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しおりを挟む大教会での話し合い翌日。また聖域に戻ってユナンと静かに暮らすつもりだったリナリアだが大教会の客室にいた。ラシュエルの強い要望にユナンの方が折れ、同意する形でリナリアは戻らなかった。
あの後気絶したイデリーナは神官達に運び出されヘヴンズゲート邸に送られた。理由についてはラシュエルとユナンの方から説明される。初めラシュエルだけの予定がユナンの「俺の発言も付け足しておけば嫌でも納得しますよ」という台詞によってそうなった。
朝食を頂いた後はする事がなく、かといって買い物も散歩もする気分じゃない。閲覧可能な書ならご自由にと書庫室を解放されたのでお言葉に甘えようと客室を出た。ら、正面にラシュエルがいた。皇族特有の金色の瞳が丸く開かれていた。
「で、殿下?」
「どこか出掛けるのか?」
「書庫室へ行こうと」
「私も行く」
「私に用事があったのでは?」
「場所が変わっても問題ない」
何用で来たかは何となく察せられる。拒否する理由もないのでラシュエルと書庫室に向かった。
年季の入った本棚に収納されている本もまた同じで、古い紙の香りに頬を緩ませ背表紙に刺繍されている題名から本を選んでいく。四冊ほど見繕った後、本を選ぶでもなくリナリアを凝視していたラシュエルに向いた。
「殿下は今日は何故」
「昨夜、父上と母上に話をした。ヘヴンズゲート侯爵やイデリーナがリナリアを陥れようと私に嘘を言い続け、皇太子妃候補であるリナリアを侯爵家総出で虐げていた事も全部」
「……陛下や皇后様はなんと」
「……父上は侯爵やイデリーナの言葉が嘘だと知っていたらしい」
原作通り。
「知っていて何も言わなかったのはイデリーナに聖女の能力が覚醒したからだと」
しかし清廉な心を持つ事により力を保ち、増幅させる聖女が嘘偽りに塗れた言葉や行動をし続ければ軈て能力は低下し、消滅するとユナンの説明を加えると皇帝の顔色は変わった。
「後日、指定した日にヘヴンズゲート家を呼び出し事実確認をする。そこにリナリアも同席してほしい」
「私の発言があったところであの人達は耳を貸しません。私としては、私がいないままにして頂きたいです」
「……そうしたらリナリアはどうするのだ」
「前にも言った通り、聖域にずっといてもいいかなと。あそこにはユナンがいるから話し相手には——」
「やっぱりあの神官が良いのか?」
台詞を途中で遮られ、微かに眉を寄せるもラシュエルの黄金の瞳の濁りが昨日よりも強いと解り困惑した。
「リナリアが聖域に拘るのはあの神官がいるからだろう?」
「え、ええ。突然、祈りの花を求めにやって来た私にとても親切にしてくれましたから……」
更に言えば聖域に入れるのは限られた者だけで、誰が入れるかは聖域に行かないと分からない。珍しい来訪者を歓迎したくなる気持ちはユナンの話を聞いていたら分かってしまった。
「皇太子妃になるのはイデリーナだと言いたのか」
「今後のイデリーナ次第になります」
原作ではリナリア追放後、ラシュエルとイデリーナは結婚式を挙げ皇太子夫妻となり幸せに暮らしたと最後書かれていた。巻末に番外編としてリナリアのその後が書かれているが読む前に前世を終えてしまったのでどうなったかが不明。
せめて友人に内容を聞いておけばと後悔するも、ネタバレ厳禁と語り合いたそうな友人を待たせていたのは自分。仕方ない。
「皇太子妃になって、ずっと側にいる相手はリナリアだと思っていた」
「……」
病に苦しむ最中頭に浮かぶのはリナリアの事だけで。痛み、苦しみながらもリナリアへ手紙を書いても返事は届かず、使者をヘヴンズゲート家へ向かわせ返された言葉が他の男の許へ逃げたという信じられないもの。
信じたくなかった。だがリナリアの行方は誰にも分らず、日数だけが過ぎていった。次第にリナリアへの気持ちが憎しみに染まっていった辺りでイデリーナに聖女の能力が覚醒し、病に苦しむラシュエルを救った。
そこからはとんとん拍子に話が進み、二人の婚約が決まった。
「聖域に行くと誰にも言わなかったのか?」
「言いましたよ。殿下の病を治す希望が聖域にあると」
——まあ、誰も真面目に話を聞いていなかったけど……
「そうか……。侯爵も誰もリナリアは男と逃げたとしか話さなかったんだ」
「目障りな私を排除し、イデリーナを皇太子妃にする絶好の機会ですからね」
「イデリーナとの婚約の話は白紙にしてもらう。皇太子妃になるのはリナリアだ」
黄金の瞳から濁りは消え、代わりに多量の熱が込められていた。頬が熱くなっていく。気まずげに視線を逸らすと「リナリア」と呼ばれた。
「私の側にいてくれ」
「私を嫌いになってください……そうしたらイデリーナの事も受け入れられます」
「平気で嘘を吐く相手を好きになれと? たとえ、イデリーナが嘘に塗れていなくてもリナリア以外は考えられない」
原作のラシュエルもこんな風にリナリアを信じ愛してくれていたら、彼女は追放されず愛する人と暮らせたのではないかと考えてしまった。
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