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再会は
しおりを挟むだが、次の言葉で意味を理解する。
「君は私の婚約者なんだ。私の婚約者として相応の振る舞いをしないとならない」
「……」
「それに、君が一人で外に出ていたらプラティーヌ家は娘に護衛も付けず外に出させる家だと他の貴族に判断される」
内心溜め息を吐いた。自分の評判の為だったかと。プラティーヌ家に関してはセラティーナが何をしようと大体気に食わないので、何をしても言いがかりを付けられる。
シュヴァルツの言葉には敢えて食いつかず、逆にセラティーナが質問を投げかけた。
「シュヴァルツ様こそ、お一人で街へは何を?」
「……評判のいいクッキーがあると聞いて……」
態々一人で? 言いそうになったのをグッと堪え、そうですか、と興味なさげに発した。シュヴァルツが一人でクッキーを買いに……言わなくても分かる、贈る相手がルチアだと。グリージョ公爵の許しが出なくても、納得させられる方法は幾らでもある筈だ。シュヴァルツなら尚更。
「君に……渡そうと思って……」
「え?」
聞き間違いでなければクッキーを贈る相手をセラティーナだと言ったシュヴァルツ。何度か瞬きを繰り返したセラティーナは無意識にルチアの名を出した。気まずげにしていた灰色の瞳がルチアの名が出た途端鋭さが増した。
「ルチア様に贈るのでは……?」
「……ルチアじゃない。君だセラティーナ」
「……」
今までシュヴァルツから貰った贈り物はどれも婚約者として最低限の役割を果たす物ばかり。夜会や公式行事で参加するパーティでは、婚約者の色をしたドレスや宝石を身に着けるのが常。セラティーナにはセラティーナの瞳の色のドレスか宝石が送られていた。シュヴァルツの髪や瞳が灰色だから、ともあるがそれなら彼の魔力と同じ紫を贈るべきだ。
それを身に纏っているのは常にルチアだ。シュヴァルツとルチアが並ぶと二人こそが婚約者に見える光景を何度も見て来た。
シュヴァルツに何と言うべきかと迷うが言葉を発しないと気まずい空気が流れ続ける。ありきたりに「何故私に?」と発するのが精いっぱいだった。
「何故? 婚約者に贈り物をするのは変か?」
「変ではないですけど……シュヴァルツ様が言うとかなり変になりますね……」
「……」
シュヴァルツも自覚はあるのか、気まずげに視線を逸らした。
「昨日、ルチア様と逢い引きをなさっていたではありませんか。その次の日に私にクッキーを贈るのは、私がお二人の逢い引きを目撃してしまったからですか?」
「……」
「気を遣われているなら不要ですよ。シュヴァルツ様とルチア様の事は、貴方と婚約する前から知っています。シュヴァルツ様がルチア様を愛そうが誰を愛そうが私には無関係ですから、クッキーは必要ありません」
今は特に。
「セラティーナ、君は……」
言葉を途中で切り、声を発しようと開いては閉じるを繰り返すシュヴァルツ。言いたいことは何でも言う彼が珍しい。今日のシュヴァルツは珍しいのオンパレードだと見ていると灰色の瞳と目が合った。
「最初に会った時から君は寂しそうにしていた」
「?」
一体、何を言われているのかと怪訝に思いながら口を挟まず話を聞こうとするが二人の間に小鳥が飛んで来た。セラティーナの肩に乗った小鳥は、今朝ランスからの報せを届けた小鳥と同じ。彼の使い魔だ。伝えられた言葉に瞠目し、小鳥にお礼を述べ魔力を分けると空へ飛ばした。「セラティーナ……?」呆気に取られるシュヴァルツに頭を下げた。
「すみません! 急用が出来たのでこれで失礼します!」
「ま、待ってくれ! 何処へ行くんだ」
「急用なんです! ごめんなさい!」
「セラティーナ!」
小鳥が報せてくれた。
フェレスが今組合に来ていると。今ランスを訪ねて、先程までいた個室にいると。早く会いたくてシュヴァルツが呼び止めてもセラティーナは駆け出した。急ぎ組合へ戻り、階段を上がって個室の前に立った。深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「落ち着け、落ち着くのよ」
フェレスからしたら初めましての相手。知っている素振りを出してはいけない。覚悟を決め、拳を作り、扉を叩いた。
勢いよく扉が開かれた。驚くセラティーナを目の前に現れた相手が抱き締めた。奥から「おいフェレス! 別嬪がお前を待ってたって言っても婚約者持ちなんだぞ!」と言うランスの焦った声が飛んだ。
セラティーナの青の瞳に映った煌めく銀糸や前世で嗅ぎ慣れた優しい香水の香りは嘗てのフェレスと同じ。
「会いたかった、セアラ」
“セアラ”
セラティーナの前世の名前。フェレスはセアラが発音しにくいからセラと愛称で呼んでいた。今世の名前セラティーナも、セラの愛称を使えるのだが生憎とセラティーナを愛称で呼ぶ相手はいない。
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