幸せなのでお構いなく!

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ゆっくりでいい⑤ーカリアス視点ー

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 自分が思った以上に魔法は効果を発揮してくれている。扱いが難しいのが欠点だが、他人の精神に干渉する魔法はどれも難易度が高い。グレンの中のロリーナ嬢を王女に、王女をロリーナ嬢に入れ替えた。シュタイン公爵から真実を聞かされている筈のグレンは既に王女を見限っている。一目惚れした相手の悪口を聞かされ続けた挙句、婚約解消を突き付けられ別れを告げられた恨みは大きい。幼馴染の情も消え去っている。そのせいでグレンのロリーナ情への当たりはかなりキツイ物になってしまった。グレンが僕の魔法によって精神干渉されていると知らないロリーナ嬢は怒り、見事な平手打ちをかました。呆然とするグレンはハッキリと言われた拒絶の言葉に目を白黒させた。魔法が解けるか……と身構えたが杞憂に終わった。言いたい事を言ってスッキリとしているロリーナ嬢の後を追って王女の部屋を出た。

 グレンを正気に戻すのは国王夫妻や王女と共に田舎の領地に引っ込んでからでいいか。

 その時、後悔と絶望に落とされるのはきっと——。

 

 

 王女の部屋から遠ざかり、再び庭園へと戻って父上の戻りを待つ。


「長いね」
「短く終わる話ではないでしょうから」
「父上なら、あっさりと終わらせると思っていたのだけどね」
「あの、カリアス様」
「うん?」

 視線が合うと逸らされる。どうしたのだろう……。逸らしたのは一瞬でまたすぐに瞳を僕の目に合わせて、何度か口を開閉した後ロリーナ嬢は言葉を紡いだ。


「先程はお見苦しい所を見せてしまい申し訳ありません」
「グレンの事? 気にしてないさ。寧ろ、今まで君がグレンにされてきた仕打ちを考えるともっと叩いても良かったんだよ?」
「一発で十分です。手が痛いですから」
「グレンの事、吹っ切れた?」
「ええ。グレン様の事は苦い初恋として思い出にします」
「君がそれで納得するなら、それでいいと思うよ」
「それと……」


 言葉を切り、何かを言いかけては黙るロリーナ嬢を待つ。


「それと……カリアス様との婚約のお話、お受けさせていただきます」
「本当? 嘘じゃない?」
「嘘なんて言いません! その、グレン様のようにカリアス様を好きになれるかはまだ分かりません」
「気にしなくていい。すぐに好きになる必要もない。時間をかけて僕を好きになってくれたらいい」


 ずっと好きで、グレンと幸せならばと身を引こうかずっと悩んでいた時期もあった。けれど、噂を鵜呑みにして君を冷遇し続けたグレンに君を幸せになんて出来ない。

 ホッとするように笑み、お礼を述べられるもお礼を言うのは僕の方だ。

 執着心の強さが父上譲りなのは嫌だが、待ち続けた甲斐はあった。


「ありがとうロリーナ嬢」
「私の方こそ……ありがとうございます、カリアス様」

 

 
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