61 / 81
アデリッサの焦り3
しおりを挟む父とマティアスが戻ったと聞くなり、玄関ホールまで飛んで行った。上着を執事に預けていた父に真っ先に詰め寄った。
「お父様! あれ程マティアスを連れて行かないでとお願いしたのに!」
「おぉ、ごめんよアデリッサ。男爵に、あまりに人手が足りないと嘆かれてしまってね。魔法の研究は我が国では非常に重要なことなんだ。優秀な魔法使いであるアデリッサの従者を勝手に連れ出したことは謝るよ。今度、欲しい物があれば何でも言いなさい」
「物で釣らないでちょうだい! でも釣られてあげるわ。お父様、今度からはちゃんとわたくしを通してくださいね」
「ああ、勿論だよ」
マティアスを連れて部屋に戻った。
アデリッサは父に向けていた、怒った可愛い娘から一転、憤怒の形相でマティアスに詰め寄った。
「お父様に余計なことは言ってないわね!?」
「も、勿論です。誰にも話していません。公爵様に今一度確認されれば、分かります」
「あと、あなたの“魅了の魔法”不完全じゃない! レーヴ様はわたくしのお願いを聞いてくださらなかったのよ!?」
アデリッサが最も腹を立てているのがこれ。
父が勝手にマティアスを連れ出した以上に怒りが強い。
愛しの自分よりも、教会の面白くもない行事の話をするミルティーとヴェルデを優先した。愛しい自分がいたいと願っても、レーヴは快い承諾をくれなかった。優しく、幼い子供を諭す口調で退室を求められ際には、あまりの悲しさに演技も忘れ本気で涙を流した。走り去る自分を追い掛けてくれると信じていたのに、レーヴは、彼は来てくれなかった。シェリから奪い、愛される喜びに浸っていたのに。
「レーヴ様がわたくし以外のことを考えられないようにしなさい!!」
「そ、それでは殿下の意思がなくなってしまいますっ」
「わたくしのお願いを聞いてくれないなんて、そんな愛され方わたくしは嫌よ! いいこと!? 明日、殿下にこの前かけた“魅了の魔法”をより強力にしたのを作りなさい。命令よ、ライトカラー男爵令嬢を傷物にされたくないでしょう?」
「っ」
マティアスに有無を言わせず、従わせるのに最も最適な言葉。彼はマリーベルに惚れている。彼女を脅しの材料にすれば、どんな難題でも熟す。
俯いた彼が唇を噛み締めた。
暫く無言だったが、小さく掠れた声で「……畏まりました」と告げた。
アデリッサは鼻を鳴らすとベッドに腰掛けた。
「レーヴ様はわたくしの物よ、絶対に誰にも渡さない。見てなさい、シェリ」
――アデリッサの部屋の前で、術式を刻んだ掌を扉に当てていたアデリッサの父カール・ナイジェルは、深い失望の淵にいた。
「……ああ……どうして……こんな子に育ってしまったんだ。たとえ髪の色がああでも……真っ当な子に育って欲しかった……」
31
お気に入りに追加
997
あなたにおすすめの小説

【完結】公爵令嬢は聖女になって身を引いたのに、殿下の愛は止まらない。
朝日みらい
恋愛
セラフィー・アマンテール公爵令嬢は、皇太子アーマンドと恋に落ちる。しかし、セラフィーの父親が将軍に冤罪を着せられ、アーマンドから身を引くことになる。
だが、アーマンドはセラフィーへの愛を捧げるべく、6年もの間彼女の行方を探し求めていた。
小さな村の教会で聖女になっていたセラフィーは、アーマンドに再会。
二人の愛の行方はいかに。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中

悪役令嬢、猛省中!!
***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」
――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。
処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。
今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!?
己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?!
襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、
誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、
誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。
今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?
バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。
カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。
そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。
ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。
意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。
「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」
意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。
そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。
これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。
全10話
※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。
※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる