私のお父様とパパ様

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連載―私はお父様とパパ様がいれば幸せです―

パパ様とカフェデートで遭遇3

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 我儘を言ったつもりはないが、店に入りたい客からしたら、二人でテーブルを二つ使用するのはそう見えるのだろう。面白げに見てくるアタナシウスに内心頬を膨らませ、物凄く何か言いたげなミカエリスを見上げた。


「殿下は私とパパ様がお茶をしているのが気になるのですか?」
「お前は父親の言うことしか聞かないな」


 会話が成立しない。ミカエリスが何を言いたいのか一切分からない。どういう意味かと訊ねる前に、耐えきれず吹き出したアタナシウスに三人の視線が集中した。


「あはははははははっ!! あ、ははは……っ。あ~面白い、久しぶりに笑ったよ。ありがとう皇太子。僕はやっぱり君が嫌いだ」
「な、失礼ですわよ!!」


 満足するまで笑ったアタナシウスの発言に噛み付いたのはマーガレットだった。パパ様が大笑いする場面に遭遇した事のないメアリーは固まり、次に言った台詞に「パパ様……」と窘めるがアタナシウスは悪びれる様子もなくミカエリスを見た。
 非常に険しい目付きでアタナシウスを見下ろしていた。


「奇遇だな公爵。俺もあんた達は嫌いだ」
「ははは。気が合うね。残念だ。シルバニア家は代々の皇帝とは仲良しだったのに。次期皇帝を好かないとなると帝国にいる意味がなくなるね」
「っ」


 ミカエリスの相貌が苦々しいものに変わる。帝国の守護神とも呼ばれるシルバニア公爵家は、帝国にとって絶対的に欠かせない。その気になれば、帝国どころか世界すらどうにでも出来る彼等が居続けるのは、帝国の空気が気に入ってるのと代々の皇帝達との関係が大きい。
 祖父の代から皇帝と良好な関係を築いており、当代の皇帝アーレントとも仲がいい。メアリーも皇帝というより、父親達の知り合いのおじさん感覚で接してくるアーレントを好意的に見ている。

 今の皇族でアタナシウスとティミトリスとの関係が良くないのは皇太子と皇后。
 幼馴染のマーガレットを恋人にしながら、己の地位を盤石にする為の道具としてしか見ていないメアリーに拘るミカエリス。口ではメアリーとミカエリスが皇帝皇后になって帝国の未来を託したいと言いながらも、本心では親友の娘マーガレットに皇后になってもらいたい現皇后。

 苦手な人達でも、自分もシルバニア家の一員だからと耐えるメアリーは強い口調でアタナシウスを呼ぶも蕩けるような笑みを向けられて勢いを無くした。


「怒ったメイも可愛い。さっき言ったのは冗談だよ。本気にしないで」
「パパ様の冗談は、偶に冗談に聞こえないの」
「ふふ。メイを困らせるのは不本意だから、この辺で止めておこう」


 ティーカップの紅茶を一気に飲み干し、ソーサーに置いたアタナシウスは呼び鈴を鳴らした。こっそりと様子を窺っていた給仕を呼びつけ、残ったケーキを箱に詰めるよう告げた。


「入れ終えたら全てテーブルに置いて」
「は、はい!」


 箱を取りに給仕は奥へ走って行った。
「さてと、帰ろうかメアリー」と席から立ったアタナシウスはミカエリスとマーガレットを見やった。ミカエリスの身長は約百八十以上あるのに対し、アタナシウスや此処にいないティミトリスは百九十にまで届く。長身の男二人の側に立つマーガレットは女性にしては高い百六十五センチだが小さく見える。
 自分は何時立とうかタイミングを見計らっていたメアリーへアタナシウスが手を差し伸べた。


「僕の手をどうぞ、メイ」
「う、うん」


 アタナシウスの手を取って席から立ったメアリーはこの場で一番背が低い。百六十あるかないかである。幼い頃は長身の父達を羨ましがり、魔法で身長を伸ばせないかと探ったがメアリーはメアリーのままでいいと言うティミトリスの妨害によって諦めた。


「……」


 無言のまま睨んでくるミカエリスに一度でもいいから心を読む魔法を使ってみたい。どうせ、皇太子たる自分を下に見ていると憤慨しているのがオチ。ミカエリスの腕に抱きつき、何かを言おうとしたマーガレットを一睨みで青褪めさせたアタナシウス。


「たかが公爵令嬢如きが僕のメアリーに何を言うつもりかな?」
「メグを威嚇するな」
「君の婚約者は誰なのか言ってごらん、皇太子」
「っ。そういう台詞は俺の婚約者としての役目を果たさせてから言え!」


 一瞬青の瞳を大きく見開いたアタナシウスはすぐに大笑し出した。初対面の時からメアリーとの婚約が嫌で嫌で仕方ない態度を貫き、堂々と恋人を作って浮気しているミカエリスのあんまりな物言いにメアリーは絶句した。
 メアリーは婚約者としての役割はきちんと果たしていると自負している。定期的にあるお茶の時間、プレゼント、パーティーや夜会等の同伴。果たしてないのはミカエリスの方だ。一度もメアリーに誕生日プレゼントも婚約者としての贈り物をしない、エスコートは自分勝手、ファーストダンスを終えればマーガレットを迎えに行きメアリーは永遠に放置。アタナシウスやティミトリスがいなければ、メアリーは常に壁の花となっていただろう。

 笑い過ぎて涙目になったアタナシウスに声を掛けられたメアリーは衝撃からやっと戻り、瞬きを何度もしながらミカエリスに言った。


「婚約者としての役目を果たしていない殿下が言うのですか?」
「なっ!!」


 今度はミカエリスが絶句する番になった。
 再び吹き出したアタナシウスだが、給仕が箱を持って戻ったので大笑はしなかった。二人がかりでケーキを入れるとアタナシウスに手渡した。


「ありがとう。ケーキの味や紅茶の味もいいから、今度からご贔屓にさせてもらおう」
「あ、ありがとうございます!!」
「帰ろっかメイ」
「は、はい、パパ様」


 アタナシウスは多めにお金をテーブルに置き、メアリーと共に転移魔法でシルバニア公爵邸に戻った。あの後のミカエリスとマーガレットが気になるものの、どうせ逆に怒り出すだけ。あれ以上店側に迷惑が掛かる前に退散して良かった。


「あ~面白かった。皇太子は僕を笑わせられる天才だね。いい発見だ」
「パパ様」
「なあに」
「婚約者としての義務を放棄している殿下が、私に義務を求めるのはどうしてなのかしら」
「さあ? 下らないから考えるだけ無駄だよ。それより、ケーキを食べよう。折角のメイとのデートを台無しにされて落ち込んでるパパを慰めて」


 どの辺が落ち込んでいるのか不明だがケーキを食べたいメアリーは首を縦に振った。一番楽しそうだった気がするがメアリーは指摘しない。


(でも、皇太子殿下の言っている意味が全然分からなかった……)


 本当に一度だけ、彼の心を覗く魔法を使ってみたい。

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