63 / 81
サロンへの招待2
しおりを挟む初めて会った時のお互いの印象はどんな風だったか。
ミルティーに訊ねられたシェリは、顎を人差し指でトントン叩いた。
「そうねえ……ミエーレは知らないけれど、わたしは綺麗な男の子と抱いたわ」
波打つシルバーブロンドを持つシェリとは違う、純粋な金色の髪を持つミエーレ。蜂蜜という名前に相応しい見目をした幼い彼だったが、開口1番放った言葉によってイメージは崩れ去った。
「初対面のわたしに向かって『君屋敷にいる犬と同じ毛の色だね』って言ったのよ」
とても無邪気に、子供特有の人懐こい笑みで。
「そう……なのですか……」
「そうよ。犬と同列にされるなんて思わなかったわ」
当時ミエーレの言った、シェリと同じ毛の色の犬はすっかり老犬となってしまったがまだまだ元気である。何度かヴァンシュタイン公爵家に足を運ぶとゆっくりな足取りでシェリを迎えてくれる。
最初はそっくりな毛の色と扱われた犬なんて、と抱いたが実際に接してみると人が大好きで予想していたよりも可愛い顔をしていたから、妙に愛着が湧いて一時期犬目当てでヴァンシュタイン家を訪れていた。
「わたしがレーヴ殿下に一目惚れした、婚約者になったと言いに行った時も、ミエーレは人の話を聞いてるのか分からなかったわ」
彼は魔法の研究に没頭し、折角遊びに顔を出しても全く人の話を聞かない。その点においては、ミエーレもレーヴと同じ。
「ミエーレ様はオーンジュ様のこと、どう思っていらっしゃるのでしょうね」
「……さあ……」
ミエーレに告白されたが、信じる信じない以前に、彼が他人に興味を示すこと事態ほぼない。
また、ずっとレーヴを追いかけ続けていたシェリを陰ながら応援してくれていたのも彼。
毎回、会いに行っては口を利いてもらえず、目すら合わせてくれないレーヴへの不満と不安をミエーレにぶつけていた。
その時も彼は魔法の研究に没頭し、偶に相槌を打ってくれた。
「よく分からないわ……」
シェリは不意に手を伸ばし、金貨を溶かしたような美しい髪を撫でた。痛みもなく、さらさらとした髪。気合を入れて手入れをする真面目な性格じゃないのに、羨ましい。
仄かに香る甘い匂い。
寝ているのを良いことに、時間になるまでシェリは撫で続けた。
余程深い眠りに就いているのか、ミエーレが起きることは最後までなかった。
――約束の時間になり。予約したサロンに1人で向かったシェリ。
マリーベルしか招待していないので、豪華で広いサロンには2人しかいない。
「さて。話しましょうか」
「は、はい」
「まず、あなたの従者がアデリッサの従者になった経緯を話してちょうだい」
16
お気に入りに追加
986
あなたにおすすめの小説

紡織師アネモネは、恋する騎士の心に留まれない
当麻月菜
恋愛
人が持つ記憶や、叶えられなかった願いや祈りをそっくりそのまま他人の心に伝えることができる不思議な術を使うアネモネは、一人立ちしてまだ1年とちょっとの新米紡織師。
今回のお仕事は、とある事情でややこしい家庭で生まれ育った侯爵家当主であるアニスに、お祖父様の記憶を届けること。
けれどアニスはそれを拒み、遠路はるばるやって来たアネモネを屋敷から摘み出す始末。
途方に暮れるアネモネだけれど、ひょんなことからアニスの護衛騎士ソレールに拾われ、これまた成り行きで彼の家に居候させてもらうことに。
同じ時間を共有する二人は、ごく自然に惹かれていく。けれど互いに伝えることができない秘密を抱えているせいで、あと一歩が踏み出せなくて……。
これは新米紡織師のアネモネが、お仕事を通してちょっとだけ落ち込んだり、成長したりするお話。
あるいは期間限定の泡沫のような恋のおはなし。
※小説家になろう様にも、重複投稿しています。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。
スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」
伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。
そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。
──あの、王子様……何故睨むんですか?
人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ!
◇◆◇
無断転載・転用禁止。
Do not repost.

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい
綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。
そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。
気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――?
そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。
「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」
私が夫を愛するこの気持ちは偽り?
それとも……。
*全17話で完結予定。

王弟殿下の番様は溺れるほどの愛をそそがれ幸せに…
ましろ
恋愛
見つけた!愛しい私の番。ようやく手に入れることができた私の宝玉。これからは私のすべてで愛し、護り、共に生きよう。
王弟であるコンラート公爵が番を見つけた。
それは片田舎の貴族とは名ばかりの貧乏男爵の娘だった。物語のような幸運を得た少女に人々は賞賛に沸き立っていた。
貧しかった少女は番に愛されそして……え?
廃妃の再婚
束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの
父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。
ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。
それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。
身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。
あの時助けた青年は、国王になっていたのである。
「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは
結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。
帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。
カトルはイルサナを寵愛しはじめる。
王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。
ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。
引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。
ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。
だがユリシアスは何かを隠しているようだ。
それはカトルの抱える、真実だった──。

あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる