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12話
しおりを挟む「ここまでが、今日まで起こった不思議な出来事です。理解してくれた?」
「……」
「……」
居酒屋よっちゃんの店内は、まだ僕らしかお客は居なかった。このお店のピークは深夜なのである。決して人気の無いお店という訳じゃないので勘違いしちゃダメですよ!
店内には、仕込みをする大将の心地良いBGMが響いている。時計を見ると、夜の9時を過ぎていた。1時間くらい話していたと思う。
二人とも、ずっと黙って聞いていてくれた。でも不思議だ。二人とも顔が真っ赤なのである。話すのに夢中で見ていなかったけど、強いお酒でも飲んでいたのだろうか?
「ちゃんと聞いてた? もう一回最初から話そうか?」
「やめろ! もう十分だ!!」
「そうですわ! 甘すぎますわ!!」
二人は何を言っているのだろうか。【吹き出し】が見えるようになったんだよ? ネット小説に出てくるような、ワクワク体験なはずなのに……不思議だ。
「おい玲子、今の話聞いてどう思った?」
「はやくお付き合いすればいいのにって思いましたわ!」
「こいつら手も繋いだことないらしいぞ?」
「幼稚園生でも手を繋ぎますのに……」
二人の会話がヒートアップしている。いや確かに葉月ちゃんの話もしたけど……あれ、何を言ったか思い出せないや。
「大将! 日本酒の強いやつちょーだい!!」
「私はワインの赤でお願いしますわ」
「おう!」
大将の威勢のいい声が返ってきた。これは深酒コースな気がするぞ。
「ちょっと二人とも、明日も講義あるけど大丈夫なの?」
「薫、お前のせいだ。付き合え」
「そうですわ薫さん、飲まなきゃやってられませんわ!」
二人とも壊れてしまった。しょうがないから僕も付き合うとしよう。
修二が頼んだ日本酒を飲みながら、話が盛り上がる。
「それにしても薫から真剣な相談なんて言うから何かと思ったら、また惚気かよ!」
「ひどい不意打ちでしたわ。胸焼けしそうですわ」
「いや確かに葉月ちゃんといい感じになったけど、からかわれてるんじゃないかな?」
「……はぁ、これだから童貞は」
「……はぁ、こじらせ童貞は手に負えませんわね」
ひどい言われようだ。玲子さんも酔っぱらってるなぁ。玲子さんから童貞って言葉を聞くと、ドキドキします!
「否定はしない! でもほら、僕の勘違いだったらすごく痛いやつじゃん? 『……先輩、本気になっちゃったんですか? キモイです』とか、葉月ちゃんに言われたら自殺するよ!?」
「こじらせてるな」
「やばいですわ」
なんだろう。ちょっと自信持っていいのだろうか?
「そもそもですわ! 葉月ちゃんは小中高一貫の女子高に通ってるんですのよ。男性に免疫あるわけないじゃない! それなのにあんな恥ずかしいセリフ、イチコロですわ!」
「え、玲子さん、なんでそんな事知ってるの?」
「葉月ちゃんは私の後輩ですわ。桜花女学院の卒業ですの」
「知らなかった~」
葉月ちゃんと玲子さんが先輩後輩か。玲子お姉さま、って言葉にするとちょっとドキドキするね。
「そんなお嬢様がなんでバイトしてんだろな、家も厳しそうだけど」
「詳しくは聞いてませんが、社会勉強らしいですわ」
「社会勉強に出して、こんな童貞に捕まったのか……」
「親御さん、泣いちゃいますわね」
「ひどいぞおらえらー!」
もう言われたい放題である。どうしよう。メンタルブレイクだ。こうなったら開き直って、先生に教えて貰おう。玲子先生、って言葉にするとちょっとドキドキします!
「俺はいったいどうしたら良いんですか? 教えて下さい!!」
「……」
「……」
頭を下げる。けど、何も返事がない。
ちょっと顔を上げて見る。二人は真剣な表情で、こっちを見つめていた。
今までの和気あいあいとした雰囲気ではない、真剣な雰囲気だ。
厨房から聴こえる大将の包丁を研ぐ音が、やけに近く感じる気がする。
「おい薫、お前はどうしたいんだ?」
「……どうしたいか?」
「そうですわ、葉月ちゃんと付き合いたいんですの?」
二人の言葉が胸に突き刺さる。
これはふざけて良い場面じゃないな。
僕の気持ちを、二人に聞いて貰わないといけない。さっきまで、第三者視点での意見を貰った。僕はこじらせ童貞かもしれないが、今回ばかりは自信を持ってもいいのではないだろうか?
俺の気持ちを、伝えなければならない。葉月ちゃんのことを、どう思っているのか。どうなりたいのか。
……そうだな、そんな難しいことじゃない。ありのままを伝えよう。
姿勢を正し、二人に視線を合わせる。
届け! 僕の思い!!
「僕は葉月ちゃんが好きだ……」
――自然と言葉が出てきた。
「葉月ちゃんの、笑っているところが好きだ……」
――他愛もない会話の中で、時たま浮かぶ彼女の笑顔が嬉しい。
「気が付くと、葉月ちゃんの笑顔を思い浮かべているんだ……」
――夕焼けの中、満面の笑みを浮かべる葉月ちゃんを思い出す。
「俺の体は、葉月ちゃんでいっぱいになっちゃったんだ……」
――ちょっと喧嘩したり、ふざけあったり、そんな日常が何よりも愛おしい。
「だから、もう葉月ちゃんしか考えられない。どうしたら良いだろうか……?」
店内を静寂が支配する。
外の喧騒も、大将の包丁を研ぐ音も、何も聞こえない。
目の前の二人も、微動だにしない。
世界が止まってしまった。
寝てるのか?
「ちゃんと聞いてた? もう一回最初から話そうか?」
「やめろ! もう十分だ!!」
「そうですわ! 甘すぎますわ!!」
先生たちの反応がおかしいです。また顔を真っ赤にしている。これからどうしたら良いか、的確なアドバイスが貰えると思ったのに……。謎だ。
そんな事を考えていたら、いつの間にか大将が横にいた。
「薫、良く言った! これは奢りだ、いっぱい飲め!」
大将に背中を叩かれ、日本酒の一升瓶が置かれた。いや、さすがこんなに飲めないよ?
「薫は天然のたらしだな」
「自覚がないところがひどいですわ。葉月ちゃんが耐えられる訳ないですわ」
たらしとかひどい。おい先生、仕事しろ! アドバイスぷりーず!!
「薫、今ので良い。自分の気持ちを伝えるんだ」
「でも雰囲気が大事ですわ。場を整えて告白するんですよ」
「また難しいことを……」
上級者のアドバイスは難しいです。雰囲気とか無理ゲー。
「さっきの話じゃ、今度映画行くんだろ? そこで手を繋いでデートしろ」
「そうですわ、それくらいが丁度いいですわね。焦っちゃだめですよ?」
「今度相談させてください」
映画とか全然知らないけど、恋愛マスターの玲子先生に教えて貰おう。玲子先生の個人授業とか、言葉にするとちょっとドキドキするね!
「あー、やっと落ち着くな。なんかドキドキしまくって疲れたぜ」
「そうですわ。もっとしっかりして下さい薫さん!」
みんな笑顔になった。確かにドキドキしたな。
気兼ねなく話し合える仲間との飲み会は、すごく楽しい。
ずっと大事にしたいと思った。
だからだろうか。
本当なら自分だけの秘密にした方がいいのだろうけど、包み隠さず伝えようと思う。こんな事を言ったところで宇宙人を見るような目で見られたり、脳の異常を疑われるかもしれない。
でもこの二人に、この親友達に知って貰いたいと、心から思った。
僕は小説に出て来るような凄い主人公なんかじゃない、ヘタレな童貞だ。この能力を隠して自分だけが優越感に浸ったり、成り上がる事なんて出来ないだろう。それにこれはラノベに出て来るような優秀な鑑定とは思えない。
よし、覚悟を決めよう。
「話は戻るけどさ。修二、今日死ぬかもしれないっぽいよ?」
二人の顔がまた凍り付いた。
今日の飲み会は、まだ終わりそうにない……。
「……」
「……」
居酒屋よっちゃんの店内は、まだ僕らしかお客は居なかった。このお店のピークは深夜なのである。決して人気の無いお店という訳じゃないので勘違いしちゃダメですよ!
店内には、仕込みをする大将の心地良いBGMが響いている。時計を見ると、夜の9時を過ぎていた。1時間くらい話していたと思う。
二人とも、ずっと黙って聞いていてくれた。でも不思議だ。二人とも顔が真っ赤なのである。話すのに夢中で見ていなかったけど、強いお酒でも飲んでいたのだろうか?
「ちゃんと聞いてた? もう一回最初から話そうか?」
「やめろ! もう十分だ!!」
「そうですわ! 甘すぎますわ!!」
二人は何を言っているのだろうか。【吹き出し】が見えるようになったんだよ? ネット小説に出てくるような、ワクワク体験なはずなのに……不思議だ。
「おい玲子、今の話聞いてどう思った?」
「はやくお付き合いすればいいのにって思いましたわ!」
「こいつら手も繋いだことないらしいぞ?」
「幼稚園生でも手を繋ぎますのに……」
二人の会話がヒートアップしている。いや確かに葉月ちゃんの話もしたけど……あれ、何を言ったか思い出せないや。
「大将! 日本酒の強いやつちょーだい!!」
「私はワインの赤でお願いしますわ」
「おう!」
大将の威勢のいい声が返ってきた。これは深酒コースな気がするぞ。
「ちょっと二人とも、明日も講義あるけど大丈夫なの?」
「薫、お前のせいだ。付き合え」
「そうですわ薫さん、飲まなきゃやってられませんわ!」
二人とも壊れてしまった。しょうがないから僕も付き合うとしよう。
修二が頼んだ日本酒を飲みながら、話が盛り上がる。
「それにしても薫から真剣な相談なんて言うから何かと思ったら、また惚気かよ!」
「ひどい不意打ちでしたわ。胸焼けしそうですわ」
「いや確かに葉月ちゃんといい感じになったけど、からかわれてるんじゃないかな?」
「……はぁ、これだから童貞は」
「……はぁ、こじらせ童貞は手に負えませんわね」
ひどい言われようだ。玲子さんも酔っぱらってるなぁ。玲子さんから童貞って言葉を聞くと、ドキドキします!
「否定はしない! でもほら、僕の勘違いだったらすごく痛いやつじゃん? 『……先輩、本気になっちゃったんですか? キモイです』とか、葉月ちゃんに言われたら自殺するよ!?」
「こじらせてるな」
「やばいですわ」
なんだろう。ちょっと自信持っていいのだろうか?
「そもそもですわ! 葉月ちゃんは小中高一貫の女子高に通ってるんですのよ。男性に免疫あるわけないじゃない! それなのにあんな恥ずかしいセリフ、イチコロですわ!」
「え、玲子さん、なんでそんな事知ってるの?」
「葉月ちゃんは私の後輩ですわ。桜花女学院の卒業ですの」
「知らなかった~」
葉月ちゃんと玲子さんが先輩後輩か。玲子お姉さま、って言葉にするとちょっとドキドキするね。
「そんなお嬢様がなんでバイトしてんだろな、家も厳しそうだけど」
「詳しくは聞いてませんが、社会勉強らしいですわ」
「社会勉強に出して、こんな童貞に捕まったのか……」
「親御さん、泣いちゃいますわね」
「ひどいぞおらえらー!」
もう言われたい放題である。どうしよう。メンタルブレイクだ。こうなったら開き直って、先生に教えて貰おう。玲子先生、って言葉にするとちょっとドキドキします!
「俺はいったいどうしたら良いんですか? 教えて下さい!!」
「……」
「……」
頭を下げる。けど、何も返事がない。
ちょっと顔を上げて見る。二人は真剣な表情で、こっちを見つめていた。
今までの和気あいあいとした雰囲気ではない、真剣な雰囲気だ。
厨房から聴こえる大将の包丁を研ぐ音が、やけに近く感じる気がする。
「おい薫、お前はどうしたいんだ?」
「……どうしたいか?」
「そうですわ、葉月ちゃんと付き合いたいんですの?」
二人の言葉が胸に突き刺さる。
これはふざけて良い場面じゃないな。
僕の気持ちを、二人に聞いて貰わないといけない。さっきまで、第三者視点での意見を貰った。僕はこじらせ童貞かもしれないが、今回ばかりは自信を持ってもいいのではないだろうか?
俺の気持ちを、伝えなければならない。葉月ちゃんのことを、どう思っているのか。どうなりたいのか。
……そうだな、そんな難しいことじゃない。ありのままを伝えよう。
姿勢を正し、二人に視線を合わせる。
届け! 僕の思い!!
「僕は葉月ちゃんが好きだ……」
――自然と言葉が出てきた。
「葉月ちゃんの、笑っているところが好きだ……」
――他愛もない会話の中で、時たま浮かぶ彼女の笑顔が嬉しい。
「気が付くと、葉月ちゃんの笑顔を思い浮かべているんだ……」
――夕焼けの中、満面の笑みを浮かべる葉月ちゃんを思い出す。
「俺の体は、葉月ちゃんでいっぱいになっちゃったんだ……」
――ちょっと喧嘩したり、ふざけあったり、そんな日常が何よりも愛おしい。
「だから、もう葉月ちゃんしか考えられない。どうしたら良いだろうか……?」
店内を静寂が支配する。
外の喧騒も、大将の包丁を研ぐ音も、何も聞こえない。
目の前の二人も、微動だにしない。
世界が止まってしまった。
寝てるのか?
「ちゃんと聞いてた? もう一回最初から話そうか?」
「やめろ! もう十分だ!!」
「そうですわ! 甘すぎますわ!!」
先生たちの反応がおかしいです。また顔を真っ赤にしている。これからどうしたら良いか、的確なアドバイスが貰えると思ったのに……。謎だ。
そんな事を考えていたら、いつの間にか大将が横にいた。
「薫、良く言った! これは奢りだ、いっぱい飲め!」
大将に背中を叩かれ、日本酒の一升瓶が置かれた。いや、さすがこんなに飲めないよ?
「薫は天然のたらしだな」
「自覚がないところがひどいですわ。葉月ちゃんが耐えられる訳ないですわ」
たらしとかひどい。おい先生、仕事しろ! アドバイスぷりーず!!
「薫、今ので良い。自分の気持ちを伝えるんだ」
「でも雰囲気が大事ですわ。場を整えて告白するんですよ」
「また難しいことを……」
上級者のアドバイスは難しいです。雰囲気とか無理ゲー。
「さっきの話じゃ、今度映画行くんだろ? そこで手を繋いでデートしろ」
「そうですわ、それくらいが丁度いいですわね。焦っちゃだめですよ?」
「今度相談させてください」
映画とか全然知らないけど、恋愛マスターの玲子先生に教えて貰おう。玲子先生の個人授業とか、言葉にするとちょっとドキドキするね!
「あー、やっと落ち着くな。なんかドキドキしまくって疲れたぜ」
「そうですわ。もっとしっかりして下さい薫さん!」
みんな笑顔になった。確かにドキドキしたな。
気兼ねなく話し合える仲間との飲み会は、すごく楽しい。
ずっと大事にしたいと思った。
だからだろうか。
本当なら自分だけの秘密にした方がいいのだろうけど、包み隠さず伝えようと思う。こんな事を言ったところで宇宙人を見るような目で見られたり、脳の異常を疑われるかもしれない。
でもこの二人に、この親友達に知って貰いたいと、心から思った。
僕は小説に出て来るような凄い主人公なんかじゃない、ヘタレな童貞だ。この能力を隠して自分だけが優越感に浸ったり、成り上がる事なんて出来ないだろう。それにこれはラノベに出て来るような優秀な鑑定とは思えない。
よし、覚悟を決めよう。
「話は戻るけどさ。修二、今日死ぬかもしれないっぽいよ?」
二人の顔がまた凍り付いた。
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