァルツ様はカエルレウム卿に何か言いましたか?」
「うん? さっき言った通り、彼は帝国に戻った僕がいる理由を訊ねたよ」
「で、こいつはな……」


 曰く、赤の他人の君には関係ないと突き放した。そこまでは若干の苛立ちをシュヴァルツが感じただけで良かったのだが。問題はその先。


「聖女様と一緒にいるのを見て、お嬢さんと聖女様どっちが婚約者か分からないって煽ったんだ」
「……煽っているのですか?」


 常日頃からセラティーナが持っている疑問だ。フェレスが代弁しただけに過ぎない。


「全然煽っていませんわ。わたくしだってそう思いますもの」
「うーん。私達がそうでも、シュヴァルツ様はそうではなかったのね」
「何故ですか! 指摘されて苛立つくらいなら、最初からお姉様をちゃんと婚約者として扱っていれば良かっただけではありませんか!」
「仕方ないわ。シュヴァルツ様とルチア様は、幼少期から相思相愛の二人だと周囲に認識され、本人達もそう認識している関係ですもの。私という婚約者がいても人の気持ちというのは簡単には変えられない」
「そんなのでよく貴族や聖女が務まりますわね!」


 怒らないセラティーナの代わりにエルサが怒っているのを不思議そうに見つめるランス。集めた情報によると姉妹仲は悪いと、特に妹エルサが姉セラティーナを嫌っているとあったが実物を見ていると全然違うと実感させられた。

 苦笑したセラティーナは何故平気なのかと問われ、一寸考えた後答えた。


「シュヴァルツ様とルチア様が相思相愛の二人だと最初から知っていたから、かしら。もしも、シュヴァルツ様がルチア様への気持ちにけじめをつけて、私をあくまで婚約者として認識してくれていたら多少の情はあったかもしれない。でも、初対面の時から見せられてる嫌嫌顔を思い出すと……とてもシュヴァルツ様を好きになれなかったの」


 好きになろうと努力はしてみたが、肝心のシュヴァルツが全く気持ちを返さないどころか、何年も態度を改めないのできっぱりと諦めた。王国の貴族で最も婚約解消を願っているのはセラティーナと言っても過言じゃない。


「じゃあ、一度もグリージョ様を好きになった事がないのですか?」
「そうね。全く。好きになれなくても家族として、パートナーとしてお互いを見ませんかと提案してもシュヴァルツ様はルチア様ではないと駄目みたい。私が何を言っても聞き入れてもらえなかった」
「グリージョ様が今になってお姉様を気にし出したのは、そこの帝国の方がお姉様にちょっかいを掛けたからですか?」
「え、ええ、まあ」


 ぼやかして言えばそうなる。帝国の人、という情報しか与えていないエルサに、フェレスが皇帝が最も信頼している妖精の魔法使いだと説明した。凡そ三百年以上は生きる古い魔法使いとも付け加えると「三百? お前はせん――」と何かを言い掛けたランスの口はフェレスによって強制的に閉ざされた。声が出ない状態で抗議をされてもフェレスは右から左へ流した。


「ずっと側にあると思い込んでいたのに、急に離れると思って焦っているんだよ、彼は」
「そんなのグリージョ様の都合ではないですか。聖女様が良いなら、自分の気持ちをずっと貫くべきです」
「目の前に大事な物があっても、近くにそれ以上の価値ある物があると目が移ってしまうのさ。ずっと側にあり続けると思い込んでいると尚更手放したくないのさ」


 あまりにも身勝手な話であり、逆にルチアに対しても不誠実な話。問題はシュヴァルツ自身が自覚しているかどうかだが、様子を見ていると多分無自覚なのだと推測する。

 時間停止が解かれた今頃、近くにいた筈のセラティーナ達が消えてシュヴァルツは大層慌てているだろう。まさかルチアを置いて探し出したりはしないだろうが行方を気にしてはいそうだ。先日の小パーティーの件を知りたがる手紙の中にシュヴァルツの手紙が無かったのは幸いだ。現場では気にしても、冷静に考えると必要がないと判断したのだろう。


「ところで、大勢の女性達に囲まれていたのはどうしてなの?」


 もう一つの気になる疑問を出すとランスは呆れた目をフェレスにやった。


「二人が見ての通り、妖精族なだけあってフェレスはかなりの美形だろう? その美形振りに女達をホイホイしちまったわけだ」
「ホイホイ……」

「なんだか虫ホイホイみたいね」と言うエルサの感想に「僕を蜂蜜か何かと勘違いしてない?」と若干不満を露にしたフェレスであった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

妹に一度殺された。明日結婚するはずの死に戻り公爵令嬢は、もう二度と死にたくない。

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
恋愛
婚約者アルフレッドとの結婚を明日に控えた、公爵令嬢のバレッタ。 しかしその夜、無惨にも殺害されてしまう。 それを指示したのは、妹であるエライザであった。 姉が幸せになることを憎んだのだ。 容姿が整っていることから皆や父に気に入られてきた妹と、 顔が醜いことから蔑まされてきた自分。 やっとそのしがらみから逃れられる、そう思った矢先の突然の死だった。 しかし、バレッタは甦る。死に戻りにより、殺される数時間前へと時間を遡ったのだ。 幸せな結婚式を迎えるため、己のこれまでを精算するため、バレッタは妹、協力者である父を捕まえ処罰するべく動き出す。 もう二度と死なない。 そう、心に決めて。

妹に出ていけと言われたので守護霊を全員引き連れて出ていきます

兎屋亀吉
恋愛
ヨナーク伯爵家の令嬢アリシアは幼い頃に顔に大怪我を負ってから、霊を視認し使役する能力を身に着けていた。顔の傷によって政略結婚の駒としては使えなくなってしまったアリシアは当然のように冷遇されたが、アリシアを守る守護霊の力によって生活はどんどん豊かになっていった。しかしそんなある日、アリシアの父アビゲイルが亡くなる。次に伯爵家当主となったのはアリシアの妹ミーシャのところに婿入りしていたケインという男。ミーシャとケインはアリシアのことを邪魔に思っており、アリシアは着の身着のままの状態で伯爵家から放り出されてしまう。そこからヨナーク伯爵家の没落が始まった。

婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。

アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。 いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。 だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・ 「いつわたしが婚約破棄すると言った?」 私に飽きたんじゃなかったんですか!? …………………………… 6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

【完結】冷遇された翡翠の令嬢は二度と貴方と婚約致しません!

ユユ
恋愛
酷い人生だった。 神様なんていないと思った。 死にゆく中、今まで必死に祈っていた自分が愚かに感じた。 苦しみながら意識を失ったはずが、起きたら婚約前だった。 絶対にあの男とは婚約しないと決めた。 そして未来に起きることに向けて対策をすることにした。 * 完結保証あり。 * 作り話です。 * 巻き戻りの話です。 * 処刑描写あり。 * R18は保険程度。 暇つぶしにどうぞ。

恋敵にとある言葉を言った婚約者を捨てました

恋愛
『麗しの貴公子』の名を持つルドヴィクの婚約者リリン=ベリは、初対面の際ルドヴィクに「くさい」と言われてしまう。こんなのと婚約をするのは嫌だと叫ぶが両家の事情で婚約者になってしまう。 実はリリンは淫魔の母を持つ。聖女の末裔でその血が濃いルドヴィクは拒否反応を無意識に発動していた。 初対面の失言からはルドヴィクの誠意ある謝罪や婚約者として大切にしてくれる姿勢から、ルドヴィクを許し恋心を抱いていたリリン。 しかし、リリンを嫉視する王女にリリンの事が「くさい」とルドヴィクが話してしまったのを聞いてしまい、我慢の限界が来てルドヴィクが王都にいない間に婚約を解消した。 婚約を解消しても復縁をしつこく望むルドヴィクに苛立ち、リリンは長年愚痴を聞いてもらっている現婚約者が昼寝をしている所に現れたのである。 ※小説家になろうでも公開しています。

処理中です...