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二人だけで夕食➀
しおりを挟む「お、お姉様」
「ん?」
シュヴァルツに馬車で送られ、屋敷に着いたセラティーナは私室へと歩いていた。ナディアには到着して早々薬草茶の手配を頼んだ。部屋に戻り薬草茶を飲んだら仮眠を取ろうと考えながら歩いていたらエルサに呼び止められた。ゆっくりと振り向くと此方に近付き「今夜はわたくしとお父様達は外食になりましたので、お姉様は一人寂しく食堂で食べて下さい」と勝ち誇った笑みで宣言された。
一人なら静かに食べられる。ただ、一人だと私室で摂った方が楽だ。
「あ、でも、どうしてもお姉様も行きたいと言うなら、わたくしからお母様やお父様に言わないでもないですよ」
「楽しんできてね」
「はいもちろん。……って、行きたいと思わないのですか?」
「ええ。料理長の作るお料理の方が私は好きだから」
「あ……そうですか……」
とぼとぼと落ち込んだ様子で行ってしまったエルサに内心首を傾げつつ、出掛ける頃には機嫌も治っているだろうとセラティーナは特に気にせず部屋に戻った。思いの外デートが早く終わったので時間が余った。本格的に王国を去る準備をしよう。昨日作った売却リストを机に並べ、更に必要のない物を書き出していく。毎月決まったお小遣いをもらっており、無駄遣いをしないセラティーナは多額の貯金がある。嫌っているわりに淑女教育、商売に関する知識、ダンスやマナーレッスン、それに魔法教育も受けさせてもらった。母は反対していた。だが、父がやれと言えば受け入れるしかない。
魔法を嫌っているのに魔法教育に最も時間も金も掛けたのは父だ。実は魔法が好き、なんて事もない。本気で魔法を嫌っている。魔力はあっても魔法を使えない一族。それがプラティーヌ家。
「そういえば」
セラティーナ程に魔法の才能はないにしろ、プラティーヌ家出身者では魔法が得意な人がいた。父の妹ファラ=プラティーヌ。セラティーナと同じプラチナブロンドに青の瞳の美しい女性だが既にこの世を去っている。なので、一度も会ったことがない。病死と聞かされており、毎年命日になると領地へ墓参りに行く。叔母の好きだった花を毎年父は公爵邸に届けさせている。兄妹の仲はよく知らない。ただ、やはり父は魔法が得意だった妹を疎んではいたようだ。
叔母の話をすると急に機嫌が悪くなる。溺愛しているエルサにも同じ態度を取るので基本叔母の話題は出さないよう心掛けている。
他人の思考を完璧に読み取れる者はいない。魔法を嫌っているのに、教育には惜しみなく金を掛ける父の思考は。
セラティーナは考えを変えようと小さく頭を振り、帝国へ移住した際のしてみたい事を考えてみた。
前世では妖精や人間が持って来る依頼を熟すフェレスの帰りを待つ間、家事に勤しんだ記憶しかない。金銭面で一切苦労しなかったのもあり働いた経験もない。今回は魔法薬を作り、実際に販売してみたい。
以前考えたポーションやヒーリングサブレが妥当だろうか。
二つとも、材料は比較的簡単に手に入る分、作り手によって品質は大きく異なる。錬金術での生産も良いけれど、複雑な魔法式を使い魔法で作るからこそ生じる効果を付加したい。
「うん、これにしましょう」
ポーション作りとヒーリングサブレ作りと書く。後は帝国に行ってから考えよう。フェレスが棲んでいる森は材料集めに打ってつけだ。品質もよく数も多い。朝の妖精族の住処という事もあり、祝物には彼等の祝福がかけられている。
朝の妖精の祝福には恵みが宿るとされ、魔法薬を作る材料を選ぶ際の基準にもなり。
今フェレスは第二皇女の護衛として城にいる。さすがに城へ連絡を送るのは止めておこう。
一旦、羽ペンを置いて紙を引き出しに仕舞ったところで扉が控え目にノックされた。ナディアではない。返事をするとエルサだった。入っておいでと声を掛けると静かに入って来た。
「どうしたの、エルサ。貴女が私の部屋に来るなんて珍しいわね」
「あ、え、っと。あ……わたくし、外食には行かない事にしました」
「どうして?」
さっきまであんなに楽しみにしていたのに、急にどうしたのかとセラティーナは心配になった。具合が悪そうには見えない。食欲がないだけだとエルサは言い張り、今夜は夫婦で楽しんで来てと告げたのだとか。
「し、仕方ないので今日の夕食はお姉様と二人で摂ります。後で執事を寄越しますから食堂に来てくださいよ。わたくし、お姉様と違って一人で食べるのは嫌なので」
言いたい事だけ行ってさっさと部屋に戻ったエルサ。
何度か瞬きをしたセラティーナは頬に手を当て「シュヴァルツ様もだけど、エルサもよく分からないわ……」と呟くしかなかった。
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