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働き蜂の妖精さん②
しおりを挟むクリスタベル殿下に不穏な言葉は聞こえていないのか、余裕の態度は一切崩れない。淡く光った花畑に皆の視線が一斉に集中した。注目を集める花々から光の球形が出現し、見る見る内に形を変えていく。嫌な予感がしてならないと見ていると、球形は私が知っている形とは異なる蜂となった。真ん丸として、蜂なのに何だかとても可愛らしい。働くのが大好きな妖精のミツバチさんよとはカレンデュラ様の言葉。
「殿下! 下がってください!」
護衛達が突如として現れたミツバチ達を警戒し、殿下の守りを固めた。
カレンデュラ様が視線をミツバチ達にやると彼等は一瞬にしてクリスタベル殿下と護衛達を囲った。多数のミツバチに囲まれ、剣を振るって追い払おうとしても刃はミツバチに当たらない。
「なんなのよこの虫は!!」
「カリアス!! お母様はとても怖いわ!! 私達も早く逃げましょう!」
「え」
え、は私。急に態度を変えたカレンデュラ様に驚くなと言う方が無理で。カリアス様は流石慣れており、周囲の人々が逃げて行くのに混ざった私達も花壇から離れる事に。
「待ちなさい! 私達を助けなさい! これは王族としての命令よ!!」
ミツバチに囲まれているクリスタベル殿下が叫ぶ。振り返るとクリスタベル殿下や護衛達はハチミツ塗れになっていた。ミツバチ達は次々にハチミツを掛けていく。
ハチミツが好きな私はつい勿体ないと零してしまう。側で聞いていたカリアス様に笑われて少し恥ずかしい。
立ち止まったカリアス様は怯える(フリをする)カレンデュラ様を安全な場所に置いたら、すぐに戻りますと私を連れてこの場から離れた。
花壇からついさっきまでいたカフェ付近に戻った。
「ふふふ! どう? あたしの演技。舞台に立てるかしら」
「随分と楽しそうでしたね母上」
「無駄に歳を取ってないもの。あれくらい序の口よ」
「あのハチミツに毒などはありませんよね?」
私が訊くとどうかしら? と首を傾げた。え……。
「あ、あるのですか?」
「ミツバチさん達次第ね。妖精は馬鹿にされるのをとっても嫌うの。同族を馬鹿にされるのも同じ。あと、あのハチミツ美味しいのよ? あたしが妖精に会えるかもって言ったのは、ミツバチさん達のハチミツを売る妖精のお店があるかもって意味なの」
「そうだったのですね。カリアス様はこの後戻りますか?」
「ああ言った手前戻るよ。ハチミツを掛けられているだけなら殿下達を馬車に詰め込んで帰ってもらうさ」
行ってしまったカリアス様を見送ると私とカレンデュラ様は妖精のハチミツ売りを探した。
広場から逃げてきた人が多いので少し歩きにくい。お姉様やロードナイト殿下も来ているから、何処かで鉢合わせしそうだ。
と考えているとすぐに予感は当たった。
お姉様とロードナイト殿下と会い、二人は私がカレンデュラ様といる事に驚くと共にグレン様がいないのを見て事情を察したらしい。訳を話すとそこに呆れが追加された。
「何をやってるんだあいつはっ、クリスタは放っておけと何度……」
「もういいじゃありませんの。今回でシュタイン公爵の堪忍袋の緒も切れるでしょう。陛下や王妃殿下からのチクチクから解放されるなら、公爵も安心されるでしょう」
二人はグレン様が元々クリスタベル殿下の婚約者になる筈なのを知っていた。ロードナイト殿下はクリスタベル殿下の兄君であるから、知っていても変じゃない。
「グレン様にはもう会っていないの?」
「カフェでお茶をしている時見掛けたので、通信用の魔法で私の事は探さないで下さいと伝えました」
「そうなのね。そういえば、広場の方で騒ぎがあったみたいよ」
「あ、ああ、それは」
広場の騒ぎを説明すると二人はギョッとした面持ちでカレンデュラ様を見つめた。ロードナイト殿下はお姉様から私の母が妖精である事を知っているので、カレンデュラ様が妖精だと聞いても大して驚きはしなかった。
「王女様がハチミツ塗れ……ハチミツが勿体ないわ」
お姉様もハチミツが好きなので私と同意見だ。
「今カリアスが戻っているから、その内お城に戻るでしょうね。ミツバチさん達もカリアスが私の息子と知っているから、あれ以上手荒な真似はしないでしょうし」
「ハチミツを掛けるだけで良かったとも思います……ミツバチと言えど、針で刺されると想像したら」
「花壇の周囲には他の虫もいるから、ハチミツ塗れの王女達はとっても魅力的に映るわね~」
「……」
「あたしは平気だけど、確か王女様大の虫嫌いよね。妖精のミツバチさん達が作るハチミツは虫達も大好きだから、湯浴みをしても暫く香りは取れないでしょうね~」
もしかして、目的は最初からそれじゃ……。
ロードナイト殿下は「……暫くクリスタの部屋には近付かないでおこう」と呟いた。
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