思い込み、勘違いも、程々に。

文字の大きさ
上 下
37 / 103

フィオーレにしつこく絡む理由とは

しおりを挟む
 


 
 鞄をベッドに置いて、事前に用意されていた部屋着へと着替え、すぐにお父様の待つ書斎へと向かう。扉の前にはお義母様が待っていてくれた。2人で書斎に入室すると……テーブル一面にスイーツを広げたお父様がきっちりと貴族服を決め、紅茶を飲むポーズをしながら座っていた。
 隣にいるお義母様が呆れたような深い溜め息を吐かれるも、肩を押され中へ進んだ。私はお父様と向かい合い、お義母様はお父様の隣に座った。


「お帰りフィオーレ」
「ただいま戻りました。……お父様、このスイーツは」
「久しぶりに甘い物が食べたくなってね。どうせなら、フィオーレと一緒にと」
「そうだったのですね」


 お父様はビターなチョコレートを好んでいたと記憶していたけれど私の勘違いだったのかしら?
 お義母様のティーカップとスイーツ皿を頼む最中、早速話をしてほしいと告げられ、まずはエルミナの生徒会推薦の話にした。


「王太子殿下から、アウテリート様と頼まれまして。女子生徒で誰か生徒会に勧められる生徒がいないかと」
「成る程。それでフィオーレはエルミナを?」
「エルミナは成績も優秀ですし、伯爵令嬢としての振る舞いもしっかりと出来ております。私はもう最終学年なので無理ですがエルミナなら、十分生徒会で実力を発揮出来るかと」
「今年はリグレット王女殿下も入学されている。自分以外の女子生徒が入って王女に目を付けられるのが心配だな」
「その点については心配無用かと。王太子殿下が昨日で王女殿下を生徒会から除籍したので」


 私もこれには悩んだ。エルミナを推薦し、了承してくれても、自分が1番だと信じる王女殿下が同性の加入を快く思わないのではと。王太子殿下が除籍してくれたと聞き、ちょっとだけ安堵したのは秘密だ。


「ふむ。私からは反対はしないよ。君もそうだね?」とお義母様に意見を求められた。
「ええ。後はエルミナ次第ですわ。あの子が嫌だと言うなら、無理に勧めはしません。フィオーレもそれでいい?」
「勿論です。決めるのはエルミナです」


『予知夢』ではエルミナは生徒会に入る。学年が違うリアン様と問題なく会える唯一の機会を逃せない。2人から受け入れられて安堵した。丁度、お義母様の紅茶が運ばれた。どのスイーツを取ろうか選んでいると「フィオーレ」とお義母様に呼ばれる。


「急かして悪いのだけれど、さっき私に話したあれを旦那様にも話してあげて」
「あれ?」
「ええっと……」


 話した瞬間のお義母様の反応が忘れられなくて億劫になるが意を決してお父様に話した。
 ガルロ殿に王女殿下を泣かせたと勘違いをされて絡まれたこと、王太子殿下とリアン様に助けられ事なきを得たこと。ガルロ殿の名前を出すとお父様が持っていたティーカップに罅が入ったように見えたが気のせいだろう。リアン様の名前を出した時はロードクロサイト様と呼んだ。昨日まで家名で呼んでいたのに今日になって名前で呼んだら誤解されてしまう。
 全て話し終えるとお父様はティーカップをソーサラーに置いて深い溜め息を吐かれた。


「はあ。我が家、というよりフィオーレに絡むのが生き甲斐なのかあの連中は」
「連中は、というよりトロントとガルロ、それにお母様ですわ」
「すみません、私が至らないばかりに」
「フィオーレは何も悪くない。私達の力不足のせいだ。トロント殿がフィオーレに絡むのは公爵夫人のせいにしてはしつこい。別の理由があるんじゃ……」


 伯爵令嬢の娘である私が気に食わないトロントおじ様とカンデラリア公爵夫人に昔からお父様とお義母様が苦言を呈してくれているのは知っている。生まれは私ではどうしようもない。せめて2人に何も言われないようにと、令嬢としても跡取りとしても努力した。私がどれだけ努力したところであの2人は決して私を認めようとしない。見せ付けるようにエルミナばかりを褒め称える。幸いにも敵は2人だけ、且つ、苦手な人達だから精神的ダメージは受けてない。逆に言えば、私の悪口を吹き込まれ嫌な思いをさせてしまったエルミナに申し訳ない。
 お父様が別の理由と呟くがそうは思えない。他の理由があるなら是非知りたい。


「アルカンタル伯爵家に関係はありますか?」と訊ねた。あるとしたらお母様の生家アルカンタル伯爵家しか浮かばない。


「ふむ……イースター家が財政難とは聞かないがな……かと言って、カンデラリア公爵家もないな……」
「ええ。お母様の散財はすごいけれどお父様が厳重に管理していましたし、今は世代交代してお兄様が家を継いでいるから好き勝手お金は使えません。他にあるとすれば、隣国の公爵家との繋がりかしら」


 お母様のお祖母様の生家である隣国の公爵家は、現王妃殿下の生家である。仮に隣国の公爵家と繋がって王家と関わりたいのだとしてもかなり遠い親戚に当たる私では道具にすらならないだろう。

 これも違うと3人頭を悩ませた。


しおりを挟む
感想 197

あなたにおすすめの小説

身代わりの私は退場します

ピコっぴ
恋愛
本物のお嬢様が帰って来た   身代わりの、偽者の私は退場します ⋯⋯さようなら、婚約者殿

牢で死ぬはずだった公爵令嬢

鈴元 香奈
恋愛
婚約していた王子に裏切られ無実の罪で牢に入れられてしまった公爵令嬢リーゼは、牢番に助け出されて見知らぬ男に託された。 表紙女性イラストはしろ様(SKIMA)、背景はくらうど職人様(イラストAC)、馬上の人物はシルエットACさんよりお借りしています。 小説家になろうさんにも投稿しています。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

【完結済】後悔していると言われても、ねぇ。私はもう……。

木嶋うめ香
恋愛
五歳で婚約したシオン殿下は、ある日先触れもなしに我が家にやってきました。 「君と婚約を解消したい、私はスィートピーを愛してるんだ」 シオン殿下は、私の妹スィートピーを隣に座らせ、馬鹿なことを言い始めたのです。 妹はとても愛らしいですから、殿下が思っても仕方がありません。 でも、それなら側妃でいいのではありませんか? どうしても私と婚約解消したいのですか、本当に後悔はございませんか?

今更ですか?結構です。

みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。 エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。 え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。 相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

魅了魔法…?それで相思相愛ならいいんじゃないんですか。

iBuKi
恋愛
私がこの世界に誕生した瞬間から決まっていた婚約者。 完璧な皇子様に婚約者に決定した瞬間から溺愛され続け、蜂蜜漬けにされていたけれど―― 気付いたら、皇子の隣には子爵令嬢が居て。 ――魅了魔法ですか…。 国家転覆とか、王権強奪とか、大変な事は絡んでないんですよね? 第一皇子とその方が相思相愛ならいいんじゃないんですか? サクッと婚約解消のち、私はしばらく領地で静養しておきますね。 ✂---------------------------- カクヨム、なろうにも投稿しています。

処理中です...