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花祭りへのお誘い①

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「もし良ければ、僕の話し相手になってくれないか? 実はもうじき開催される花祭りで妖精が見られるかもしれないんだ」
「まあ、妖精を?」


 妖精とは自然界で生きる存在を指す。人間の前には滅多に姿を現さない為、実際の姿を殆ど知られていない。
 極稀に人間の振りをして生活している妖精もいる。
 ……亡くなった母がそうである。
 私は極稀な妖精と人間の混血児。そして、カリアス様もそうである。カリアス様の母君は妖精。妖精は非常に見目麗しい外見をしている。義母のように同性であっても心奪われる程に。
 夫人に一目惚れをしたベルローズ公爵は必至のアプローチで夫人の心を掴み、裕福な平民の娘と偽って理解ある貴族家の養子にし、その後結婚。カリアス様を授かった。妖精の血を引くカリアス様は夫人と同等の美しさを持つ。


「妖精はお祭りが大好きだからね。母上も楽しみにしている」
「カリアス様の話を聞いて私も楽しみになりました」


 夫人と会ったのは指で数える程度だがとても気さくで優しい女性だ。私の母を知っており、母に似た私を見ると懐かしそうにする。
 お父様の許可を貰い、カリアス様を庭に案内した。少し離れた位置に侍女を付けている。婚約解消を求めていてもまだ婚約者のまま。男性と二人きりになるのはまずい。
 適切な距離感を保って歩いていると急にカリアス様の足が止まった。


「どうされました?」
「実は……さっき城で君とグレンが言い合っているのを見てしまって」
「あ……」
「婚約を解消するとも聞いた。それで居ても立っても居られなくて来てしまったんだ」


 いくら優しい方でも従弟であるグレン様に婚約解消を突き付けた私に良い気持ちはしなかっただろう。私の気持ちを読んだのか、違うとカリアス様は首を振られた。


「君がグレンと婚約解消をするのなら、僕にチャンスが回って来たのだと思うとつい先走ってしまった」
「チャンス?」
「君がグレンを好きだと知っていたし、グレンの為に努力していた君を見ていたからずっと諦めていたんだ」
「私はグレン様に嫌われていましたけどね……」
「……あいつはどうしようもない。意地を張って君に冷たく当たるなんて」
「意地?」
「ああ。今となってはただの馬鹿だ。だが、その馬鹿のお陰で僕はチャンスを得た」


 真剣な眼差しで見つめられカリアス様から目を逸らせない。


「婚約が解消されたら、僕と婚約してほしい」


 思いもしなかった告白に驚いているとふわっと微笑まれた。


「勿論、無理にとは言わない。君にその気が起きたらで良い」
「す、すぐにお答えは出来ません……」
「分かっているよ。いくら時間が掛かっても良い。考えてくれれば、それだけでいい
 」
「はい……」


 急展開に付いていけない私とは違い、カリアス様の余裕は最後まで崩れなかった。
 それから他愛もない話をし、カリアス様は帰って行った。
 部屋に戻る気になれなかった私はセレーネお姉様の部屋を訪れた。快く入れてくれたお姉様に先程告白された旨を話すと意外そうに驚かれた。


「あら、ロリーナは気付いてなかったのね」
「お姉様は知ってたのですか?」
「だってカリアス様、いつもロリーナを見ていたもの。ロリーナに冷たくして他人には愛想良く振る舞うグレン様を睨んでいたし」
「そ、そうだったのですか」


 知らなかった……。それも私がグレン様だけを見続けた結果だ。婚約を受けるかは分からないが花祭りについては教えられて感謝している。花祭りは主に恋人や家族で行くのが恒例となっている。
 お姉様はロードナイト殿下と。私はグレン様と。……だが、楽しいと思った事がない。律儀にドレスと靴、鞄等を贈ってくれるが一度だって似合っていると誉められた事がない。鉢合わせるロードナイト殿下の方が余程気を遣って褒めてくれる。お姉様が一緒にいるのに申し訳ない気持ちで一杯になった。
 花を見ながら街を歩くのだがお互い無言のまま終わる。今年は婚約解消をするのだから一緒には行けない。


「今年は花祭りに行かないのでお土産を頼んでいいですか?」
「だったら、わたくしとロードナイト殿下の三人で行きましょう」
「いえ、お姉様達の邪魔はしたくありません」
「邪魔だなんてわたくしも殿下も思わないのに」


 二人がそうでも周りはそう思ってくれない。渋るお姉様を何とか説得し、お土産を強請った。



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