幸せなのでお構いなく!

文字の大きさ
上 下
17 / 26

働き蜂の妖精さん②

しおりを挟む

 クリスタベル殿下に不穏な言葉は聞こえていないのか、余裕の態度は一切崩れない。淡く光った花畑に皆の視線が一斉に集中した。注目を集める花々から光の球形が出現し、見る見る内に形を変えていく。嫌な予感がしてならないと見ていると、球形は私が知っている形とは異なる蜂となった。真ん丸として、蜂なのに何だかとても可愛らしい。働くのが大好きな妖精のミツバチさんよとはカレンデュラ様の言葉。


「殿下! 下がってください!」


 護衛達が突如として現れたミツバチ達を警戒し、殿下の守りを固めた。
 カレンデュラ様が視線をミツバチ達にやると彼等は一瞬にしてクリスタベル殿下と護衛達を囲った。多数のミツバチに囲まれ、剣を振るって追い払おうとしても刃はミツバチに当たらない。


「なんなのよこの虫は!!」
「カリアス!! お母様はとても怖いわ!! 私達も早く逃げましょう!」
「え」


 え、は私。急に態度を変えたカレンデュラ様に驚くなと言う方が無理で。カリアス様は流石慣れており、周囲の人々が逃げて行くのに混ざった私達も花壇から離れる事に。


「待ちなさい! 私達を助けなさい! これは王族としての命令よ!!」


 ミツバチに囲まれているクリスタベル殿下が叫ぶ。振り返るとクリスタベル殿下や護衛達はハチミツ塗れになっていた。ミツバチ達は次々にハチミツを掛けていく。
 ハチミツが好きな私はつい勿体ないと零してしまう。側で聞いていたカリアス様に笑われて少し恥ずかしい。
 立ち止まったカリアス様は怯える(フリをする)カレンデュラ様を安全な場所に置いたら、すぐに戻りますと私を連れてこの場から離れた。
 花壇からついさっきまでいたカフェ付近に戻った。


「ふふふ! どう? あたしの演技。舞台に立てるかしら」
「随分と楽しそうでしたね母上」
「無駄に歳を取ってないもの。あれくらい序の口よ」
「あのハチミツに毒などはありませんよね?」


 私が訊くとどうかしら? と首を傾げた。え……。


「あ、あるのですか?」
「ミツバチさん達次第ね。妖精は馬鹿にされるのをとっても嫌うの。同族を馬鹿にされるのも同じ。あと、あのハチミツ美味しいのよ? あたしが妖精に会えるかもって言ったのは、ミツバチさん達のハチミツを売る妖精のお店があるかもって意味なの」
「そうだったのですね。カリアス様はこの後戻りますか?」
「ああ言った手前戻るよ。ハチミツを掛けられているだけなら殿下達を馬車に詰め込んで帰ってもらうさ」


 行ってしまったカリアス様を見送ると私とカレンデュラ様は妖精のハチミツ売りを探した。
 広場から逃げてきた人が多いので少し歩きにくい。お姉様やロードナイト殿下も来ているから、何処かで鉢合わせしそうだ。
 と考えているとすぐに予感は当たった。
 お姉様とロードナイト殿下と会い、二人は私がカレンデュラ様といる事に驚くと共にグレン様がいないのを見て事情を察したらしい。訳を話すとそこに呆れが追加された。


「何をやってるんだあいつはっ、クリスタは放っておけと何度……」
「もういいじゃありませんの。今回でシュタイン公爵の堪忍袋の緒も切れるでしょう。陛下や王妃殿下からのチクチクから解放されるなら、公爵も安心されるでしょう」


 二人はグレン様が元々クリスタベル殿下の婚約者になる筈なのを知っていた。ロードナイト殿下はクリスタベル殿下の兄君であるから、知っていても変じゃない。


「グレン様にはもう会っていないの?」
「カフェでお茶をしている時見掛けたので、通信用の魔法で私の事は探さないで下さいと伝えました」
「そうなのね。そういえば、広場の方で騒ぎがあったみたいよ」
「あ、ああ、それは」


 広場の騒ぎを説明すると二人はギョッとした面持ちでカレンデュラ様を見つめた。ロードナイト殿下はお姉様から私の母が妖精である事を知っているので、カレンデュラ様が妖精だと聞いても大して驚きはしなかった。


「王女様がハチミツ塗れ……ハチミツが勿体ないわ」


 お姉様もハチミツが好きなので私と同意見だ。


「今カリアスが戻っているから、その内お城に戻るでしょうね。ミツバチさん達もカリアスが私の息子と知っているから、あれ以上手荒な真似はしないでしょうし」
「ハチミツを掛けるだけで良かったとも思います……ミツバチと言えど、針で刺されると想像したら」
「花壇の周囲には他の虫もいるから、ハチミツ塗れの王女達はとっても魅力的に映るわね~」
「……」
「あたしは平気だけど、確か王女様大の虫嫌いよね。妖精のミツバチさん達が作るハチミツは虫達も大好きだから、湯浴みをしても暫く香りは取れないでしょうね~」


 もしかして、目的は最初からそれじゃ……。
 ロードナイト殿下は「……暫くクリスタの部屋には近付かないでおこう」と呟いた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話

ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。 リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。 婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。 どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。 死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて…… ※正常な人があまりいない話です。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

処理中です...