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気になって仕方ないみたいだ
しおりを挟む昨夜はフェレスの急な訪問を受け驚いたが、彼に会いたい気持ちはずっとあったからセラティーナも会えて嬉しかった。
翌日になり、シュヴァルツの迎えに応じ共にグリージョ家の馬車で登城した。随分急な招待は、多分王太子の思い付きだろうとシュヴァルツは溜め息と共に吐いた。優秀ではあるが時折こうした思い付きを披露するのが困ったところだ。
側近であるシュヴァルツも何度か振り回されている。小パーティーと言えども招待されている面子は、誰も彼も将来当主になったり、重要な役職に就く者ばかり。
会場は庭園。王妃お気に入りの庭園でという事は、第二皇女と王妃の関係も良好という辺りだろうか。
受付を済ませると庭園に足を運んだ。既に何組かは到着しており、思い思いに過ごしている。
「シュヴァルツ、セラティーナ嬢」
先ずはローウェンとエステリーゼへの挨拶が先だと二人を探そうとした矢先、向こうが先にシュヴァルツとセラティーナに気付いた。気安く声を掛けたローウェンに二人は礼を取った。
「殿下、この度はご招待——」
「ああ、いいよいいよ。お前と私の仲なんだ、そう堅苦しい挨拶はいい」
「殿下」
窘めるような口調のシュヴァルツに気にしない気にしないとローウェンは朗らかに笑みを見せる。次にセラティーナに視線を向けた。
「セラティーナ嬢も、今日は楽しんで」
「ありがとうございます」
見目は王子様と言われても全く違和感のない人。文武両道で将来の国王として臣下や平民にも篤い信頼を寄せられている。隣にいるエステリーゼが一歩前に出た。
「リンレイ帝国第二皇女エステリーゼ=リンレイです。お二人にお会い出来て光栄です」
エステリーゼに倣い、二人も自己紹介をする。皇女の後ろには護衛騎士がいる。そこにフェレスの姿はない。何処にいるのかと気になるがどうせ後で一人になる。その時にフェレスを探す。
「本当は、先日のローウェン殿下の誕生日パーティーに出席したかったのですが……私も運がありませんわ」
「そんな事ないさ。私も不運な目にはよく遭うから」
第三者の目から見ても二人の関係は良好だ。そろそろ別の招待客の方へ行くよ、とローウェンはエステリーゼを連れて離れて行った。
「シュヴァルツ様はどうしますか?」
大体、普段ならここから別行動となる。ルチアの姿は……あった。令嬢と輪を作って会話をしていた。見ていると桃色の瞳がシュヴァルツとセラティーナに向いた。
シュヴァルツの顔を見るなり、周囲に小花を咲かせる笑顔を見せ、令嬢達に断りを入れ此方へとやって来た。
「シュヴァルツ! 待っていたのよ」
「ルチア」
「もう、昨日わたしと一緒に行きましょうと言ったのにセラティーナ様と来るだなんて酷いわ」
「ルチア……」
昨日、ということは屋敷に戻ってルチアと会っていたらしい。多分、ルチアがグリージョ邸にいたのだろう。公爵夫人ともルチアは仲良しだから。
チラリと桃色の瞳がセラティーナに向く。シュヴァルツに向ける愛らしい瞳はどこへやら、嫉妬に濡れた瞳に小さく息を吐いた。腕をルチアに引っ張られ、この場から離れるシュヴァルツは気まずげにセラティーナを見てきた。もう慣れているセラティーナは小さく頭を下げ、壁側に移動した。
そしてあちこちから聞こえる嘲笑と好奇な視線にまた溜め息を吐いた。シュヴァルツの真意はどうであれ、婚約解消だけは絶対にしたい。給仕にジュースを勧められ、グラスを受け取った。
——美味しい
甘酸っぱいベリーのジュース。飲みやすく、気付くと半分以上飲んでいた。製造場所は何処かと気になってしまう。
「そこのレディ」
「!」
この声は……。
すっかりとベリージュースに夢中になっていたセラティーナは目前にフェレスがいると気付けなかった。月が宿った濃い青の瞳に自分が映っている。甘く、蕩けてしまいそうな視線に頬が熱くなる。
「一人なら、僕の話し相手になっていただけませんか?」
会場ではあくまで初対面の他人の振りを、というセラティーナの希望をフェレスは叶えてくれている。なら、セラティーナも同様に振る舞うのみ。
「ええ、喜んで」
グラスをテーブルに置き、差し出された手を取った。周囲の視線が嘲笑から驚きへと変わり、どれも好奇に満ち溢れた。皇女の護衛の魔法使いが悪女を誘った。
フェレスに連れ出される間際、セラティーナの視界の端に映った。ルチアを腕に抱き着かせているシュヴァルツの灰色の瞳が驚愕に染まっていた。ルチアの腕を解き、此方へ来ようと動き出したのをフェレスも見ていたのか、小声で呪文を唱えシュヴァルツの動きを封じた。体の動きを止められ、動揺している内にフェレスと庭園の奥へ行った。
ある程度の距離を歩くと足が止まり、フェレスが振り向いた。
「セラ。君に会いたかった」
「昨日の夜、会ったばかりじゃない」
「それでも、だよ」
「ふふ」
愛しい気持ちが溢れて止まらない。優しく抱き締められ、大きな背に腕を回した。
「君の婚約者は、僕が君に接触するのを嫌がっているようだ」
「どうしてかしらね」
心底不思議だ。
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