婚約者は聖女を愛している。……と、思っていたが何か違うようです。

文字の大きさ
上 下
12 / 111

今の君

しおりを挟む

「セアラ。君が私を探していると聞いて居ても立ってもいられず、どうしても会いたくて来てしまったんだ」
「お、おいフェレス! そのお嬢さんはセラティーナ=プラティーヌっていう貴族のお嬢さんで……」
「知ってる。彼女の気配を感知してからずっと会いに行く機会を伺っていたんだから」


 変わらず焦りの声を出すランスが「へ?」と間抜けた声を発した。フェレスに抱き締められているセラティーナも然り。漸く体を離したフェレスの顔をまじまじと見つめた。亡くなる瞬間まで目に焼き付けた姿と一切変わっていない。月を宿した濃い青の瞳が若干潤んでいて、セラティーナも釣られて目頭が熱くなった。


「私を探してくれていたの?」
「勿論さ。僕はもう一度、君に会いたくて魔法を掛けた。亡くなる直前にね」


 ということは、前世の記憶を持って転生したのはフェレスの魔法のお陰だったみたいだ。


「セラティーナ……それが今の君の名前?」
「ええ。セラティーナ=プラティーヌ。これが私の名前よ」
「セラティーナ。なんだか、貴族の娘らしい名前だ」


 セラティーナは「実際に貴族の娘だから」と苦笑し、個室に入れてもらった。未だ状況が掴めていないランスに改めて説明をすることになった。


「ごめんなさいランス。貴方に話したフェレスに会いたい理由、あれ嘘なの」
「あ、ああ……見てたらなんか違う気はしてきた」


 放心としながらも話を理解する思考能力は残っているらしく、ゆっくりと説明を始めた。約五十年前までフェレスの妻であったセアラがセラティーナに転生し、セアラだった時の記憶がある為フェレスに会いたくて帝国に行きたかったと話した。


「け、けど、フェレスに自分が妻だと名乗り出る雰囲気じゃなかったぜ」


 元はフェレスが自分に気付いていないという前提で会いたかっただけ。妖精の粉を婚約者に贈りたいというのもフェレスに会う口実。つまり、嘘である。

「婚約者?」フェレスの眉がピクリと反応した。


「……君に婚約者?」
「ええ。貴族だもの。政略結婚はつきものでしょう」
「……婚約者との関係は?」


 一言話す度に長い間を開けるフェレスに苦笑しつつ、有り難いと言えばいいのか、残念と言えばいいのかと肩を竦め婚約者は他の女性と両想いで自分は二人を引き裂く悪女らしいと話すとフェレスの整った相貌が歪む。


「馬鹿な話だ。君が悪女だなんて」
「タイミングが悪かったと言うか、ね……」


 帝国の第二皇女と自国の王太子の婚約が無ければ、今頃ルチアは次期王太子妃として王太子の側にいただろう。シュヴァルツがセラティーナと婚約しても、ルチアは彼への気持ちを捨てられず、王太子との婚約が完全に無くなったのを良いことにシュヴァルツと想い合う。本来ならシュヴァルツに不貞と突き付け婚約破棄を申し入れたいがセラティーナの独断では叶わない。


しおりを挟む
感想 349

あなたにおすすめの小説

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

【完結】旦那様、わたくし家出します。

さくらもち
恋愛
とある王国のとある上級貴族家の新妻は政略結婚をして早半年。 溜まりに溜まった不満がついに爆破し、家出を決行するお話です。 名前無し設定で書いて完結させましたが、続き希望を沢山頂きましたので名前を付けて文章を少し治してあります。 名前無しの時に読まれた方は良かったら最初から読んで見てください。 登場人物のサイドストーリー集を描きましたのでそちらも良かったら読んでみてください( ˊᵕˋ*) 第二王子が10年後王弟殿下になってからのストーリーも別で公開中

【完結】王太子は、鎖国したいようです。【再録】

仲村 嘉高
恋愛
側妃を正妃にしたい……そんな理由で離婚を自身の結婚記念の儀で宣言した王太子。 成人の儀は終えているので、もう子供の戯言では済まされません。 「たかが辺境伯の娘のくせに、今まで王太子妃として贅沢してきたんだ、充分だろう」 あぁ、陛下が頭を抱えております。 可哀想に……次代の王は、鎖国したいようですわね。 ※R15は、ざまぁ?用の保険です。 ※なろうに移行した作品ですが、自作の中では緩いざまぁ作品をR18指定され、非公開措置とされました(笑)  それに伴い、全作品引き下げる事にしたので、こちらに移行します。  昔の作品でかなり拙いですが、それでも宜しければお読みください。 ※感想は、全て読ませていただきますが、なにしろ昔の作品ですので、基本返信はいたしませんので、ご了承ください。

きっと彼女は側妃にならない。

豆狸
恋愛
答えは出ない。出てもどうしようもない。 ただひとつわかっているのは、きっと彼女は側妃にならない。 そしてパブロ以外のだれかと幸せになるのだ。

王家の面子のために私を振り回さないで下さい。

しゃーりん
恋愛
公爵令嬢ユリアナは王太子ルカリオに婚約破棄を言い渡されたが、王家によってその出来事はなかったことになり、結婚することになった。 愛する人と別れて王太子の婚約者にさせられたのに本人からは避けされ、それでも結婚させられる。 自分はどこまで王家に振り回されるのだろう。 国王にもルカリオにも呆れ果てたユリアナは、夫となるルカリオを蹴落として、自分が王太女になるために仕掛けた。 実は、ルカリオは王家の血筋ではなくユリアナの公爵家に正統性があるからである。 ユリアナとの結婚を理解していないルカリオを見限り、愛する人との結婚を企んだお話です。

〖完結〗旦那様が私を殺そうとしました。

藍川みいな
恋愛
私は今、この世でたった一人の愛する旦那様に殺されそうになっている。いや……もう私は殺されるだろう。 どうして、こんなことになってしまったんだろう……。 私はただ、旦那様を愛していただけなのに……。 そして私は旦那様の手で、首を絞められ意識を手放した…… はずだった。 目を覚ますと、何故か15歳の姿に戻っていた。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全11話で完結になります。

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

処理中です...