行動あるのみです!

文字の大きさ
上 下
59 / 81

アデリッサの焦り1

しおりを挟む

「ミエーレ!」
「うん?」
「うん? じゃないわ! 顔を近付けすぎよ!」
 
 
 あの衝撃の口付けをされてから、急に距離を縮めだしたミエーレに警戒心を強くした。今も周りに誰もいないのをいいことに近付いてくるので、牽制の意味で睨む。が、野良の子猫が威嚇している程度の迫力しかないミエーレにしたら可愛さしかない。
 とは知らないシェリは、頭に頬を乗せたミエーレの体を押しても微動だにしないことで諦めた。
 但し、またキスをしてこようものなら魔法で反撃する準備は整っている。
 
 
「なんなのよ、急に」
「え~? おれは昔からシェリが好きだった。知ってるでしょう?」
「知らないわよっ」
 
 
 口付けをされ、レーヴとアデリッサから離れた直後、顔を赤くしたまま怒ったら、こう言われた。
 “シェリがずっと好きだった”と。
 
 
(ミエーレがわたしをそんな風に見ていたなんて、絶対嘘……って、言えないわ)
 
 
 シェリはずっとレーヴ一筋だった。
 他の誰が誰を好きか、なんて全く、これっぽっちも気にしたことがなかった。
 昔馴染みのミエーレだってそう。
 父親同士が友人というのもあり、幼い頃から仲良くしていた。魔法の天才である彼は、幼少期から既にその才能を発揮していた。ヴァンシュタインの秘宝である秘術だって使えた。
 レーヴに恋をしたことも、すぐに話したのはミエーレだった。
 興味もない風に魔法の研究をしていたのに。
 いつから、なんて聞けない。
 飄々と振り回してくるミエーレの真意は、碧眼と同じく深慮を彷彿とさせる。彼の深層心理に辿り着ける者はいないだろう。身内であろうと。
 
 ただ、ミエーレとの口付けのせいで、レーヴとシェリは婚約状態のままでありながらお互いに恋人がいると要らない噂で持ちきりだ。
 どうにかしないと、と頭を悩ませている。
 
 
「……ミエーレ」
「なに」
「殿下との婚約解消を、どこかで言わないと、とは分かっているのよ。……でも」
 
 
 決別した筈だった。
 レーヴへの想いとは。
 いざ、婚約解消を宣言しようとすると口が動かない、体が竦む。
 未練ったらしい自分が嫌になっていると背中をぽんぽん撫でられる。
 
 
「人の心って、1番分かり辛いんだ。魔法なら調べれば調べる程奥が深く、真理に近付ける。でも人の心は違う。1歩踏み込んだが最後、2度と地上に戻れない暗闇に引き摺り込まれることだってある。人間の心の闇が深い程、覗いたら戻れないのさ」
 
 
 人間が深淵を覗く時、深淵むこうもまた人間こちらを覗いているとはよく言う。
 
 
「シェリは決別した気でいるけど、簡単には捨てられないよ」
「そうね……」
「【聖女】様に言われたけどね。“転換の魔法”をもう1度使って、殿下を元に戻せないかって」
「出来るの?」
「無理。余計、殿下の心を混乱させて、最悪心をぐちゃぐちゃにしたせいで廃人になる確率の方が高い」
「……」
 
 
 同じ魔法を使ってレーヴを元に戻せる可能性を僅かでも願っていたのはシェリとて同じ。だが、非常に難易度の高い“転換の魔法”を使えるのは、ミエーレだけ。準備にも時間がかかると聞く。ミエーレに簡単に頼むのは気が引けたのだ。
 
 娘に甘いナイジェル公爵も、中々マティアスを引っ張って来れないでいる。
 何か良案はないかと思案するシェリだった。
 
 
 
しおりを挟む
感想 41

あなたにおすすめの小説

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

【完結】夫が私に魅了魔法をかけていたらしい

綺咲 潔
恋愛
公爵令嬢のエリーゼと公爵のラディリアスは2年前に結婚して以降、まるで絵に描いたように幸せな結婚生活を送っている。 そのはずなのだが……最近、何だかラディリアスの様子がおかしい。 気になったエリーゼがその原因を探ってみると、そこには女の影が――? そんな折、エリーゼはラディリアスに呼び出され、思いもよらぬ告白をされる。 「君が僕を好いてくれているのは、魅了魔法の効果だ。つまり……本当の君は僕のことを好きじゃない」   私が夫を愛するこの気持ちは偽り? それとも……。 *全17話で完結予定。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

初恋の兄嫁を優先する私の旦那様へ。惨めな思いをあとどのくらい我慢したらいいですか。

梅雨の人
恋愛
ハーゲンシュタイン公爵の娘ローズは王命で第二王子サミュエルの婚約者となった。 王命でなければ誰もサミュエルの婚約者になろうとする高位貴族の令嬢が現れなかったからだ。 第一王子ウィリアムの婚約者となったブリアナに一目ぼれしてしまったサミュエルは、駄目だと分かっていても次第に互いの距離を近くしていったためだった。 常識のある周囲の冷ややかな視線にも気が付かない愚鈍なサミュエルと義姉ブリアナ。 ローズへの必要最低限の役目はかろうじて行っていたサミュエルだったが、常にその視線の先にはブリアナがいた。 みじめな婚約者時代を経てサミュエルと結婚し、さらに思いがけず王妃になってしまったローズはただひたすらその不遇の境遇を耐えた。 そんな中でもサミュエルが時折見せる優しさに、ローズは胸を高鳴らせてしまうのだった。 しかし、サミュエルとブリアナの愚かな言動がローズを深く傷つけ続け、遂にサミュエルは己の行動を深く後悔することになる―――。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

処理中です...