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アデリッサの焦り1
しおりを挟む「ミエーレ!」
「うん?」
「うん? じゃないわ! 顔を近付けすぎよ!」
あの衝撃の口付けをされてから、急に距離を縮めだしたミエーレに警戒心を強くした。今も周りに誰もいないのをいいことに近付いてくるので、牽制の意味で睨む。が、野良の子猫が威嚇している程度の迫力しかないミエーレにしたら可愛さしかない。
とは知らないシェリは、頭に頬を乗せたミエーレの体を押しても微動だにしないことで諦めた。
但し、またキスをしてこようものなら魔法で反撃する準備は整っている。
「なんなのよ、急に」
「え~? おれは昔からシェリが好きだった。知ってるでしょう?」
「知らないわよっ」
口付けをされ、レーヴとアデリッサから離れた直後、顔を赤くしたまま怒ったら、こう言われた。
“シェリがずっと好きだった”と。
(ミエーレがわたしをそんな風に見ていたなんて、絶対嘘……って、言えないわ)
シェリはずっとレーヴ一筋だった。
他の誰が誰を好きか、なんて全く、これっぽっちも気にしたことがなかった。
昔馴染みのミエーレだってそう。
父親同士が友人というのもあり、幼い頃から仲良くしていた。魔法の天才である彼は、幼少期から既にその才能を発揮していた。ヴァンシュタインの秘宝である秘術だって使えた。
レーヴに恋をしたことも、すぐに話したのはミエーレだった。
興味もない風に魔法の研究をしていたのに。
いつから、なんて聞けない。
飄々と振り回してくるミエーレの真意は、碧眼と同じく深慮を彷彿とさせる。彼の深層心理に辿り着ける者はいないだろう。身内であろうと。
ただ、ミエーレとの口付けのせいで、レーヴとシェリは婚約状態のままでありながらお互いに恋人がいると要らない噂で持ちきりだ。
どうにかしないと、と頭を悩ませている。
「……ミエーレ」
「なに」
「殿下との婚約解消を、どこかで言わないと、とは分かっているのよ。……でも」
決別した筈だった。
レーヴへの想いとは。
いざ、婚約解消を宣言しようとすると口が動かない、体が竦む。
未練ったらしい自分が嫌になっていると背中をぽんぽん撫でられる。
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人間が深淵を覗く時、深淵もまた人間を覗いているとはよく言う。
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「そうね……」
「【聖女】様に言われたけどね。“転換の魔法”をもう1度使って、殿下を元に戻せないかって」
「出来るの?」
「無理。余計、殿下の心を混乱させて、最悪心をぐちゃぐちゃにしたせいで廃人になる確率の方が高い」
「……」
同じ魔法を使ってレーヴを元に戻せる可能性を僅かでも願っていたのはシェリとて同じ。だが、非常に難易度の高い“転換の魔法”を使えるのは、ミエーレだけ。準備にも時間がかかると聞く。ミエーレに簡単に頼むのは気が引けたのだ。
娘に甘いナイジェル公爵も、中々マティアスを引っ張って来れないでいる。
何か良案はないかと思案するシェリだった。
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