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好意の方向は再び8
しおりを挟むずっとレーヴを立たせたままだったのを今になって気付いたシェリが椅子に座ってもらうよう風の魔法で引き寄せとようとしたのを止められた。
「いい。長いするつもりはなかった。シェリが目を覚ましていると聞いてつい慌ててしまったが……」
「……殿下が助けて下さったと、ミルティー様から聞きました。ありがとうございました」
「いや……シェリ……」
レーヴは真剣味の増した、青の宝石眼でシェリを見つめた。
「その……こんなこと……僕に言う資格はないのかもしれないが……言わせてくれ。
――僕と……最初から……やり直してくれないか……」
「……」
「父上には、僕とシェリの婚約は既に内々で解消されたとはちゃんと聞いた。シェリが僕を嫌いになっていたっていい」
「それは……」
好きな気持ちは捨てようと覚悟をした。現に、今までレーヴから頂いた様々なプレゼントは全て整理し、要らない物は処分した。こうしてやり直しを希望すると1度決めた意思が揺らぐ。その程度の意思だったのだと自分が軽い人間に思う反面、“転換の魔法”を切っ掛けに新しい関係を築けていけるのではと期待を抱いてしまう。ミエーレのことを思うと巡った思考も遮断した。
魔法にしか興味を示さない彼が好意を示して来た。他人に感情を向ける気がほぼ零なあのミエーレが。ミエーレの気持ちにも、まだ答えを出していない。
黙っているとレーヴが苦笑した。
「勿論、シェリが嫌なら僕は諦める。ただ、まだ僕にもチャンスがあるなら……もう1度……シェリに好きになってもらうように努力するよ」
「レーヴ様……わたしは……アデリッサと仲睦まじいあなたを見た時、わたしではあなたをあんな風に喜ばせないのだと痛感しました」
「それは……悪かった。ずっと身勝手な意地を張り続けて君を見ようとしなかった僕の責任だ」
「それに……ミエーレに好きだと言われて……今すぐに……あなたを信用することができません」
「当然だ。僕は……それほどのことをしてきたし……君がミエーレに好意を示されて、揺らいでしまうのも理解している」
レーヴがベッドの側で跪いた。瞠目したシェリの左手を手に取ると薬指に口付けを落とした。
見る見る内にシェリの顔が赤く染まっていく。同時に、レーヴの顔も。
「こ、これからは僕もシェリが好きだと、ちゃんと行動する。卒業までに君に再び好きになってもらえなかったら、その時は君を諦める。
その……今のは……ぼ……僕の、意思表示だと思ってほしい」
「……」
顔が赤く染まるのと一緒で手を握る体温も熱い。照れているのだ。そして、レーヴの語る言葉にどれも偽りはない。
心の方向は元に戻った。
「はい……!」
関係が元に戻る、のはない。
戻ってしまうと前のように、想いを寄せても頑なな態度を取られるだけ。
零の状態から始まる関係が2人に何を齎しても、決して後悔のないように行動をしていくのみ。
――そそくさと出て行ったミルティーがオーンジュ公爵家の侍女と一緒になって、聞き耳を立てていると2人にバレるまでもう少し……。
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