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ガブリエルは諦めない①
しおりを挟むロナウドの根本にあるのは、自分は駄目で他人は相手にしてもらえるという劣等感。膨大な魔力と桁違いの魔法の才を持つダグラスを実の母親が憎み、自分と似て魔法が使えないロナウドから遠ざけた。
もしも、と抱いた。
もしも、ロナウドも魔法が得意な人だったら祖母はどうしていただろうか。自分に似ず魔法が得意なダグラスを憎んでいたなら、見目が自分に似ながら魔法が得意なロナウドは更に憎まれていた気がする。
私は無理だったのにどうして! と。
思った感情をそのまま伝えてみるとロナウドは項垂れた。きっとロナウドも同じ考えに至ったのだ。
「……母は……私には優しかった。お前はダグラスのような人間になるな、あれは魔法に憑りつかれた化け物だ、と」
「ああ、直接言われたな」
「え!?」
「その化け物を産んだのはお前だろうと言えば、発狂されて父が止めに入ったな、確か」
人より感情の起伏が薄いと言えど、実の母親から化け物扱いをされても変わらない。相手が自分に嫌悪を持つなら、無理に好意的に接する必要はない。
「ロナウド。お前に魔法を使う才能がないのは、今更覆らない。けれど別の形で魔法に携われた」
「別の形?」
「お前は人より記憶力に優れている。数字にも強い。魔法研究は魔法の才能より、膨大な術式、数式を記憶し、それらに隠された暗号を読み解く能力が重要視される。魔力が多いと解読の時間が長くなる。お前のように魔法が使えなくとも魔法研究に携わる研究者は多い」
「……」
浮かびもしなかった可能性と自分に興味がないと決め付けていたダグラスが自分を知っていた事にロナウドは言葉を失った。顔を俯け、肩を震わせ涙を流していた。
こうして見るとロナウドはずっとダグラスに……兄に構ってほしかった弟にしか見えず。祖母が自分勝手な気持ちを優先せず、2人を普通と変わらない兄弟として育てていれば拗れなかった。祖父は無理に婚約を頼んだ手前、あまり祖母に強く出られなかった。公爵家を継ぐロナウドと大魔法使いになるダグラスがいればいいと最後決めたのだとか。
欲に濡れた姿は醜い。公爵夫人という座にしか目がない令嬢達から逃れたい一心で昔馴染みの祖母に婚約を求め続けた祖父にも原因はあった。魔法が得意じゃない令嬢が優秀な魔法使いを数多く輩出した名家に嫁げばどの様な目に晒されるか知らぬ事はない。祖父なりに守ってはいたらしいがダメだったとダグラスは言う。稀代の魔法使いを産んだら、己の劣等感を大いに刺激され、次に生まれた自分に似た我が子には敵対心を植え付けた。どうしようもないとはこのこと。
「後はお前自身で考えろ。1つ言えるなら、何かを始めるのに早いも遅いもない。要は本人の意思と努力次第だ」
「……」
幸いなのは祖母がロナウドを愛していたのは確かなのだ。祖父も然り。
俯きながらもロナウドは重く頷いた。
これ以上は何も言わないとダグラスに呼ばれたエイレーネーは転移魔法でダグラスの屋敷に移った。
「これで良かったのですか? お父さん」
「ロナウドの事か? 後はあいつの問題だ。俺がどうこう言えた義理じゃない」
「お祖母様やお祖父様は……」
「さあ。文句があれば、ロナウド自身が領地に行くさ。母は発狂するだろうがな」
祖母の発狂姿……会った回数が祖父より極端に少なく、顔を合わせても挨拶くらいしか交わさないエイレーネーでは想像がつかない。
屋敷に入るとイヴがこんな事を言う。
「王様が件の医師に白状させたら私を呼んでって伝えておいてよ」
「何をする気だ?」
「王子が悪魔憑きだと偽った天使の成れの果てでも見せてあげようと思って。君達人間が崇拝する天使も、嘘を吐けばどうなるかを見せればちょっとは神への信頼を回復させられるでしょう?」
「エレンに伝えておこう。それで人間がお前達を信頼するかは人間次第だ」
「いいよ。ちゃんとお詫びの祝福を神から授けさせる」
最近神の座に就いた甥っ子にとったら、大きな仕事だと愉し気なイヴ。甥っ子に後を継がせると出奔した長兄。甥っ子に長兄を連れ戻してと頼まれ人間界へ探しに来たイヴとイヴの3番目の兄。この2人に探す気が一切ないのを甥っ子は知らないのだとか。長兄が巧妙に姿を消しているから、見つけるのが困難なのだといつも報告しているとか。自由気儘な叔父さんを持った甥っ子を少々気の毒に思う。
「この国にはいるんでしょう?」とエイレーネー。
「うん」
「見つけてあげましょう」
「とっても楽しいから来ないでって言われたんだ。そうまで言われたら、私も無理に会いに行く気が起きない」
「もう……」
心の底から、彼の甥っ子に同情した……。
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