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好意の方向は再び5

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  ――あの時、暴走状態の火球からシェリを守ったのはレーヴだった。
  今後の事を深刻な様子でヴェルデに相談していたところへ、シェリに逃げるよう叫ばれたミルティーが助けを求めにやって来た。事情を聞いた2人はすぐにミルティーと共に現場へ直行。丁度、シェリへ火球が迫っている絶対絶命の最中に到着。背後から呼び止める声に耳を貸さず、無我夢中にシェリを助けたレーヴは揃って吹き飛ばされた。咄嗟にシェリも含め、全身に防壁を貼ったが急繕で編み出した魔法などたかが知れている。
 吹き飛ばされたレーヴは全身大怪我を負い、庇ったシェリも頭から血を流し意識を失っていた。
 周囲の被害も甚大だ。校舎の正面玄関の半分が吹き飛び、所々火が燃えていた。


『あ……ああっ……レーヴ様あぁ……っ』


 レーヴは頭や頬から血を流しながら、顔面蒼白になってふらふらと近付いて来るアデリッサに鋭い声を放った。


『近付くな! ヴェルデ! アデリッサを捕らえろ!』


 “魅了の魔法”を使って心を手に入れたレーヴからのハッキリとした拒絶に呆然とするアデリッサは、足元から芽生えた植物によって拘束され、地面に転がされた。公爵令嬢として育てられた彼女は侮辱の行為に声を荒げるも、この場に似つかわしくない声色に口を閉ざした。


『よく喚くねー。王族に対する“魅了の魔法”使用と更に殺害未遂……君、覚悟しておきなよ』


 ゆったりとした足取りで現れたのはミエーレ。深慮を彷彿とさせる碧眼には、ヴァンシュタイン家の秘宝とも呼ばれる魔法の術式が刻まれている。ミエーレが左手を下から掬うように上へ。所々燃える炎が引き寄せられていく。小さな炎が全て集まるとアデリッサの放った火球並みに大きくなった。左手を握ると火球は消滅した。
 ミエーレはレーヴとシェリの元へ。


『ごめんね殿下。アデリッサを決定的に断罪するには、言い逃れの出来ない確実な証拠が欲しかったんだ』
『だと思ったっ、お前が危険の迫るシェリを放っておく筈がないからな』
『殿下が飛び込んで来たのが1番の誤算かな』


 そこへヴェルデとミルティーもやっと到着した。


『ミルティー。先にシェリを治療してくれ!』
『いいえ! 殿下とオーンジュ様、2人を同時に治療します! 毎日教会に通って【聖女】の魔法を練習しているんです! その成果をお見せします!』


 胸を張って治癒魔法をかけ始めたミルティーに2人を任せ、拘束したアデリッサがうるさいので口に束になった蔦を突っ込み黙らせた。


『ナイジェル公爵閣下が気の毒ですね……』


 ヴェルデの哀れんだ声をミエーレは大きな欠伸をして不要だと言う。


『ふあ……。何かしらの罰はあるだろうけど、全責任はアデリッサ1人に押し付ける。ナイジェル公爵家は、魔法研究に多額の支援をしてくれる大事な支援者だ。ヴァンシュタイン家うちや王家からしても手放せない。何より、閣下の手腕で治めている領地の問題もある。罪悪感を抱くなら、より一層国の為に尽くすよう陛下と父上が説得するみたいだよ』
『残酷ですね』
『ふわあ……いいんじゃないの、なるようになったらいい』


 再度欠伸をしたミエーレは呆れの眼を寄越す友人をスルーし、制服のポケットから取り出した魔石で父ヴァンシュタイン公爵に連絡を入れたのだった。





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