42 / 48
オプション付きなら
しおりを挟む朝食の時間が既に来ていた。約束通りリゼルは来てくれたがタイミングが悪すぎた。ばっちりとネロにキスをされた場面を見られた。解説が不要な程怒っているリゼルの許へ慌てて飛んで行った。パパ、パパ、と必死に呼ぶが続きが浮かばない。勘違い、でもなく、誤解、でもなく、上手な言葉がない。大きな魔法を放つ寸前のリゼルを止める方法はないかと必死になり過ぎた結果、リシェルが紡いだのは朝ご飯食べようだった。
呆気に取られるリゼルとネロ。彼の方もリゼルが魔法を投げてくると予想して魔法障壁を貼りかけていた。
掌に集中させた魔力を消したリゼルは深く息を吐き、ネロも警戒を解いて噴き出した。自分でも場違いな台詞を口にしたと恥ずかしくなるも、リゼルを止めるには効果があった。
「あ、その、パパ、朝ご飯を食べましょう。私と約束したでしょう?」
「……分かったよリシェル。おいで」
「うん!」
差し出された手を取って部屋を後にした。
●〇●〇●〇
「うんうん。人間の作る飲み物は美味しいねえ。そうは思わない? リゼ君」
「今すぐ死にたいならそこにいろ」
「死にたくないけど退く気もないよ」
不機嫌だ。不機嫌が魔力となって何時ネロに襲い掛かるか目が離せない。三人がいるのは宿の近所にあるカフェ。朝食を待つ間、先に出された紅茶を嗜む。レモンの爽やかな香りも紅茶の香ばしい香りも二人の間にある雰囲気を消す力はなかった。
リシェルは隣に座るリゼルの服を小さく引っ張った。今から自分の気持ちを話すのだ。
「あ、あのねパパ。聞いてほしい事があるの」
「いいよ、言ってごらん」
「うん」
九日後に処刑となるビアンカに今までされてきた嫌がらせに対する仕返しがしたい事。その内容がアメティスタ家が当初リシェルを売り飛ばそうとした貴族へビアンカを売り飛ばすというもの。リシェルなりに考えた一番の仕返しだ。どんな相手か知らないが碌な相手じゃないのは何となく解せる。
駄目だと叱られるだろうか、呆れられるだろうか。ビクビクしながらリゼルの返事を待つと意外そうな声を出された。
「リシェル。その程度で良いのか?」
「え?」
リゼルの予想外な返答に間抜けな声が出た。
「散々ノアールと一緒になってお前を苦しめて来た女なんだ。それくらいで許すのか?」
「えっと、仕返しにならない、かな……」
「お前が良いと言うならその通りにしよう。ある程度のオプションは付けさせてもらうがな」
オプション?
何を付けるのかと問うても秘密だと微笑まれ、頭を撫でられた。昔からリゼルに頭を撫でられるのは大好きだ。
「怖いパパだねえリゼ君は。何をするのかな」
「うるさい。お前は今からでも殺してやってもいいんだ」
「私を殺したら君の愛娘は悲しむよ。それでも良いなら殺ってごらん」
頭上から舌打ちが聞こえた気がするが頭を撫でられる感覚が気持ちよくて聞こえない振りをした。
52
お気に入りに追加
4,205
あなたにおすすめの小説
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
【完結】伯爵令嬢の格差婚約のお相手は、王太子殿下でした ~王太子と伯爵令嬢の、とある格差婚約の裏事情~
瀬里
恋愛
【HOTランキング7位ありがとうございます!】
ここ最近、ティント王国では「婚約破棄」前提の「格差婚約」が流行っている。
爵位に差がある家同士で結ばれ、正式な婚約者が決まるまでの期間、仮の婚約者を立てるという格差婚約は、破棄された令嬢には明るくない未来をもたらしていた。
伯爵令嬢であるサリアは、高すぎず低すぎない爵位と、背後で睨みをきかせる公爵家の伯父や優しい父に守られそんな風潮と自分とは縁がないものだと思っていた。
まさか、我が家に格差婚約を申し渡せるたった一つの家門――「王家」が婚約を申し込んでくるなど、思いもしなかったのだ。
婚約破棄された令嬢の未来は明るくはないが、この格差婚約で、サリアは、絶望よりもむしろ期待に胸を膨らませることとなる。なぜなら婚約破棄後であれば、許されるかもしれないのだ。
――「結婚をしない」という選択肢が。
格差婚約において一番大切なことは、周りには格差婚約だと悟らせない事。
努力家で優しい王太子殿下のために、二年後の婚約破棄を見据えて「お互いを想い合う婚約者」のお役目をはたすべく努力をするサリアだが、現実はそう甘くなくて――。
他のサイトでも公開してます。全12話です。
田舎者とバカにされたけど、都会に染まった婚約者様は破滅しました
さこの
恋愛
田舎の子爵家の令嬢セイラと男爵家のレオは幼馴染。両家とも仲が良く、領地が隣り合わせで小さい頃から結婚の約束をしていた。
時が経ちセイラより一つ上のレオが王立学園に入学することになった。
手紙のやり取りが少なくなってきて不安になるセイラ。
ようやく学園に入学することになるのだが、そこには変わり果てたレオの姿が……
「田舎の色気のない女より、都会の洗練された女はいい」と友人に吹聴していた
ホットランキング入りありがとうございます
2021/06/17
今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。
むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。
緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」
そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。
私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。
ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。
その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。
「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」
お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。
「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」
人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
前世の旦那様、貴方とだけは結婚しません。
真咲
恋愛
全21話。他サイトでも掲載しています。
一度目の人生、愛した夫には他に想い人がいた。
侯爵令嬢リリア・エンダロインは幼い頃両親同士の取り決めで、幼馴染の公爵家の嫡男であるエスター・カンザスと婚約した。彼は学園時代のクラスメイトに恋をしていたけれど、リリアを優先し、リリアだけを大切にしてくれた。
二度目の人生。
リリアは、再びリリア・エンダロインとして生まれ変わっていた。
「次は、私がエスターを幸せにする」
自分が彼に幸せにしてもらったように。そのために、何がなんでも、エスターとだけは結婚しないと決めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる