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プライドだけは超一流〜義母シェリア視点〜
しおりを挟むフォークにブロッコリーを刺したまま固まった旦那様を放置し、並んで学院へ行ったフィオーレとエルミナを見送った私はそっと息を吐いた。エルミナが入学式を境に、8年前から距離を取り始めたフィオーレとの関係修復を試みた行動を不安と期待に満ちた気持ちで見守った。ぎこちなさも嫌悪もない、普通にエルミナと接したフィオーレに安堵すると同時に、まだまだ距離が遠いと思い知った。
8年前、私達とフィオーレの間に高く硬い壁を作る元凶となった馬鹿弟トロント。遅くに出来た次男とあり、お母様に溺愛されて育ったトロントはどうしようもない馬鹿に育った。名門と名高いカンデラリア公爵家だろうが範疇を超えた我儘は許されない。厳格なお父様と違い、自分を甘やかしてくれるお母様にべったりだったトロントがお父様と同じで厳しいことしか言わない私やお兄様、お姉様に懐く訳もなかった。
フィオーレが前妻ミランダ様の娘であり、私とは血縁関係がないと事実を話すのは、旦那様との話し合いで彼女がデビュタントを迎えたら話そうと決まった。義父や義母も納得し、アルカンタル伯爵家は私達の判断に任せるとのことだった。これに関して実家は口を出してくれるなと釘を刺した。お父様やお兄様は大丈夫。彼等はフィオーレのこともエルミナ同様大事にしてくれている。お姉様は隣国に嫁いでしまった後なので手紙だけで知らせた。
問題なのはお母様とトロントだった。
お母様は旦那様がいないのを狙ってよく伯爵家に訪れた。後妻として嫁いだ私が苦労していないかとか、前妻の娘が我儘で困ってないかとか、要らない気をばかり遣ってくる。質問責めを繰り返すお母様の声を遮った。
『お母様の心配は要らぬ心配です。どうぞお引き取りを』
『まあ! なんて言い草。わたくしはお前が幸せにやっているか心配を……!』
『問題ありません。旦那様も屋敷の者も良くしてくれています。フィオーレはとても優しい子です』
『だけど、エルミナとよく喧嘩をするとトロントが言っていたわ!』
お母様の台詞に違うと反論した。
『あれはよくある姉妹喧嘩です。エルミナがフィオーレの物を欲しがるのをフィオーレが嫌がってるだけです。その都度、私が間に入って喧嘩を止めています』
『なんて子なの! 姉のくせに妹に譲らないなんて。これだから、爵位の低い血を引く子は嫌なのよ!』
『お母様! その発言撤回してください!』
アルカンタル伯爵家は、爵位こそ伯爵だが、所有する財力は王国でもトップクラス。更に慈善活動にも積極的で領民からの信頼も篤い。また、伯爵家の方々の人柄は非常に穏やかで娘が亡くなってすぐの再婚の際、渋る旦那様の背を押したのは伯爵だった。エルミナのことも自分の孫同然のように可愛がってくれている。トロントの余計な言葉がなければ、今まで通り過ごせた。
大公家出身のお母様はとにかく貴族としてのプライドが異常に高い。お父様と結婚したのも、カンデラリア公爵家の嫡男だったからというだけ。典型的な青い血主義のお母様を黙らせる一手を出すしかない。
『爵位が低い低いと言いますが伯爵は王家に嫁入り出来る位であるとお忘れですか?』
『ふん。そうだとしても最下位じゃない』
主に王家に嫁入り出来る貴族は公爵・侯爵・伯爵まで。お母様の中では最低ラインが侯爵家なので何を言っても通じない。
『お母様。フィオーレの母君ミランダ様の祖母は隣国の公爵家の方です』
『それが何よ。既に薄いわ』
『その公爵家は、隣国の現王妃の生家です。更にフィオーレの瞳は、公爵家の特徴である紫紺色。王妃様も同じ瞳の色の方だったと記憶しております』
『!』
お母様世代で知らない者はいない。隣国の恐ろしさを。大陸で唯一、女神の守護下にある国。隣国の王妃様の実家は、確か建国当初から中立を貫いてきたかなり珍しい家と聞く。あまり隣国の事情に詳しくない私だが、かなり遠いながらも王妃と同じ血を引き、更に同じ瞳の色を持つフィオーレを貶せば貶す程どういう意味を持つか分からない方ではなかった。見る見る内に顔を青ざめさせ、お決まりの台詞を言って慌てて帰って行った。
……2度と来てほしくないがそれでは屋敷の者に迷惑が掛かる。私が相手をするのが最も穏便に済むのでこれからも相手をしよう。
はあ。
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