10 / 109
再び、組合へ
しおりを挟む馬車を昨日と同じ場所に停車させて降りたセラティーナは、一人組合へと足を運んだ。昨日の今日なので受付嬢はセラティーナの顔を覚えていて、ランスは二階で待っていると案内された。特定の所属者に依頼がある場合は二階の個室で対応をするのだとか。セラティーナは階段を上がってすぐにある部屋に通された。
「お、待ってたぜ」
テーブルと椅子が置いてある質素な部屋にランスはいた。セラティーナに軽く手を挙げ、セラティーナは会釈をしてランスの向かいに座った。
「ちゃんと報せは届いていたようだな」
「ええ。お礼に私の魔力を分けました」
「知ってるよ。あんた、魔法とは縁がないプラティーヌ家の令嬢にしちゃあ使い魔への礼儀がなってるな。プラティーヌ家にとったら、待ち望んだ嬢ちゃんじゃねえのか」
「そうではないですよ」
魔力が高いだけの一族と魔法使い達から嘲笑われてきたからこそ、商売の腕を磨き王国一の財力を誇る様になったプラティーヌ家。セラティーナのように、稀に魔法が得意な者が生まれても皆冷遇される。以前にも生まれたらしいが今のセラティーナと変わらない扱いを受けたと親類に聞いた事がある。家での扱いに耐えられず、その者は家を出て以降一切の連絡を絶ったと聞く。
プラティーヌ家では魔法の才能があると冷遇される運命なのだと苦笑しながら言うとランスの顔色が変わった。
「すまねえ……知らなかったとはいえ、無神経なことを言った」
「気にしないでください。貴族のお家事情を組合の人でも把握しきれないでしょう」
「個人で貴族の依頼も多く受けるから、ある程度は知っているさ」
なら、セラティーナの婚約者についても知っているのだろうか。興味本位で訊ねると頷かれた。
「お嬢さんが帰った後でちょっと調べさせてもらった。なんつうか、健気だなお前さん。お前さんの婚約者って、聖女様と両想いだって有名なグリージョ家の坊ちゃんなんだってな」
「ええ、まあ」
「妖精の粉を渡したら婚約者の気持ちがお嬢さんに絶対に向く! とは言えねえが出来る限り協力はするぜ」
「あ、ありがとうございます」
フェレスに会いたい理由作りの為に、シュヴァルツに妖精の粉を渡したいとしたが今になって軽率だったと後悔してしまう。セラティーナが実際にはシュヴァルツを愛していないとは言え、妖精の粉は実際に渡した方が良いだろうかと考えが浮かんだ。自分用に少しは欲しいので手に入れたら量を調節しよう。
「使い魔で報せた通り、フェレスは今日に来る。先に城へ行って第二皇女を送り届けた後、こっちに来るって話だ」
「そうなのですね」
予想よりもずっと早くフェレスに会える。もしも、彼の側に自分以外の女性がいても決して前世の妻だと悟られず、ただの依頼者として終わろう。一目見たら更にずっと見ていたくなるのが人の性、だが、それを堪えセラティーナは一人で生きていく道を選んだ。そこに後悔がないようにしたい。
「フェレスが来る間此処にいるかい?」
「あ……時間があるなら、少し買い物をしたいです」
「じゃあ、来たら使い魔を飛ばすよ」
「ありがとうございます」
一旦個室を出たセラティーナはそのまま組合の建物からも出て、広場へと向かった。街の広場は馬車の待合で列を成していたり、中央に噴水があるから人々の憩いの場となっており、人が沢山いる。買い物をしたいのは嘘。フェレスに会う前に緊張を解したい。
「今の私とは初めましてだから、前世の妻と悟られないようにしないと」
フェレスに他に愛する人がいるのなら、尚更である。だが、ずっと会いたかった前世の夫に会えると思うと胸に感じる喜びは偽物じゃない。
「セラティーナ?」
「!」
この声は……と顔だけ振り向くと——やはり、予想通りの相手シュヴァルツが怪訝な表情で立っていた。側にルチアはいない。今日は一人で街にいるのか、珍しいと感想を持った。
「こんなところで何を?」
「あ……買い物をしていて、疲れたので休憩をしようと」
「……一人で?」
あ……と返事を間違えたと気付いた時には遅かった。侍女も護衛も付けず、一人で街中へ赴く等貴族の令嬢がする真似じゃない。
「偶には一人で買い物をしたい時もあります」
「供も付けずに? 危険だ」
「ちゃんと防衛魔法は使えますから、いざという時は自分でどうにかします」
「自分が魔法を使えるからと言って、安全とは言い切れない」
珍しいと心底不思議になる。普段のシュヴァルツはセラティーナに全く興味を示さないのに。
308
お気に入りに追加
8,544
あなたにおすすめの小説
王子妃だった記憶はもう消えました。
cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。
元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。
実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。
記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。
記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。
記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。
★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日)
●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので)
●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。
敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。
●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
逃がす気は更々ない
棗
恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。
リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。
※なろうさんにも公開中。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
アリシアの恋は終わったのです。
ことりちゃん
恋愛
昼休みの廊下で、アリシアはずっとずっと大好きだったマークから、いきなり頬を引っ叩かれた。
その瞬間、アリシアの恋は終わりを迎えた。
そこから長年の虚しい片想いに別れを告げ、新しい道へと歩き出すアリシア。
反対に、後になってアリシアの想いに触れ、遅すぎる行動に出るマーク。
案外吹っ切れて楽しく過ごす女子と、どうしようもなく後悔する残念な男子のお話です。
ーーーーー
12話で完結します。
よろしくお願いします(´∀`)
幸せなのでお構いなく!
棗
恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。
初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。
※なろうさんにも公開中
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる