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不可解①
しおりを挟む急にやって来た私とお姉様に少し待つように言い、幾つかの書類に素早くサインをしたお父様はそれを側に控えていた執事に渡すと私達へ向いた。
「話とは?」
ゲイル=カラー。
私とお姉様の父でカラー侯爵家の当主。癖のある煌めく黄金の髪に濃い紫水晶の瞳の美丈夫。同年代の人と比べると圧倒的に若く見える。義母も同じである。私の容姿は青みがかった銀髪に父と同じ瞳の色。毛先に掛けて癖があるのは、髪質も父に似たからだろう。これに関しては姉と同じ。私の髪色は母と同じ。顔立ちも母そっくりだからこそ、母に恋した義母は恋心が目覚めないよう最低限にしか接しないのかもしれない。
ほんわかなお姉様と違い、冷徹で見る者を凍らせる紫水晶の瞳に緊張感が格段に増すも、隣にいるお姉様が気遣うように頭を撫でてくれたから幾分か緊張が和らいだ。覚悟を決めてお父様にグレン様との婚約解消を求めた。
勿論、理由も忘れず。
私の話が終わるとお父様は「分かった」とだけ発した。
え……?
「お、お父様、それだけですか?」
「それだけとは?」
「反対しないのですか?」
「お前は反対してほしかったのか?」
「いえ……あ、あまりにあっさり頷かれたので」
「……グレン殿の態度は目に余る。私はセレーネには勿論、お前にも幸せになってもらいたいと思っている。シュタイン家とは、必ず繋がりを持たないといけない事情がない。シュタイン公爵には、私から連絡を入れておこう」
「ありがとうございます」
「困るのは向こうだしな」
「?」
どういう意味だろうか、と訊ねると珍しく父は目を丸くした。
が、素に戻るのが早く聞きたくても聞けなかった。
執務室を出るとお姉様に「良かったわね、ロリーナ」と婚約解消の了承を貰えた事に安堵された。
「あっさり受け入れられてちょっと不安です……」
「不安がらなくても大丈夫。後はお父様に任せましょう」
「さっきのお父様はどうして不思議そうな顔をしたのでしょう? それに、シュタイン公爵家が困るって……」
「さあ……でも、他人になるのだし気にしないでいきましょう」
「はい……」
「正式に解消になったら、新しい恋を見つけないとね!」
「お姉様、気が早いですわ」
でも、助かっている部分もある。
常に前向きで明るいお姉様に何度救われたか。思えば、クリスタベル殿下と仲睦まじいグレン様を初めて見た時、涙が止まらない私の側にいてずっと慰めてくれたのがお姉様だ。お姉様が根気よく付き合ってくれたから、何とか立ち直れた。
今度、ロードナイト殿下にお姉様が喜ぶ物を聞いてプレゼントしよう。私が聞いてもお姉様は私がくれるなら何でもいいと仰るから。
――数日後。婚約解消に向けてお父様とシュタイン公爵と話し合いが持たれた。場所は何故か王宮。どうして? と首を傾げる私とは違い、お姉様は事情を知っているのかそれともロードナイト殿下がいるからかいつも通りほんわかとしている。きっと後者ね。
お父様とシュタイン公爵が話し合っている最中、私はお姉様とロードナイト殿下から離れ一人薔薇園に来ていた。二人は一緒にいていいと気を遣ってくれたが相思相愛の二人を見ているとお腹一杯なので遠慮した。
それに……
「駄目ね……」
理想の恋人同士な二人を見ていると婚約者に嫌われている自分が惨めになる。薔薇園は王妃殿下お気に入りの場所で訪れる許可は事前に貰っている。
それなりの時間が経ったら戻ろうか……と、見事な赤い薔薇の園を見て回っていると――見たくない人達がいた。
「あ……」
一人は婚約解消予定のグレン様。
側にいる女性はクリスタベル殿下。
薔薇の花束を持ってグレン様を見上げるクリスタベル殿下の愛らしさと言ったら……そして、そんな殿下を愛おし気に見つめるグレン様。
「……」
やっぱり……お姉様達の言葉に甘えて一緒にいたら良かった。
惨めな気持ちはより惨めになった。
違う場所へ行こうと踵を返すと「ロリーナ?」……気のせいにしておこうと、足を動かすも。
「ロリーナ」
グレン様の歩く速度の方が速く、あっという間に捕まった。
捕まってしまったら聞こえていなかったとは通じない。観念して振り向いた。グレン様のちょっと後ろにはクリスタベル殿下までいた。
「ご機嫌よう王女殿下、グレン様」
「何故君が此処に居る」
「お父様に言われ登城しました」
「カラー侯爵が?」
「手を離して頂きたいですグレン様。痛いので」
「……」
逃げる意思がないと分かると渋々手を離してくれた。薄っすら赤くなってる……最悪だ。
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