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好意の方向は再び7

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 あ……と零したレーヴは気まずげに視線を逸らすも、扉の前で立ち止まっているとシェリのいる方へ近付いて来た。
 シェリとレーヴ。2人を交互に見つめて察したミルティーが逃げるように頭を下げて、そそくさと帰って行った。顔が引き攣るシェリだったが、もう1度、今度は小さいが固い声に呼ばれて覚悟を決めた。


「シェリ……怪我は大丈夫か? ミルティーが君を治療してくれたから、傷は残っていないと思うが」
「はい。問題ありませんわ。眠り過ぎていたせいで、起きた時頭痛はしましたが。傷もこの後確……」


 認します、と言い切る前に焦りを浮かべたレーヴが身を乗り出した。


「他には!? やっぱり、怪我は完全には……」
「い、いえ……あの、その、だから眠り過ぎた反動で頭が痛くなったのだと……」
「あ……」


 シェリは最初に話した。早とちりをしたと、レーヴは顔を若干赤らめ、項垂れた。
 必死になり、慌てるほどに、彼に心配されて喜ぶ自分がいる。シェリは不謹慎だと熱くなり始めた顔の体温をどうにか下げたくなった。
 沈黙が訪れるもゆっくりとレーヴが話を始めた。


「ミルティーからは……どの辺りまで聞いた?」
「一通りまでは……」
「そうか……。アデリッサのことは?」
「幽閉になったと、お聞きしました」
「……幽閉、か……。ただの幽閉ならば、まだ幸せだったかもな……」
「それは……どういう……?」


 幽閉とは永遠にその場に閉じ込められ、2度と外に出られなくなる。やらかしは大きくても血筋は正統なナイジェル公爵家の娘。王子の心を操ったとして死刑になってもおかしくなかったのに、幽閉でも十分救いはある。
 レーヴは言いにくそうに口籠もるが、何を聞いても驚かないとシェリが続きを促せば、意を決したように紡いだ。


「幽閉とは表向きの処罰だ。実際は……“魅了の魔法”被害者の精神ケアをさせる」
「精神ケア……?」
「要は……慰み者になるんだ」
「!」


 なんと、アデリッサの幽閉は表向きで実際は魅了に憑りつかれた者の慰み者になると決定した。レ―ヴが言い難そうに口を開かない訳を察した。
 シェリに、惨い末路を――相手がアデリッサだろうと――知られたくなかったのだ。
 気遣いに感謝すると共にアデリッサの末路に何も言えなくなった。


「……決定は陛下が?」
「ああ……ただ、ナイジェル公爵には貴族用の牢にて生涯幽閉とだけ伝えている。今回の件、公爵は全くの無関係だったのもある上、今までの功績がある。公爵を必要以上に追い詰めることは避けたい」
「そうですわね……」
「それと……“魅了の魔法”と“転換の魔法”の違いを知りたくて、ミエーレに頼んで1度“魅了の魔法”をかけてもらったんだ」
「え!?」


 レ―ヴの驚きの告白。シェリはマジマジと見つめるが異変はない。レ―ヴは苦笑して頬を掻いた。


「ミエーレに魅了されるようかけてもらったから、勘違いされるようなことはない」


 それはそれで問題大有りだ。2人揃って、容姿は学院でもトップクラス。美貌の青年が同じくらいの美貌の青年に迫られる。
 ……罪深い香りが漂ってくる気配がある。


「どう、でした?」
「……魅了と転換は全く違った。掛けられた時の瞬間から、既に違うと判断した」


 レーヴ曰く、“転換の魔法”を掛けられた時は視界が暗転したという。暗くなり、明るくなったかと思えば全く別の相手が目の前にいる。感情は元々向けていたのとは違っていても。“魅了の魔法”は、魅了する相手しか目に入らなくなる。他に誰かがいてもフィルターがかかったように見えなくなり、たった1人だけを盲信的に愛してしまう。
 思考さえも魅了した相手のことしか考えられなくなり、他の何を差し置いても相手を1番に優先し、行動してしまうと言う。
 実際に体験して改めて知った“魅了の魔法”の恐ろしさに解除された後震えが止まらなかったとレーヴは苦笑した。


「マティアスが“転換の魔法”にしてくれて良かった。“魅了の魔法”だったら、僕はあれ以上にシェリ、君を傷付けていた」
「殿下……」
「ミエーレにも悪いことをしたな。僕に必死に愛を乞われて顔を引き攣らせていた」
「ま、まあ、ミエーレも“魅了の魔法”を実際見られて良かったと思っているかと……」


 同性に言い寄られるミエーレの困る顔が容易に想像出来て笑ってしまう。レーヴがミエーレに愛を乞う姿だけは……想像してはいけないと思考が強制削除した。





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