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好意の方向は再び4

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「…………げなよ……、コアラ…………よ」
「……さい……で、……は……」


 鼻につく独特な香りは薬品だろうか。座っているような感覚であるが誰かに抱き締められてとても暖かい。意識がどんどん浮上すると誰かと誰かが会話をしていた。コアラという名前だけ明確に聞き取れた。南の大陸に生息する動物だったと完全覚醒しない意識の中感想を抱く。誰が抱き締めているのか知らないが、背中を撫でる手があまりにも優しくて、起きかけた意識は再び落ちていきそうになる。今よりもずっと幼い頃、母を求めて泣いた自分を父が抱き上げて慰めてくれた時と似ている。父の手は何時だって自分を優しく包みこんでくれる。きっと抱き締めてくれている人は父なのだろう。抱きつくと体が跳ねた。どうしてだろうと思うもシェリに起きる気力がない。
気のせいか、知っている父の体より細い気がする。

 撫でる手付きは、偶にぽんぽんとあやすように軽く叩かれる。これもこれで非常に落ち着く。ずっとこうしていたい気持ちが生まれ続ける。
 体を動かされ、寝かされた。座っている場所がベッドだと知ったのは背に触れた感触から。布を擦る音が鳴ると首元まで柔らかな布に覆われた。


「で? ……の?」
「ああ。ケリは…………る」


 誰かと誰かの声が遠くなっていく。


(ミエーレ……と……殿下……?)


 声の主を漸く把握したものの、まだまだ眠りを必要とするシェリは起きられなかった。



 ――シェリがきちんと目覚めたのは、それからどれくらい眠った後になるのか。
目を開けると生まれてからずっと見続けている天井と見慣れた金色の瞳と重なった。途端に花を咲いたような笑みを浮かべたミルティーは「良かったオーンジュ様!」と涙目で喜びを露わにした。
 何度か瞬きを繰り返したシェリは体を起こそうとした瞬間、頭に走った痛みに顔を歪めた。


「あ、無理に起きてはいけません! 私が治療しましたが怪我をしていたので」
「怪我を……?」


 シェリは意識を失う前の事を思い出す。
 魔力を上昇させたアデリッサの放った火球を風の魔法で防ぎながらも、感情を爆発させ暴走状態の火球から逃げられず様々な覚悟をした。
 最後、誰かに名前を呼ばれたのだけはぼんやりとだけ覚えていた。
起こしかけた上体をミルティーに寝かされた。


「あれから、アデリッサはどうなったの?」
「オーンジュ様が数日間眠っている間に、ナイジェル様は幽閉になりました」
「数日? わたし、数日も眠っていたの?」


 道理で頭が痛いし、体も怠いはず……。
 シェリはあの後の事を聞いた。


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