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いつか、どちらを選んでも②
しおりを挟む数日前破壊されたクロレンス王立学院の玄関は以前となんら変わらない光景となっていた。聞けば、所長のライトカラー男爵が魔法研究所の職員を連れて1日で復元したらしい。一行の中にはマティアスもいたとか。寧ろ、積極的に修復作業に携わったのが彼。破壊したのがアデリッサといえど、深く関係者である自分が1番に前に出て作業をしたかったのだとか。
堅実に、誠実に、日々を過ごしていけば、長い目になるが罪は減刑され、マリーベルと婚姻出来る様になるとレーヴは語っていた。ライトカラー男爵家は既に長男が後継者でマリーベルは魔法研究所の職員として卒業後就職する予定でもあり、貴族籍を抜けて平民になるので。
時間はかかるけれど、被害に遭った人が不幸にならずに済んで良かったと心の底からシェリは安堵した。
「オーンジュ嬢」
昼休み。好物のカフェモカを持って裏庭に来ていたシェリの所に、手持ち無沙汰でヴェルデがやって来る。
「ヴェルデ様」
「食堂でお召し上がりにならないので?」
「今日は1人で静かな場所にいたくて」
「偶然ですね。私もです」
ヴェルデはシェリの隣に座った。適切な距離を保って。人通りの少ない場所といえど、何時誰に見られているか分かったものじゃない。
「ミエーレは今日来ないのですか?」
「さあ。わたしはミエーレの予定を全て把握している訳じゃありませんので」
「ミエーレはヴァンシュタイン家の者らしく、時に平気な顔で残酷な真似をします」
「アデリッサの事でしょうか?」
「王族相手に“魅了の魔法”……正しくは“転換の魔法”をですが使用し、剰え危害を加えようとしたアデリッサ様が処刑されなかったのは、ナイジェル公爵閣下の精神を壊さない為……でもありますが。実際は、高位貴族ならではの魔力の高さに目を付けたのですよ」
死んだ方がマシな扱いを今頃受けているでろうアデリッサ。“魅了の魔法”の被害に遭い、精神異常を起こした者に精神ケアを担わせているとレーヴは語っていた。実際に何が行われているかは想像に難くない。レーヴの顔色が若干青かった。それだけで物語っている。
「わたしも、ひょっとしたらアデリッサのように行き過ぎた行動をしていた未来も十分に有り得ました」
「まさか」
いいえ、とシェリは首を振った。
「殿下に見てもらうにはどうしたらいいか……と、ずっと悩んでいましたもの」
「オーンジュ嬢……」
「……わたし……ヴェルデ様には謝らないといけないわ」
「?」
シェリは今正直に話した。
初めに、ミルティーとレーヴの婚約が浮上したのは、そもそもレーヴの好きな人がミルティーだと勘違いした自分が父オーンジュ公爵に頼んだのが始まりだと。
全てを聞き終えたヴェルデが怒ると覚悟していたシェリだが――
「そんな事だろうと思いました」と苦笑された。
「……怒らないのですか? だって、ヴェルデ様は……」
「元々、勘違いされるような行動をしていた殿下に問題がありますし、ミルティーもラビラント伯爵から殿下に失礼のないようにと言い付けられていましたし。なんとなく、オーンジュ嬢の勘違いだろうとは気付いていました」
恥ずかしい話の限り。羞恥で頬を赤らめると「オーンジュ嬢」と穏やかな声に呼ばれた。
「オーンジュ嬢は、これからどうするのですか?」
「……殿下にもう1度好きになってもらえるよう努力すると宣言されましたわ」
「そうですか。良かった……と言っていいべきなのか。ミエーレのこともありますよね」
「ミエーレがわたしを好きだった……と知っても、驚きはあっても嘘だと抱かないのが不思議なんです」
魔法の研究以外、ひよこ豆1粒程度の興味を示さないあのミエーレが自分に好意を抱いていた。彼の態度を思い返しても、それらしい感情を見たことがない。殆どが魔法の研究に没頭し、時にレーヴに冷たくされて泣きながら愚痴を言う自分に付き合ってくれるミエーレしか知らない。ただ、大半話を聞いてくれているか謎だが。
「やっぱり……分からないわ……」
嘘を吐いているとは思わないのは、やはり長年の付き合いからくる信頼だろう。
不思議そうに考えるシェリを見守るヴェルデの瞳はとても優しい。
「大変ですね。殿下もミエーレも」
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