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前世の記憶がある
しおりを挟む――フェレス……
夜空に浮かぶ小さな星々の如く光る銀色の髪も、瞳に月を宿す濃い青の瞳も。甘く聴覚を刺激する低い声も全部覚えている。セラティーナは前世というものを覚えていた。
前世は、この世界で長寿な種族と言われる妖精族の男フェレスの妻だった。前世もセラティーナは人間だった。妖精族のフェレスに一目惚れだ、好きだと告白された時は大層驚いた。接点は殆ど無いに等しかったのに。互いをよく知りもしないでフェレスを受け入れる、なんて事はセラティーナには出来ず。三回目の告白でフェレスがどんな人なのかを知って考えたいと言って交際が始まった。
妖精族はとても気紛れな種族で人間に手を貸そうが貸さまいが自分達の生活が脅かされなければどうでもいいというスタンス。人間が見目麗しい妖精族に惚れる事があっても、自分達より遥かに寿命が短い人間を妖精族が惚れるのは無かった。
だから余計驚いたのだ。
フェレスの気持ちを受け入れ、結婚し、セラティーナが寿命を迎えその生涯を閉じるまでフェレスは愛してくれた。
「フェレス……」
前世の記憶を持ったまま新たな人生を迎えたのは驚きだ。前世を終えて約五十年は経過している。当時から三百を超えていたフェレス。たかが五十年は彼にとったら短い期間だろう。会いたい。
フェレスに会いたい。
もしも、他に愛する人がいたらいけないから、遠くから一目でもいい、フェレスが幸せでいるか見たい。
夜空を見上げながら、そんな事を考える。
「さむっ」
少々長くいすぎたようで。会場に戻ったら中央で踊っていたシュヴァルツとルチアはいない。ずっと踊っている訳ないか、と探そうとしたがその必要はなかった。シュヴァルツはすぐに見つかった。
ルチアの腰を抱いて至極大事にエスコートをしていた。セラティーナに対しては互いの隙間が無くなる程ピッタリくっ付いてエスコートはしないのに。セラティーナが二人を見ていると目敏く見つけた周囲はここぞとばかりに嘲笑うも、セラティーナからしたらどうでも良く。
あれなら、シュヴァルツは聖女のエスコートに忙しかったので自分は先に帰ったと言い訳が通用する。ということで、小さく欠伸をしてから会場を出た。その際、周囲の者達はギョッとした。悔し気に、悲し気に出て行くセラティーナを期待していたのだろう。
全く気にせず、それどころか欠伸を見せ会場を出て行ったのだから。数人はどうせ強がりだと言うが、多数はそうだろうか……? と頭から大量の疑問符を飛ばし続けた。
外に出て馬車の所へ移動しようと進み始めた矢先、ふとセラティーナは思い出す。形式上は婚約者の為、シュヴァルツが迎えに来てその馬車で王城にやって来た。帰りもグリージョ家の馬車になる。セラティーナ一人だと乗れない。今日の誕生日パーティーは夜中を超える。
シュヴァルツがセラティーナの存在を思い出すとは思えない。月に一度あるデートですら忘れられる程。何時だったか、待ち合わせの場所に行っても来る気配がなく帰った経験すらある。事前に報せの一つでも入れてくれていれば良い物を……と呆れ果てた。
どうやって帰ろうか考えていると「お姉様」と呼ばれた。
振り向くと腕を組んで一人でいるエルサがいた。
「エルサ? どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、どうせ、シュヴァルツ様に存在を忘れられて一人惨めに帰ろうとしているお姉様を笑いに来たのですわ」
「そう。今の時期、夜は寒いから早く会場に戻りなさい。貴女、昔はよく風邪を引いていたのだから」
今でこそ健康なエルサは幼少期はベッドの上で過ごす日々が多く、両親は病弱なエルサを溺愛していた。元々、祖母譲りの見目のセラティーナより、母譲りのエルサを可愛がっていたから、病弱でなくてもエルサは愛されていた。
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2021/08/08
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