婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

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何故そうなった?①

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 次の日の朝は普通に目を覚まし、部屋を訪れたナディアと共に準備を終え、朝食の為に食堂へと足を運んだ。昨夜フェレスが訪れたと知るのはセラティーナ以外誰もいない。クローゼットの奥に仕舞った上着は何時返そうかと考えている内に食堂に着き、いつも通りの席に座った。両親は朝早くから出発している為、今日から暫くはエルサと二人だけの食事となる。
 セラティーナが席に着くと朝食が運ばれてくる。今朝の飲み物は紅茶を頼み、砂糖を少々入れた。エルサは珈琲でミルクと砂糖をたっぷりと入れていた。
 今朝はパンケーキとベーコンエッグ、サラダとスープ。サラダから頂こうと手を伸ばし、ドレッシングは? と給仕に訊ねられ不要だと皿を手に取った。野菜だけの味を味わいたい時もある。


「セラティーナ様。旦那様より言伝を預かっております」


 そう言って前に出たのは執事。言伝? と聞き返すとグリージョ公爵邸には、たとえ招待されようとも理由を付けて行くなというもの。昨日といい、父はどこか変だ。今までグリージョ公爵邸に行くなと言った事はないのに。


「お父様から理由は聞いてない?」
「いえ……ただ、絶対に行くなとしか」
「そう」


 グリージョ公爵アベラルドと父ジグルドは幼少期から交流のある友人で、夭折した叔母ファラもアベラルドと親しかったと聞く。二人の関係が険悪になったとも特に聞かない。ただ、良好だったかと言われるとこれも微妙だ。良くもなく、悪くもない。


「他に何か言ってなかった?」
「私は何も」


 執事に訊ねてもこれ以上は聞けない。今日で三日目。王家は父に報せていない可能性が強まった。セラティーナから返事を催促する真似は不可能だ。フェレスは妖精狩の事件を調査する為に組合に滞在している。この後、理由を付けて屋敷を出よう。
 そう決めると朝食を食べるスピードを速め、部屋に戻り次第出掛ける準備を――と考えたところで隣のエルサからある提案をされた。


「お姉様、この後ご予定は?」
「どうして」
「そ、その、わたくし、お買い物に行きたいのですがお母様がいないのでお姉様に付いて来てほしいのです。お母様がいないので仕方なくお姉様に頼んでいるんです」


 そこはセラティーナよりも専属の召使を連れて行けば良いのでは? と思うも、自分を見つめるエルサの瞳はどこか不安げだ。まるで、断られるのを怖がっているような。


「……」


 組合にフェレスがいるのなら、直接会いに行かなくても通信鳩を飛ばせば済む話。エルサからのお誘いを断るのはセラティーナとて本意じゃない。


「ええ、一緒に行きましょう」


 何より、妹の願いは叶えてやりたい。本人から嫌われていても。
「!」


 了解されるとは思われていなかったのか、不安な表情から明るい表情に変わったエルサは「絶対ですよ!?」と何度も念を押してくる。約束を守らない人間に見られているのかと少し落ち込むも、朝食を食べ終えたら準備をしましょうと笑んだ。


「さあ、早く食べて出かけましょう」
「! はい!」


 機嫌が悪くなったり、良くなったり。
 シュヴァルツと同じくらいエルサもよく分からないが、シュヴァルツとの違いは一つ。エルサには妹としての愛情を持っている、という点。


 朝食を食べ終えた二人は一旦私室に戻り、出掛ける準備をした。
 セラティーナは外出時に着る菫色のワンピースにレースと白い花のヘッドドレスを選んだ。自身で商会から購入した品で珍しく父に誉められた。商品を見る目は家を継ぐエルサだけではなく、セラティーナも教育を施された。母はセラティーナには不要だとしていたが、プラティーヌ家の者なら商品の価値を分かる目を持てと父は切り捨てた。嫌われていても教育だけは受けさせてくれる父には感謝している。他の点についてはノーコメントだが。

 玄関ホールへ行くと既にエルサが待っていた。エルサはグリーンのロングスカートに白いカーディガンを着ていた。今日は二人とも平民にも見られる服を選んだという訳だ。首飾りはセラティーナが妖精の粉と祝福を掛けたサファイア。よく似合っているとエルサは顔を赤らめ小声で「ありがとう……ございます……」と言う。

 微笑ましく見つめつつ、行きましょうと促し外に出た。
 馬車に乗り込み、街の広場に停めるよう御者に指示をした。到着すると一部分だけ人がかなり多い。それも若い女性ばかり。中には貴族の令嬢と思しき姿まで。


「あの人だかりは?」
「何でしょうね。私達も見てみましょう」
「はい。お姉様」


 エルサと二人、人だかりの方へ行ったセラティーナは女性達の視線の先にいたフェレスとランス、それにシュヴァルツに悲鳴を上げそうになった。
 シュヴァルツの側にルチアがいるのはお馴染みなので敢えてスルーをした……。



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