思い込み、勘違いも、程々に。

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暴露

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「お姉様……」と気遣わしげにエルミナが見つめてくる。心配させないようにと笑って見せるが上手に笑えてるだろうか。迫力満点だったお義母様と会うのは夕食時にしようと決めた私とエルミナはそれぞれ部屋へと戻った。
 トロント様の「俺は事実を言っただけだろう!?」という叫び。
 あれは本当に衝撃的だった。

 ――8年前。お義母様が私とエルミナを連れて、街のケーキ屋でそれぞれ好きなケーキを買ってくれて、屋敷に戻った日に起きた。サロンでおやつの時間を楽しんでいるところへトロント様は現れた。
 私はチョコレートケーキ、エルミナはショートケーキ。チョコレートが苦手なのに私のチョコレートケーキを欲しがるエルミナと自分の物は妹でもあげたくない私が軽い言い合いをしている最中だった。


『お姉様とわたしのケーキ交換して!』
『嫌よ! これは私のチョコレートケーキよ! お母様が選ばせてくれたでしょう?』
『最初はショートケーキが食べたかったけど、お姉様のを見てるとそっちが良くなったの!』
『駄目よエルミナ。第一、あなたチョコレートは苦手でしょう?』


 お義母様が間に入ってエルミナを嗜めてくれるが止まらず、交換交換と諦めなかった。


『だったら、今度買いに行く時、エルミナはフィオーレの選ぶ分も買いましょう』
『2つも食べれません』
『じゃあ諦めなさい。それに交換してもチョコレートの苦手なエルミナじゃ、残してしまうでしょう?』
『の、残しません』


 エルミナは若干涙目になって声が震え出した。泣いてしまえと微塵も抱いてなかった私がお義母様にもういいと言おうとした直前――訪問していたトロント様が現れた。


『ん? フィオーレ! エルミナが泣きそうになってるじゃないか! お姉さんなんだから、妹をもっと大事にしないか!』
『トロント違うわ。エルミナが泣きそうになってるのは私が――』
『全く、伯爵令嬢だった前妻の娘の分際で公爵令嬢である姉上の娘を――』
『トロント!!!!』


 嘗てない大声を上げたお義母様に驚くよりも、先に放たれたトロント様の台詞が耳にくっ付き衝撃のあまり放心した。
 お義母様譲りのプラチナブロンド、お父様譲りの翡翠色の瞳を持つエルミナ。
 対して私は、青みがかった銀髪に紫紺色の瞳という……2人には無い色の容姿。当時から跡取り教育を受けていた私は両親どちらにも似てないことに悩んでいた。でも、私の心情を察してくれたお義母様が教えてくれたのだ。


 ――フィオーレは難しい本を読んでいる時、左手で首を触るでしょう? あれ、旦那様と同じね!
 ――私もクマのぬいぐるみが好きなの。お揃いね! 今度、お揃いのデザインをしてもらいましょう


 仕草だったり、好きな物だったり。
 ……父は本当だろうが、ぬいぐるみに関してはきっと気を遣ってくれたのだ。お義母様の部屋にクマのぬいぐるみは置いてない。


『何だよ! 僕は事実を言っただけだろう!?』
『黙りなさい! 私と旦那様で時期を見て話すと決めた秘密をよくもこんな場所で、それもお前がバラして!! タダじゃおかないわ!!』
『伯爵家の娘より、我が公爵家の血を引くエルミナがエーデルシュタイン伯爵家の跡を継ぐのが相応しいじゃないか!!』
『お前は王国の法律を知らないの!? 貴族の家は、長子が継ぐと決まっているの! 長子が継げないのは、継ぐ資格がない場合のみ。フィオーレは十分女伯爵になる資格がある。仮に無かったとしても、他家の人間であるお前に口出す権利はないわ。今すぐ帰りなさい!』
『折角顔を出した弟に対してあんまりじゃないか!』
『お黙り! お父様が苦労して見つけた婿養子先にさっさと戻りなさい!』


 放心していた私とは違い、しっかりと意識のあったエルミナは泣きながら何度も私を呼んでいたとか。意識が戻った後に執事に言われた。お義母様はトロント様を追い返し、放心状態の私と泣いているエルミナを引き離し、周囲にそれぞれ指示を出していったそうな。
 ……そして、お父様が戻られてすぐ、私はお父様とお義母様に事実を聞かされた。



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