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時間の巻き戻し1
しおりを挟む『素敵な王子様と可愛いお姫様 ~略奪からの奪還~』から得た情報が事実なら、解除方法がないと諦めかけている“転換の魔法”が解除される。確証が欲しいシェリは放課後教会に行くことにしている。
昼休憩時、昨日の今日なのでレーヴを伴ってアデリッサが突撃をかましには来なかった。アデリッサが来ないだけで平和な時間を過ごせるなら、もう2度と来ないでほしい。
移動教室の際、遠くから見えたレーヴとアデリッサ。未だ心の矢印はアデリッサに向いたままでも、レーヴ自身の感情が彼女を好きな人と思わなくなった。しかし、今レーヴが事実を知ったとアデリッサが知ると考え無しのくせに行動力だけはすごい彼女のこと。此方が想像もしない行動をしてしまう危険が極めて高い。
もう少し、もう少しの間だけレーヴには魔法にかけられている演技をしてもらうしかない。
(殿下……あともう少しお待ちください……うまくいけば……あなたを解放させられます)
今のシェリに迷いはない。
せめて、最後くらいは自分の手で解決したい。
今日は生クリームたっぷりのカフェモカを飲んだだけで昼食を済ませた。固形物を食べる気が起きなかった。
図書室に入り、目当ての人がいないか探す。
彼を探すのは苦労する。
「いた」
シェリの目当ての人――ミエーレが机に突っ伏して寝ていた。万年寝不足な彼だがここ最近特に目の隈が酷くなっていた。夜遅くまで調べ物してると眠そうな顔で言っていたのは何時だったか。
普段の調子で“転換の魔法”に解除方法はないと言っておきながら、ミエーレは密かに解除方法がないかを探していたのだ。クロレンス王立学院の書庫量は相当な物。ヴァンシュタイン公爵邸でも調べ物、学院でも調べ物、天才と名高い彼でもやはり睡魔には勝てない。
隣に座って寝顔を見つめる。
目の隈を除けば、絵本に出てくる王子様の容姿をしている。
金貨を溶かしたような金糸、深慮を彷彿とさせる碧眼。顔の造形も非常に整っており、一目見ただけで女性の心を鷲掴む美貌。
この全てを台無しにしているのが目の隈。迫力が増して近寄り難い。シェリは昔から付き合いがあるので気にしない。
「ん……」
起きる気配がない。眠ったばかりなのか、深い眠りに就いているのか。
シェリはそっと金髪を撫でた。
「羨ましいわ」
指を通るさらさらな髪。ふわりと舞うと香る甘い香り。ミエーレの名の通り、彼自身甘い物は好きだ。
「ねえ……ミエーレ。寝ててもいいわ。聞いてほしいの」
ミエーレの触り心地の良い髪を触りながら語る。
「殿下を助けられる方法があるかもしれない。わたしが昔から読んでる本を知ってるでしょう? 昨日、その本のシリーズなのかしらね『素敵な王子様と可愛いお姫様 ~略奪からの奪還~』っていうタイトルがあったの。
聞いたことがないでしょう? わたしもないの。なんとなく、興味が出て本を読んだら……」
ピタリと手を止めた。
「……“転換の魔法”解除に繋がる魔法の存在が記されてあったの」
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