私のお父様とパパ様

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連載―私はお父様とパパ様がいれば幸せです―

その頃、ティミトリスは

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 窓の下……城の庭園が見渡せる景色の良い場所で、窓枠に肘を立てて愉しげに下を見下ろすのはティミトリス。隣で頭を抱えるホワイトゲート公爵に意地の悪い青の瞳を向けた。口元はニヤついている。


「はは、ご立派な皇太子妃候補なことだな。公爵令嬢でありながら、シルバニアよりも上ときたか」
「あの馬鹿娘……」


 妻、娘は皇后のお気に入りだったから調子に乗り勘違いをしてしまっているが。本来、シルバニア家以上の公爵家などありはしない。
 遠い昔から帝国を守り続ける守護神であり、皇族と良好な関係を築き上げてきたシルバニア家。フラヴィウスの教えを一応守っているティミトリスとしては、マーガレット個人がどうなろうが気に掛ける義理も価値もないので放置が一番。
 ただ、愛娘メアリーに害があるなら始末するだけ。何度始末してやろうかと過るも、隣にいる男に何度も頭を下げられてきた。

 皇帝アーレントと幼少期の頃から交流があり、右腕となるよう育てられたデイビットは皇后や皇后派の貴族達と違い、帝国の貴族としてシルバニア家を尊敬し、恐れている。

 下では今、自分こそが皇太子妃に相応しくメアリーが無礼を働いて良い存在じゃないと激昂したマーガレットにミカエリスが頬を打った。誰も思いもしなかった行動に固まってしまっている。ミカエリスだけ、冷え冷えとした黄金の瞳でマーガレットを視界に入れている。


「公爵。マーガレットに皇太子妃教育を受けれる教育はしていたんだよな?」
「ええ……陛下が、皇太子殿下がマーガレットを選ぶと言われ、妻や娘にはホワイトゲート家の者として当然だと言い教育しました」
「結果がこれか」


 頭から手を離した公爵は階下を見た。まだ、固まっている。


「……マーガレットが皇太子殿下に近付く女性を常に牽制していたのは知っています。度が過ぎ始めたのは、皇后様に触発されたからでしょう」
「お前は止めなかったのか」
「妻にはマーガレットへの悪影響だと皇后様との関係を控えるよう言い付けはしましたが」
「はは、出来たら苦労はない。それに夫人の方もマーガレットを皇太子妃になるのは悪くなかったんだろう」
「全く……ですが、これではマーガレットを皇太子殿下の婚約者にしておくのは無理です」


 仮令、ミカエリスが許しても周囲が止めても公爵はこの後アーレントに掛け合ってマーガレットを婚約者から外してもらう。メアリーとミカエリスの婚約書は魔法の契約が掛けられていたが、ミカエリスとマーガレットは万が一を考え魔法は掛けられていなかった。
 幸いとはこういう事を言うのだろう。


「欲張りすぎたんだよ。あの女共は」


 固まりから次第に体を震わせ始めたマーガレットの空色の瞳から雫が零れ始めた。大声上げて泣き出せばティミトリスは大笑しない自信がない。
 欲深い女性は昔からシルバニアの力を思い通りにしたい傾向がある。見目に優れ、歳を取らないアタナシウスやティミトリスに取り入り愛人になりたがった人も多い。
 あわよくば、子を孕み、自分もシルバニア家の一員になりたいと。

 成功させたのがメアリーの母。
 あの時の出来事は双子にとって屈辱以外何ものでもないが、代わりにメアリーを授かった。
 あの女の生家はメアリー誘拐を企んで母親を殺して以降接触はない。殺すのはやり過ぎだと非難されたが姿を見せなければ良かっただけだと吐き捨ててやれば、顔面を蒼白にして逃げるように帰って行った。

 女の事を思い出したせいか、公爵にメアリーの母親について問われてしまう。も、無言でいれば公爵はそれ以上は聞いてこなかった。


「マーガレット以外に皇太子妃になれる令嬢はいるのか。つか、高位貴族の令嬢で婚約が未だなのは殆どいないだろう」
「ええ。他国の姫を迎え入れるのも視野に入れます」
「あわよくば、シルバニアとも縁が出来ると喜んで差し出してきそうだ」
「慎重に吟味します。陛下と共に」
「それがいいだろうよ」


 下にそろそろ動きがありそうだ。


 ――どうする?  メアリー




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