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僕が貰う②―グレン視点―
しおりを挟む暫く探し続けているとロリーナから通信蝶が届けられ、もう探さなくていいこと、クリスタと仲良く回ればいいと言伝を渡された。まだクリスタといると思われていると愕然とし、彼女の中の俺への信頼はほぼ消滅している事実に絶望した。
ずっと彼女は俺を好きでいてくれるという慢心が心の何処かにあった……噂が事実なのか、そうでないのか、確かめる機会はいくらでもあった。もしも事実なら俺が見てきたロリーナは偽物で、偽りなら今までのロリーナへの態度をどう償っていくべきか。悩み続けてしまったせいで今に至る。
とにかく、クリスタとは一緒に回らない、場所を教えてほしいとロリーナからの通信蝶に言伝を預け俺はまたロリーナを探し始めた。
何時だったか、カラー侯爵はロリーナに平民の生活をさせていると耳にした。出自の不明な踊り子の娘は何時か捨てられる。社交界では密かに囁かれた話はカラー侯爵の耳にも当然入り、噂を流した者は以降その話をしなくなった。俺自身もロリーナに訊いてみた。彼女はあっさりと答えてくれた。
『年に三度程、一か月街で平民の振りをして生活をしていますよ』と。嫌な顔もせず、寧ろ、楽しいと語るロリーナは何度見ても可愛くて……。理由を知っているのかと訊ねれば首を振られた。
ロリーナへの態度は横に置いても、カラー侯爵は侯爵令嬢としてロリーナを育てる気はあるのだと思っていたが違うのだろうか? 平民として暮らしてほしいのか? どちらなのかはカラー侯爵にしか分からない。
「あ」
目ぼしい場所を訪れてもロリーナはいない。帰ってしまったのではと諦めかけた時、広場付近から人が大勢逃げてきた。彼等の言葉を聞いていると突然大きくて丸い蜂が現れ、花壇の前にいた白髪の女性や護衛と思われる騎士達にハチミツを掛け出したと。女性の容姿に覚えがある俺は急いで花壇へ走った。
到着すると想像した通り、クリスタと護衛の騎士達がいて。街の人々が言っていた通りハチミツ塗れになっていた。
「クリスタ!」
クリスタに駆け寄ったのと同じタイミングで別の方からカリアスが現れた。目が合うと睨まれ苛ついたがクリスタが優先だ。
クリスタの側で膝を折るとハチミツ塗れなクリスタと目が合った。
「グレン……!」
「どうした、一体何があった」
「分からないの! ベルローズ公爵夫人やカリアス様、ロリーナ様と此処で会ったら突然花壇から現れた蜂に襲われて……!」
ロリーナはカリアスだけじゃなく、おば上ともいたのか?
「ロリーナ達は?」
「蜂に襲われる私を置いて逃げたわ……! 私は王女なのよ!? 王族が襲われているのに助けないなんて、城に帰ったらお父様とお母様に言って厳重に処罰してもらうわ!」
「母上があまりに怖がって泣いてしまったから、先に助けられる人を優先したから君達を助けられなかったんだ」
さすがにハチミツ塗れだからか、抱き付いてこないクリスタに安堵しつつ、話を聞いていると逃げたロリーナやおば上達に憤りを覚えるも、いつの間にか側にいたカリアスの台詞に噛みついてしまった。
「王女が襲われているのにか?」
「何の為に護衛騎士がいる。まあ、三人もいて一人も王女をハチから守れていない時点でいてもいなくても同じかな」
クリスタと同じでハチミツ塗れな騎士達は俯いていた。王族の護衛を任されているので腕は立つ。更にカリアスは続けた。
「グレンは王女殿下を助けに此処へ戻ったのか?」
「騒ぎを聞いて駆け付けただけだ。ロリーナは何処だ」
「ロリーナ嬢は僕の母上といる。ハチに襲われていないから無事だ。グレンは王女殿下を城まで送って差し上げろ。ロリーナをほったらかしにしてまで大事な女性なんだろ?」
「何の話だ!」
「ロリーナが一人でいた理由を聞いて君にはとことん呆れた。けど君が愚かなお陰で僕は助かった」
苛立ちが増す。カリアスがロリーナを好きでいるのも、カリアスには素直な姿を見せるロリーナにも。俺自身に問題があるのだと分かっていてもカリアスへの嫉妬は止められない。
「グレンっ、一緒に城に戻ってっ」ハチミツに塗れた手に服を掴まれ、気がカリアスからクリスタに逸れた瞬間――カリアスが聞いたこともない呪文を唱えた。黄金色の魔力が俺を包むもあっという間に消え去った。
何をしたと叫べば、美しいと評される黄金の瞳がドロリと溶けた。おぞましく、背筋に氷を当てられた気分に陥るとカリアスはうっすらと笑った。
「彼女は僕が貰う。君は二度とロリーナ嬢には近付けさせない」
「ま、待て……」
誰がお前にロリーナを渡すか、ロリーナは俺の物だ、妖精の可憐な微笑みも愛らしさも愛しい声も全部、ロリーナは――!!
「君と王女程、お似合いな組み合わせはない。幸せにグレン」
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