逃がす気は更々ない

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「私達も行きますか?」とリナリア。
「リナリアが行くと侯爵達は騒ぎそうだな……また隠れて様子を見て見よう」


 ラシュエルの提案を飲み、教皇とイデリーナの少し後で向かった。

 正面入り口の扉を背後に、侯爵夫妻が沈んでいるイデリーナを慰めていた。特に後妻はイデリーナの頬が赤いことを指摘した。


「教皇様! 何故イデリーナの頬が赤くなっているのですか!」
「ほ! お主はわしを教皇と知っているのか。お主の娘はわしを教皇と知らんかったのに!」
「な、なっ」


 面白おかしくイデリーナの失態を指摘した教皇に夫妻は顔を赤く染めるが、イデリーナを守る様に二人で抱き締めた。
 独特な笑いを発する教皇リドルの瞳は冷え切っていた。


「さて、少しわしと話そうか。お前達のせいで大教会も帝国も痛い目に遭いそうだからの」
「どういう意味ですか」
「侯爵、お主本気で言っているのか? 今回の一件でクローバー侯爵家がどれだけ怒り狂っているか。リナリア嬢を陰ながら見守っていたのは、皇太子殿下と関係が良好で皇太子妃になるリナリア嬢をお主でも切り捨てられないと思っていたからこそ。自分の娘が聖女の能力に目覚めた途端、皇太子殿下の為に聖域へ向かったとも言わず、嘘偽りでリナリア嬢を陥れ、更にその娘を皇太子妃にしようと企んだお主等に怒るクローバー侯爵家を抑えるのにわしがどれほど苦労しているか」


 少し離れた場所から様子を見ているリナリアにユナンが「そこに皇帝の件も追加でクローバー侯爵家が怒髪天を衝いたのさ」と補足。交流を控えていたのもヘヴンズゲート侯爵やその後妻の目があり、自分達の目の届かないところでリナリアが酷い目に遭ったら大変だと表立って何も出来なかった。せめてお金には困らせたくないからと毎月多額の金額をリナリア宛に振り込んでいたと教皇の言葉から出ると、リナリアは咄嗟に自分の手で口を塞いだ。


「リナリア?」
「初耳で……。私のドレス代や装飾品は全てヘヴンズゲート家から出ている感謝しろと毎回くどいくらい言われていたので……」
「そうなると侯爵は横領の罪に問えそうだな。振り込んでいたという事は、正式な記録が残る。明日にでも記録を取り寄せるようにしておく」
「ありがとうございます、ラシュエル。なら……そのお金はどこに……」
「ふむ……」


 リナリア達の目は後妻やイデリーナが身に着けている装飾品やドレスにいった。侯爵家は貧乏でなければ特別裕福とは聞かないのに、頻繁に商人を呼び付けては最新のドレス等を購入していた。イデリーナはリナリアでは買ってもらえない高級ドレスを毎回見せびらかしに来る程。


「お義母様達が使い込んでいそうね……」
「立派な横領だ」
「お父様がどう話していたか知りませんが、仮にクローバー家からの支援金と話してもヘヴンズゲート侯爵夫人や令嬢になったのだから使って当たり前だと思っていそうだわ」


 頭が痛いとはこのことか。ユナンがぽつりと「そんな強欲な娘が聖女の能力に目覚められたのが謎過ぎるんだけど」と零すのでリナリアやラシュエルも同意したくなった。


「ま、後日にある呼び出しまで震えて待つんじゃの」
「お待ちください! イデリーナの頬が赤い理由を聞いておりません!」
「どうでもいいわい。お前達、ヘヴンズゲート侯爵家御一行のお帰りだ。丁重にお見送りしろ」


 神官達に未だ喚く夫妻と黙ったままのイデリーナを任せ、扉を閉めた教皇は隠れているリナリア達に出て来るよう告げた。


「屋敷には戻らんことだな。大事な物があるなら、ユナンに取りに行かせるが?」
「い、いえ。大丈夫です」


 誰にも見つからない場所に置いてあるので取られる心配はない。



  
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