79 / 81
いつか、どちらを選んでも①
しおりを挟む「元気ー?」
「……」
能天気な声をかけてきた相手に反応する気力も頭も用意する気がない。薄く、脱がせやすいネグリジェを着せられ毎日精神異常を起こした男性の相手をさせられているアデリッサ。用意された部屋で時間になったら男性の精神ケアをしなければならないアデリッサの部屋は、生涯幽閉となった罪人にしたら非常に豪華な部屋だ。衣食住に何ら困ることもなく、毎月決まった額だけ好きな物を買える。
声をかけた相手――ミエーレはつまらなさそうに表情に笑みを消した。
「感謝しなよ? 本来なら、王族の殺害未遂と精神異常を引き起こした君は処刑一直線だったんだ。ナイジェル公爵はクロレンス王国にとって重要な人なんだ。その公爵が愛する娘を処刑されたとあっては気の毒だから……生きていてくれたらいい、と陛下に頭を下げて涙を流した公爵に報いるよう、君も頑張らないとね」
「……いよ」
「うん?」
「殺しなさいよ……わたくしを……今すぐ殺しなさいよ……!」
アデリッサは正気を決して失わない。
気が触れることも、堕ちることも許されない。
常に正気なままでいさせられる。
ミエーレの魔法によって。
「毎日毎日気持ちの悪い男に抱かれる日々なんてもううんざりよ! これなら、処刑された方が遥かにマシだった!」
「だろうねえ。でもそれが? これが君の刑なんだ。嫌だろうがなんだろうが君が拒否する権利はない」
アデリッサの待遇は破格だ。最高級娼館の頂点に座する娼婦と比べても引けを取らない。此処と娼館どちらがいいかと問われれば、客に気に入られると身請けされ外に出られる娼館の方がマシと答える者もいるだろう。最高級娼館は身請けする側も厳正な身辺調査がされ、買われていった娼婦達が後日酷いことになったという報告は極めて少ない。
アデリッサに男を拒否する権利はない。アデリッサはレーヴに掛けられたあの魔法が“転換の魔法”とは知らない。罪の意識を忘れさせないよう“魅了の魔法”と偽り続けている。第2王子に魔法をかけ、危害を加えようとした。
更に個人的な感情で言うとシェリに大怪我を負わせた。レーヴが助けても間に合わず、大怪我を負って数日眠っていたままだった。
「ほらアデリッサ。次の患者さんが来たよ。頑張って」
「っ~……!」
騎士が男を連れて来た。顔は真っ白、頬は痩せこけ、目だけが異様に大きい。扇情的な姿のアデリッサを目にした途端目の色を変えた。興奮したように息を荒げ、大股で床に座っていたアデリッサをベッドに投げた。
「嫌よ!! 嫌あああああぁ!! ミエーレ様助けて!! お願いよ、ミエーレ様シェリが好きなんでしょう!? なんだったら、シェリの好きなことわたくし知って……」
男に覆い被せられ、ネグリジェを破かれたアデリッサが泣き叫ぶ。
ミエーレは大きな欠伸をすると騎士に「おれ帰るね~。報告は父上にしといて」と告げて部屋を出た。
「ミエーレ様! ミエーレ様ぁ!! っ、嫌ああああぁぁぁ!!! 来ないでよおおおぉ!!!!」
扉が閉められてもアデリッサの絶叫が途切れることはなかった。
「ふわあ……態々アデリッサに言われなくてもシェリの好きなことは知ってるよ」
伊達に昔馴染みはしていない。
王家の番犬はこういった汚れ仕事も熟す。忠臣と名高いラビラント伯爵が何度かラビラント家も手を貸そうと言ってくれるがお断りだ。ヴァンシュタイン家の領域に足を踏み入れるのは許さない。たとえ、汚れ仕事ばかりヴァンシュタイン家が担っているのを苦い気持ちを抱いている伯爵の良心からの提案でも。
ヴァンシュタイン家の者は大体ロクでなしが多い。ミエーレだってそう。
レーヴに本気で嫌われたと落ち込むシェリに付け入るようにレーヴの前で仲を見せ付けた。“転換の魔法”を使われて心の向きを変えられただけと知っていたのに。
そのお陰か、災いか、レーヴは段々とアデリッサから離れた。好意はシェリにあった。なら、元から好いていたシェリに冷たくされ、更に違う相手が現れると心の根本は揺らぐ。“転換の魔法”に解除方法がないとされていたのは、元から向けられていた好意対象者は始末されていたからだろう。新たに好意を向けられた相手の邪魔にならないように。それならば、幾ら解除方法を探しても見つからない。元の想い人が死ねば、変えられた心の向きは永遠にそのままとなる。
“魅了の魔法”とはまた違う、恐ろしい精神操作の魔法だ。
「昼からだけど、学院に行こうっと」
シェリに会って確認しないと――。
レーヴとやり直すのか、それとも……
17
お気に入りに追加
986
あなたにおすすめの小説

殿下、私は困ります!!
IchikoMiyagi
恋愛
公爵令嬢ルルーシア=ジュラルタは、魔法学校で第四皇子の断罪劇の声を聞き、恋愛小説好きが高じてその場へと近づいた。
すると何故だか知り合いでもない皇子から、ずっと想っていたと求婚されて?
「ふふふ、見つけたよルル」「ひゃぁっ!!」
ルルは次期当主な上に影(諜報員)見習いで想いに応えられないのに、彼に惹かれていって。
皇子は彼女への愛をだだ漏らし続ける中で、求婚するわけにはいかない秘密を知らされる。
そんな二人の攻防は、やがて皇国に忍び寄る策略までも雪だるま式に巻き込んでいき――?
だだ漏れた愛が、何かで報われ、何をか救うかもしれないストーリー。
なろうにも投稿しています。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。
7回目の婚約破棄を成し遂げたい悪女殿下は、天才公爵令息に溺愛されるとは思わない
結田龍
恋愛
「君との婚約を破棄する!」と六人目の婚約者に言われた瞬間、クリスティーナは婚約破棄の成就に思わず笑みが零れそうになった。
ヴィクトール帝国の皇女クリスティーナは、皇太子派の大きな秘密である自身の記憶喪失を隠すために、これまで国外の王族と婚約してきたが、六回婚約して六回婚約破棄をしてきた。
悪女の評判が立っていたが、戦空艇団の第三師団師団長の肩書のある彼女は生涯結婚する気はない。
それなのに兄であり皇太子のレオンハルトによって、七回目の婚約を帝国の公爵令息と結ばされてしまう。
公爵令息は世界で初めて戦空艇を開発した天才機械士シキ・ザートツェントル。けれど彼は腹黒で厄介で、さらには第三師団の副官に着任してきた。
結婚する気がないクリスティーナは七回目の婚約破棄を目指すのだが、なぜか甘い態度で接してくる上、どうやら過去の記憶にも関わっているようで……。
毎日更新、ハッピーエンドです。完結まで執筆済み。
恋愛小説大賞にエントリーしました。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる