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しおりを挟む改めて事実を突きつけられた父だが信じようとせず、ひたすらに母のせいにしていたとラシュエルに話され更に頭が痛くなった。
「父は……お義母様と結婚はしたくても貴族ではいたかったのです。だから、心から愛する人であろうと父は母と結婚した」
それが多数の人を不幸にした。その中には自分自身も含まれていると父は気付いているだろうか。
「ヘヴンズゲート家は今後クローバー家への返金、及び不貞行為をしていた慰謝料の支払いで金策に追われるだろうね」
「イデリーナはどうなりますか?」
「ああ。あれ」
ラシュエルの言い方に違和感を覚えるも続きを待った。
「婚約の白紙を求めたが……結局イデリーナは皇太子妃になると決まった」
ラシュエルから告げられた衝撃的な言葉に思考が一時停止した。あれだけ嘘偽りに濡れたイデリーナを嫌っていたというのに。リナリアが言葉を失い硬直していると安心させようと微笑まれた。
「安心して。私がイデリーナを愛することはない」
帝国としても長年不在だった聖女を手放すのは惜しいと考えた。大教会側も同じ。
イデリーナは涙を流し、これから絶対に嘘偽りは吐かない、誠心誠意帝国やラシュエルに尽くすと神の前で誓った。なら、とラシュエルは婚約を継続させると宣言した。
但し。
「私が愛しているのはリナリアだけ。子もリナリアとしか儲けない。聖女として、皇太子妃としてしかイデリーナと接しない。受け入れるか、受け入れないかはイデリーナに任せた」
「か、彼女はなんと?」
「受け入れたよ」
リナリアは俯き、考えた。きっとイデリーナは時間が経てばラシュエルも心を許し、愛してくれるようになると思ったのだろう。言葉通り誠心誠意尽くせば、いつか自分を愛するようになると。
なんとなくだが分かってしまった。半分しか血が繋がっていなくても姉妹だからだろう。
「私は……私は何をすれば……」
「今まで通り此処にいてくれたらいい」
最初の発言通り、偶にラシュエルが外へ連れ出してくれる。その際は二人とも変装魔法で姿を変えているが外に出られるだけで嬉しい。時折、皇太子の執務を熟すラシュエルの手伝いもしている。
イデリーナが皇太子妃になるからと言ってリナリアに密かにやらせるつもりは一切ないとラシュエルは固く言う。泣き言を一切聞き入れない教師達が既にイデリーナの教育を始めているとも告げた。
「リナリア」
甘い声が呼ぶ。
「私の側にいて。君が側にいない日々はもう懲り懲りだ。あんな嘘だって……もう聞きたくない」
「ラシュエル様……」
シーツを巻いていた体を強い力で抱き締められる。もしも自分がラシュエルの立場だったらどう思うか。病に苦しみながらも書いた手紙の返事は届かず、会いたい人は他の女性の許へと行ったと聞かされれば……リナリアでもきっと憎しみを持ってしまう。
ラシュエルだけがそうなんじゃない。
「そういえば。ヘヴンズゲート侯爵が握り潰したリナリアからの手紙を回収したんだ」
「え」
「あの手紙は大事にする。君が私を心配して書いてくれた手紙なんだから」
気恥ずかしい気持ちはあれど、届いてほしい人の手に渡って良かった。
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