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会場では
しおりを挟む突然帝国の魔法使いが相思相愛の二人を引き裂くセラティーナを連れ出してしまい、会場にいた者達の視線は暫く二人が消えた奥へ動けなかった。
夜空に浮かぶ無数の星々の輝きを放つ銀糸に月を宿す濃い青の瞳の美しい男性。そんな男性に蕩けてしまう甘い瞳を向けられ、はにかんだ笑みを見せたセラティーナを見て衝撃が走ったのは言うまでもない。セラティーナと言えば、常に無表情で何を考えているか分からない令嬢だ。王国一の財力を持つプラティーヌ家に生まれるも、魔法使いの才能があるせいで両親には疎まれ、両想いの女性がいるのにシュヴァルツと婚約した空気の読めない女だと笑われていた。二人の婚約はグリージョ公爵が強く望んだのに、王太子とルチアの婚約が無くなると相思相愛の二人を引き裂く悪女だといつの間にか悪評が社交界に広がった。
セラティーナ自身、ルチアに何もしてない。ルチアも自分からセラティーナに近付いたりしない。
婚約解消をしないのはセラティーナがシュヴァルツを愛しているから、というのが彼等の認識。実際は全然違う。そうと知る者はほぼいない。
「カエルレウム卿ってあんな風に笑うのね……知らなかった」と零したのはエステリーゼ。隣にいたローウェンに「卿は滅多に笑わないのかい?」と訊ねられ、緩く首を振った。
「そういうわけではありませんが卿の笑う姿は、殆ど感情が読めないものばかりでした」
だから、誰の目から見てもセラティーナを特別視している笑みを見せたフェレスにただただ驚いている。
「カエルレウム卿はセラティーナ嬢を気に入ったと……?」
「かもしれません……」
ローウェンとエステリーゼ。二人の視線が同時にシュヴァルツの方へ移動した。腕にルチアが抱き付いているから、奥へ行ってしまって追い掛けようとしているシュヴァルツは身動きが取れない。意外だとローウェンは目を丸くした。何を置いてもルチアを最優先にしてきたシュヴァルツがセラティーナを気にしだした。あんな愛らしい微笑みを見てしまうと、好きではなくても側に他の異性があると焦ってしまうものらしい。
「あ」
腕に抱き付いているルチアの手を解き、セラティーナとフェレスの後をシュヴァルツは急いで追い掛けて行った。一人残されると予想だにしていなかったルチアはプルプルと震え、両手で顔を覆い泣き出してしまった。周囲にいる令嬢達がルチアを慰める。
「大丈夫かしら……」
「これは……何と言うか修羅場だな」
今までセラティーナを気にしていなかったシュヴァルツの突然の変異には、誰もが驚くしかなかった。
「カエルレウム卿には、後で理由を訊ねようと思うが皇女はどう思う?」
「私も賛成です。卿があんな風に女性を誘っている姿を見るのは初めてです。五十年程前に、奥様を亡くされてもずっと奥様を想っている方ですから」
帝国の魔法使いになったのも、先々代の皇帝と親しかった妖精の紹介が始まりだとエステリーゼは聞いていた。第三皇女が帝国一フェレスに懸想しているが全く見向きもされない。妹がこの場にいなくて心底良かったとエステリーゼは安堵する。もしもいたら、セラティーナに何をするか分かったものじゃない。
どんな美女や美少女に秋波を送られても全く気にしなかったフェレスの行動をしかと見続ける義務が生じてしまった。
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