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僕が貰う①―グレン視点―
しおりを挟む今日は『花祭り』とあって人の密度は普段に比べて多い。目立つ容姿をするロリーナでも見つけるのは困難だった。
俺が贈ったドレスに珈琲が掛けられていたから、別のワンピースを着たと説明された時感じたのは一瞬の苛立ちだった。そんな嘘を吐いてまで俺と婚約解消をしたいのかと過ったのと同時に、ロリーナの中から俺は消えていたのかという絶望だった。だがロリーナや側にいた侍女の様子からドレスの件は本当のようで、カラー侯爵夫人が贈ってくれたと言うワンピースも似合っていた。いつものようにエスコートをして馬車に乗り込んだ。いつもなら向かいに座るのを今日は隣に座った。ワンピース姿のロリーナも可愛い。
今日が最後の機会だというのに、一言でもロリーナの姿を可愛いと言いたいのに、素直になれない性格は簡単に治らない。ずっと窓を向いたままロリーナが話し掛けては相槌を打つだけだった。
隣から感じる寂しそうな気持ち。言う機会は常にあったのに、街の広場に着いてもとうとう言えなかった。
馬車から降り、早速何処へ行くか話し始めた時、護衛を三人連れたクリスタと遭遇した。
今日クリスタにロリーナと来るとは言っていなかったが、意外そうに見られて俺が意外に感じた。婚約者と来るのは当然だ。クリスタには現在婚約者はいない。
……ロリーナに婚約解消を突き付けられた当日の夜、父に呼ばれ聞かされたのは俺がクリスタと婚約する予定だった事。元々は国王夫妻とクリスタの強い希望で打診があったのにも関わらずロリーナと婚約出来たのは、彼女に一目惚れした俺の願いを叶えてやりたかったからだと。
心のどこかでは気付いていたがクリスタの事は妹のようにしか見ていなかった。クリスタが話し掛けても程々にしろ、まともに相手にするなと忠告するロードや、クリスタと親し気にする度に突っ掛かって来るカリアスの共通点はどれもロリーナ。クリスタと話す度寂しげに、微かな嫉妬を向けるロリーナ。
ロリーナの気持ちが俺に向いているという優越感は気持ちがいい、同時に襲う激しい後悔は何時だって俺をロリーナに近付けさせない。いつかの夜会の時、ファーストダンスを踊った後クリスタがやって来て次のダンスの相手を希望した。断る理由もなく、クリスタといればロリーナに向けられる瞳に仄暗い喜びが得られる。ダンスを踊っている最中でもロリーナを目で追っていた。視界に映り出されたのはカリアスといる光景。途中で止め二人の間に割って入った。
自分の事は棚に上げてロリーナだけ責めるなと怒気が孕んだカリアスの指摘は正論だ。ロリーナの側に自分以外の男がいるだけで頭がどうにかなりそうだった俺は「他人のお前には関係がない」と言い捨てロリーナを連れて別の場所に移動した。
いつかロリーナに捨てられるぞ、とはカリアスの台詞だ。そんな訳があるか、と高を括ったツケが今こうして来てしまった。
広場で会ったクリスタと会話を交わしているとロリーナが側から離れる気配を感じ、呼び止めても口から出るのは可愛げのない言葉達。嫉妬してくれているのだと分かっているのに、俺の口から紡がれるのはどうしようもない言葉だけ。売り言葉に買い言葉。可愛げがないと言った俺にロリーナはこのまま婚約解消を進めると言い放ち早足でこの場を去って行く。すぐに追い掛けようとしたのにクリスタに腕を掴まれた。
「待ってグレン! 婚約解消とはどういう事? 婚約を解消するなら、ロリーナ様を追い掛けなくてもいいじゃない。グレンの言う通り、あんな可愛げのないロリーナ様より私と一緒に……」
「悪いが離してくれクリスタ! すぐにロリーナを追い掛けないと見失ってしまう!」
「あ、グレン!」
クリスタの腕をなんとか振り払い、背後から飛ぶ自分を呼び止める声に応えずロリーナを追い掛けた。すぐに追い掛けたつもりが今日は普段よりも人が多い。見つけ出すのは容易じゃない。
ロリーナが行きそうな場所を当たるが何処にもいない。
「ロリーナっ、どこだ」
ロリーナに会ったら謝って、花祭りを一緒に回ってほしいと言うんだ。
これでは本当に最後になってしまう。
ロリーナと離れたくない、今までの俺が悪かったのは分かっている、これからはと決めていたのに長年張り続けた意地は簡単には消えてくれない。
クリスタや周囲の言う悪女なロリーナと俺が見る妖精のように愛らしいロリーナ。どちらが本当のロリーナなのかとずっと考え、果てに結婚してシュタイン家に嫁いだらずっと側にいてくれたらいいと至った。
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