思い込み、勘違いも、程々に。

文字の大きさ
上 下
49 / 102

初めて見た

しおりを挟む
 


 取り巻きの令息を連れて立ち去って行った王女殿下が見えなくなると「殿下」とアウテリート様が険しい声色で説明を求めた。


「どうなさるのですか?」
「分かっているだろう。隣国の公爵家、それもグランレオド家のご令嬢に無礼を働いた王女を陛下に叱責してもらうのさ」
「してくれますの?」


 娘に甘い陛下がするとは私でも思えない。


「父上とてそこまで愚かじゃないだろう。愛人が何を言っても、この国では隣国……特に王家、公爵家は決して敵に回したくないのさ。君は隣国の国王陛下と親しい」
「私情で動く方ではないと思いますけれど……。まあ、私を馬鹿にしたとあらば、この国の王族と言えどお父様も黙ってはいませんが」
「長話をするつもりはない」


「フィオーレ嬢」と今度は私が相手になる番となった。立ち上がってお礼をしようとするも手で制された。せめてお礼を述べようとしても首を振られた。


「君には申し訳ないと思っている。リグレットは必ず大人しくさせるから、もう少しだけ辛抱してくれ」
「私は何もありませんから、どうかお気遣いなく……」
「そういう訳にはいかない。君にはエルミナ嬢という、仕事熱心な生徒を推薦してくれた恩もある」
「エルミナが真面目に努力をしているだけで私が褒められる謂われは」
「まあ、そう言わないで」


 本当にないのだ。頑張って生徒会の仕事を熟しているのはエルミナの意思であり、努力の賜物である。
 エルミナに向いても恥ずかしげに頬を赤らめ、俯きがちになってしまっていた。背中を触ると困ったように私を見上げるから、大丈夫だと笑った。


「リアン。おれは帰るから、この後は頼んだ」
「ああ……」


 え!? と驚いたが時遅し。
 城に戻って話し合いをする為に王太子殿下は慌ただしく走って行ってしまった。アウテリート様は席に戻り、温くなったクリームパスタを再び食べ始めた。

 リアン様は此方に来ると眠そうな顔で私を見た。


「リグレットは今日学院にはいないが何があるか分からない。特にフィオーレ嬢。君はリグレットに目を付けられている。1人で行動はしないことだ」
「は、はい」
「ねえリアン様。私、今日は殿下が抜けた生徒会のお仕事を手伝おうと思うの。だから放課後になったら、フィオーレを正門まで送り届けてほしいの」
「アウテリート様!?」


 え?! 
 エルミナがリアン様を好きで、リアン様もエルミナが好きだと話したのに、2人が結ばれるよう協力してくれると約束してくれたのに私とリアン様を一緒にさせるだなんて。


「わ、わたしもその方が安全なのでお願いします」
「エルミナまで」
「お姉様はちょっとのほほんとし過ぎているのです。しっかりとした人といた方が良いに決まっています」
「のほほんって……」


 ちょっと能天気かなとは自分の事ながら呆れるけれど、のほほんと表現される酷さはない。
 困った顔をしてもアウテリート様もエルミナも引いてくれない。
 ……ちょっとだけリアン様と2人になり難い。手首にされたキスの事があるから。会話をしたのもつい最近で接点なんて王太子殿下を通してか、アウテリート様を通してかのどちらかの私にあんなキスをするなんて。理由を知りたいけど怖くて聞けない。


「フィオーレ嬢」
「! は、はい」
「2人もこう言っているんだ。それで良いだろう」
「……はい」


 ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
 リアン様を見上げると……微かに笑みを浮かべられた。
 いつも眠そうか、無表情しか見ないリアン様の初めての笑った御顔……。

 一気に顔が熱くなる。見られては困るとコルネットを食べるフリをして俯いた。

 食事が終わった後、アウテリート様に耳がとても真っ赤だったと揶揄われた。


しおりを挟む
感想 196

あなたにおすすめの小説

行動あるのみです!

恋愛
※一部タイトル修正しました。 シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。 自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。 これが実は勘違いだと、シェリは知らない。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

砂糖漬けの日々~元侯爵令嬢は第二王子に溺愛されてます~

恋愛
魔界の第二王子ヨハンの妃となった侯爵令嬢エウフェミア。 母が死んですぐに後妻と異母妹を迎え入れた父から、異母妹最優先の生活を強いられる。父から冷遇され続け、肩身の狭い生活を過ごす事一年……。 魔王の息子の権力を最大限使用してヨハンがエウフェミアを侯爵家から引き剥がした。 母や使用人達にしか愛情を得られなかった令嬢が砂糖のように甘い愛を与えられる生活が始まって十年が過ぎた時のこと。 定期的に開かれる夜会に第二王子妃として出席すると――そこには元家族がいました。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

妖精隠し

恋愛
誰からも愛される美しい姉のアリエッタと地味で両親からの関心がない妹のアーシェ。 4歳の頃から、屋敷の離れで忘れられた様に過ごすアーシェの側には人間離れした美しさを持つ男性フローが常にいる。 彼が何者で、何処から来ているのかアーシェは知らない。

殿下が好きなのは私だった

恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。 理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。 最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。 のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。 更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。 ※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。

いつまでも変わらない愛情を与えてもらえるのだと思っていた

奏千歌
恋愛
 [ディエム家の双子姉妹]  どうして、こんな事になってしまったのか。  妻から向けられる愛情を、どうして疎ましいと思ってしまっていたのか。

処理中です...