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お断り
しおりを挟む「はあ……」
昨日の今日でセラティーナ宛に送られた手紙の数に溜め息しか出ない。どれも昨日の小パーティーに出席した令嬢達からの招待状。美貌の帝国の魔法使いに求められた理由を知りたがっている。昼に多くの招待状がセラティーナ宛に届いた事はナディアだけが知っている。幸い、あの執事は父にも母にも報告しなかったようだ。知らされた時は不思議で笑ってしまった。思ったことをそのままナディアに話すと微妙な表情を浮かべられた。
「如何なさいますか?」
「全てお断りの返事を出すから、新しい便箋を持って来て」
「はい」
招待に応じるつもりも話すつもりもない。家格はプラティーヌ家が上。全て拒否は可能だ。中にはルチアからの招待状もあるから驚きである。フェレスは、唯一あの場で喜びの気配を纏っていたのがルチアだと教えてくれた。
長年の愛する人から漸く邪魔者が消える。嬉しくない訳がない。
ナディアから便箋を受け取ると机に座り直し、羽ペンを手に取り全てに返事を書いた。
それぞれに書いた便箋を封筒に一つずつ入れ、封蝋を押し、宛名と差出人を書き終えナディアに託した。
「これを全部、今日中に郵便配達人に渡してきて」
「分かりました」
「それとお遣いを頼んでいいかしら?」
「なんなりと」
「また、オペラを買ってきてほしいの」
この間食べたばかりなのに、またすぐに食べたくなってしまった。苦笑するセラティーナに「お嬢様の為に一番美味しいオペラを買ってきます」と張り切ってナディアは行ってしまった。
部屋に一人となり、この後はオペラを食べながら考えようとセラティーナは伸びをする。もう皇帝の手紙が国王に届いている頃だろうか。隣国との関係を考えると国王は了解するだろう。ただ、その前に両家に確認を取るべく呼び出しは必ずある。
「その時、お父様やグリージョ公爵が何と言うかね」
父は両手を挙げて喜んでくれそうで、グリージョ公爵は反対しそうである。
●○●○●○
信じられないわ! と不機嫌を露にし、出された紅茶を飲み干すルチア。シュヴァルツをルナリア邸に招待し、一緒にお茶を飲んでいた。先程、ルナリア家の執事がセラティーナの手紙を持ってきた。シュヴァルツが訝しげに見ているなか、手紙と共に受け取ったペーパーナイフで封を切り、中身を取り出した。二つに折り畳まれている手紙の内容に憤慨した。
「セラティーナに何を送ったんだ?」
「昨日の事に決まってるじゃない。セラティーナ様が帝国の魔法使いに気に入られた理由が知りたいの!」
「……」
シュヴァルツの表情が曇る。が、ルチアは気付かない。招待を断られプリプリ怒っている。
「私は聖女なのよ? 私の招待を断るなんて」
「ルチア。君が聖女でも、家格はプラティーヌ家が上だ。貴族なら、自分の不満をそう簡単には出すものじゃない」
「むう……」
正論を紡がれ、拗ねた面持ちをするルチアだったがシュヴァルツが言うならとセラティーナの返事を執事に渡した。
「シュヴァルツだって気になるでしょう?」
「……ああ、まあ……」
「シュヴァルツが聞いてよ。セラティーナ様、シュヴァルツの事が好きだからシュヴァルツの言葉なら何でも聞いてくれるわ!」
「……」
「私とシュヴァルツは両思いでセラティーナ様が入る余地なんてないのに。ふふ! でも、それだけシュヴァルツが魅力的って事だもの。セラティーナ様に譲る訳にはいかないけど私まで誇らしくなっちゃう」
「……そうか」
沈黙したり、微妙な間を開けるシュヴァルツにルチアは気付かず、好きに言葉を紡ぐ。
「グリージョ公爵様だって、セラティーナ様が帝国の魔法使いに気に入られたのなら絶対に婚約解消をしてくださる筈だわ! そう思わない?」
「え、あ、ああ」
――きっと父は反対するだろう……
父にとって、待ちに待ち望んだ存在がセラティーナ。王国一の財力を持つプラティーヌ家の娘で魔法の才能を持つ。次に生まれるまで何十年掛かるか不明な相手を根気よく待つ者はいない。
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