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お一人様上等

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「やっちゃったな……」


 適当な店に入って小さく溜め息を吐いた。今更グレン様にクリスタベル殿下と仲良くするな、なんて私が言える立場じゃない。相思相愛の二人を引き裂く悪女等と悪口を殿下の取り巻きである令嬢方に言われた事がある。相手は伯爵家や同じ侯爵家のご令嬢だったが、黙ったままではカラー侯爵家が馬鹿にされる。私が馬鹿にされるのはいい、でもカラー家を馬鹿にするのは許せない。無口なお父様と違ってお姉様はとてもお喋り。色々な話を私に聞かせてくれた。件の令嬢達にとって不利な話題もあった。遠慮なく披露させてもらうと顔を青褪め、そそくさと退散していったのは記憶に新しい。

 でもこれで私達の婚約解消は進む。どれだけグレン様が拒否なさろうとシュタイン公爵様は了承してくれる。


「気持ちを切り替えよう」


 折角の花祭りなのだ。お一人様だろうが楽しんでやる。

 私が入ったお店はハンカチを主に売るお店で、多種類のハンカチが販売されている。孤児院の子供達が縫ったハンカチもあれば、著名な方が縫ったハンカチもある。貴族の方が作ったハンカチは高い値段を付けられているが平民でも記念品として買える値段に設定されてあり、手を伸ばしやすい。


「お姉様達へのお土産にしましょう」


 お姉様は勿論、お父様やお義母様、私の世話をしてくれる侍女にも。カラー家に仕える使用人達とは距離があるものの、私の世話を担当する侍女とはまあまあの距離で接している。何が好きか等はあまり聞かないが窓辺に小鳥が止まると私に教えるのできっと鳥が好きな筈。彼女には鳥の刺繍があるハンカチを。お姉様やお義母様には花を、お父様は猫を。迫力ある見目でありながらお父様は意外にも動物好きで、特にネコは好きだ。見目のせいで怖がられて子猫にまで逃げられた場面を目撃した時のお父様の寂しそうな姿が忘れられない。いつか、お父様を見ても怖がらない猫を飼ってみたいな。

 お土産用のハンカチを小さなカゴに入れて、自分用にはどれを選ぼうかと見ていく。花や動物が多い中、果物の刺繍がされたハンカチもあった。珍しくて自分用で使おうと小さなカゴに入れた。
 お土産用を四枚、自分用に二枚ハンカチを購入した。お土産用は一枚一枚ラッピングをしてもらった。少しでも喜んでくれたらいいなあ。

 お店出て次は何処へ行こうか悩んだ。勢いでグレン様の許を離れ、入り込んでしまった。

 動きやすいワンピースを着ているのだから、沢山の露店等を見て回りたい。

 街を歩いて何処が良いかを見ていく。行列が出来ているお店はどこも恋人達や家族連れが多い。そこに一人で並ぶ勇気がない。仲睦まじい恋人達が羨ましくなるな。結局、私とグレン様はお似合いじゃなかったのだ。私に一目惚れをしてくれたらしいが、私の悪い噂を信じて嫌いになった程だ。一目惚れってそんな感じなんだなあ、と自嘲したくなる。


「ロリーナ嬢?」
「カリアス様」

 
 不意に声を掛けてきた相手はカリアス様。側には誰もいない。カリアス様も一人でいるのかと訊くと「いや、僕は母上の付き添いだよ」と言われた。ベルローズ公爵夫人には、断りの手紙を送ってもらった。グレン様の最後の機会という言葉と私自身が思い出欲しさで断ってしまったから。ただ、こんな事になるなら最初から夫人の誘いを受けていたら良かった。カリアス様も今日私はグレン様と花祭りを回っていると夫人から聞かされて。そんな私が一人でいる理由を疑問に思わない筈もなく、広場に着いた途端クリスタベル殿下と会ってしまった事を話した。すると、心底呆れ果てた溜め息を吐かれた。自嘲気味な笑みを見せたら私じゃないと首を振られた。


「グレンだ。殿下が来たからって君を放って話し込むなんて信じられない」
「前にグレン様が私に一目惚れをしたと教えてくれたましたが、どうも信じられません。最後の機会をと言われた今日でもグレン様はクリスタベル殿下と話す方が楽しそうでした」
 

 私には決して見せてくれない笑みも向けてくれない声も、どれもクリスタベル殿下には与えるのにね……。


「……あいつは大馬鹿だ。放っておけと何度も言ったのに。が、大馬鹿で助かっている」
「え」
「婚約解消はもう決まったも同然だろう? なら、僕と行こう。母上もいるから、二人きりって訳にはいかないが変な噂は立たないさ」
「気を遣わせてしまってすみません」
「いいんだ。僕がしたいだけだから。それに君からの好感度が上がってくれるなら、尚嬉しいな」
「まあ」


 ベルローズ夫人が入っていると言うお店の付近まで連れて行かれ、人に当たらないよう壁側に寄った。カリアス様の気遣いに感謝しつつ、明るくさせようと振る舞う姿が嬉しい。グレン様と婚約解消をしたら、次に婚約をしてほしいと申し込まれた。従弟の婚約者である私にそこまで気を遣ってもらって却って申し訳ない。彼にはもっと素敵な女性がお似合いだ。
 やんわりと断る方法はないかと考えていたら「お待たせ」鈴の音を転がした声色が耳に入った。
 

 

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