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そっくりだった②
しおりを挟む「魔獣…………?」
呆然とした声色が紡がれた。意味を理解するのを思考が拒否していた。何度も瞬きを繰り返すガブリエルとぽかんとするロナウドとリリーナ。2人も愛娘が魔獣にそっくりだと言われて放心していた。
見て見ろとダグラスがテーブルに小さな魔法陣を展開した。五芒星と多数の術式が刻まれた魔法陣に光が浮かび、段々形となっていった。
大きな耳と真ん丸な深緑の瞳、金に近い茶色の艶々な毛並み。愛嬌のある顔立ちに人懐っこい性格。主人であるルーベンや息子であるラウルには特に懐いており、姿を見掛けると走って飛び付いてくるのだとか。魔法陣の中にはダグラスの記憶を再現されていて、はしゃぐ魔獣を撫で繰り回すルーベンは幼い頃のラウルにそっくりだ。ルーベンに撫でられて喜ぶ魔獣も見た目がガブリエルに似ているせいで、はしゃぐ姿もガブリエルに見える。
仲良しな魔獣とそっくりな人間の女の子と出会ってしまい、言葉に出さずとも態度で思い切り出してしまったラウルの気持ちがなんとく分かってしまった。隠そうと試みても、徹底的な感情制限はされていない人間が無感情を維持するのは無理に近い。ダグラスのように生来の無関心振りが発揮されれば、話は別のものになったのだろうが。
ロナウドの腕から離れ、フラフラとそっくりと言われる魔獣の記憶に近付いたガブリエルの顔は真っ青。テーブルに手を付いて魔獣とラウルを交互に見やった。
「じゃあ……じゃあ……何ですの? ラウル様はわたくしを好いていたんじゃなくて……こんなのにそっくりだったせいでっ、わたくしを騙していたのですか!?」
「騙してなんかいない! ガブリエルにもエイレーネーにも申し訳ないと思ってる。自分では出していないつもりでも、相手に勘違いを抱かせて……」
「わた、わたくしは、ずっとラウル様をお慕いしていたのに、ラウル様はわたくしを魔獣と重ねていたという事ですか!? 本当はわたくしじゃなく、お姉様が好きだと!?」
婚約者の姉よりも自分を優先して親しくしてくれたラウルの本心が自分じゃなく、実際は姉にあったのだと誰が思おうか。悔しさ、悲しさの涙がガブリエルの瞳から溢れ出る。抑えられない感情も声になって出ていく。
手で顔を覆って泣き出したリリーナは何度もガブリエルが可哀想、可哀想と嘆いた。自慢の娘が筆頭公爵家の嫡男に愛されているのだと信じていたのに。ペットの魔獣にそっくりだから仲良くしていたと聞かされ、好きな相手は前妻の娘と知らされ、ガブリエルと同じで泣き崩れた。
あんまりな事実に泣き出したガブリエルとリリーナを使用人に別室へ連れて行かせ、1人残ったロナウドは呆れ果てた眼をラウルとダグラスにやるルーベンに責任を求めた。
父親と友人の顔を覗かせていたルーベンもこの台詞に公爵としての顔を出した。
「責任?」
「そうだ。元は言えば、ラウル殿が紛らわしい態度を取らなければガブリエルは勘違いせず、傷付かずに済んだ。あの子は心に傷を負った。その責任をどう取ってくれる!」
「ラウルの態度とダグラスの力加減のない祝福のせいでお前やガブリエル嬢には、大層な勘違いをさせてしまった。ラウルについては謝る。だがロナウド、抑々の話、お前がエイレーネー嬢を素直にダグラスに渡していればこんな事にはならなかったと思わんか?」
「なんだと?」
「後妻と娘を引き取ったのは先代公爵夫人が亡くなってからだろう? その時、ダグラスはエイレーネー嬢を引き取ると陛下やお前、メルル様の生家に現れた。なのに拒否をしたのはお前だけだ」
人の良さそうな笑みも呆れて果てた相貌もない。他者を突き放す冷たい青の瞳が元を突き付けていく。
「もしもエイレーネー嬢がその時からダグラスの許にいれば、ガブリエル嬢がラウルを好きになる事もラウルがガブリエル嬢に会う事もなかった。お前の下らんダグラスへの意地が無関係な子供を不幸にしたんじゃないのか?」
「下らん……だと? な、何が下らんか! 魔法を使えるあんた達に私の気持ち等分かるものか!」
「落ち着けホロロギウム公爵。ルーベンも煽るな」
魔力があっても魔法を使う才能がない。これについてロナウドは強い劣等感を兄ダグラスに抱いていた。きっと、魔法が使える全ての人間に劣等感を抱いていた。ルーベンに飛び付かんばかりのロナウドの怒気は、こんな時でも関心を示さないダグラスに矛先が向けられた。
「なんとか言ったらどうだダグラス! お前が1番私を馬鹿にしていた! 強い魔力があっても使う才能がないとな!」
極限られた人にしか関心が向けられずとも、他者を馬鹿にする人じゃないと1月の生活でよく知ったエイレーネーが反論を試みると頭をポンポンされた。ダグラスに。「お父さんっ」と不満を露にしても頭をポンポンされるだけ。
落ち着けと語っているのだ。
「母から言われたのか?」
「そうだ! 母上はいつも嘆いていた。優れた魔法使いになれても人間として破綻しているお前を兄に持った私を、息子に持った自分を」
「そうか。嘘か本当かはそこの聖女に聞け。
俺は次期ホロロギウム家の跡継ぎとなるお前に絶対に近付くなと母に言い続けられた。感情制限が下手で無意識に魔法を使って、お前を傷付けるからだと」
「う、嘘を!」
「いいえ。大魔法使い様は嘘を申されておりません」
アリアーヌの言葉はロナウドの勢いを削いだ。
「俺がホロロギウム家を継ぐと公爵家としての立場を失うと危惧したんだろう。父はロナウドに爵位を継がせる事には賛成しても、兄弟としての関わりを断たせる事には疑問を抱いていたらしい。だが母は違ったようでな。徹底的なまでにお前から俺を遠ざけた」
「だ、だが、感情を制御出来るようになってもお前は私に会う価値がないと母上は悲しんでいた」
「俺には絶対にロナウドに会うな、ロナウドの前に姿を見せたらホロロギウム家から追放すると叫んでいたがな」
「……」
信じられないと首を振るロナウドとは対照的で、追放されても困らなかったと語るダグラス。何度か敷地内で顔を合わせても追放されなかったのは父が止めていたからである。
「私はお祖母様に1度もお会いしていないのでどんな方か詳しくは知りませんが、どうして公爵様からお父さんを?」
先代公爵夫妻は存命で現在は領地にいる。偶に本邸に遊びに来てもエイレーネーは祖父としか会っていない。祖母とはガブリエルが主に会っていた。ダグラスに似た見目と魔法の才能、不貞の娘故の境遇に同情をされていたが祖父にはそれなりに可愛がってもらった。
頭を撫でる動きはそのままに淡々とダグラスは心当たりを出した。
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