50 / 81
終わったら3
しおりを挟む心穏やか……とは違うが、荒むことも暗い方へ落ちていくこともない。ミエーレは名前通りの男じゃないが偶にシェリにとってはそうなる。
「あ……ヴェルデ様は、この間の舞踏会が終わったら縁談の話を受けると言っていたけれど……」
もし、今回の事態で先延ばしになっているのなら申し訳ない。明日にでもヴェルデに尋ねよう。
「心配は無用じゃないかな。ヴェルデはその辺上手くやる。殿下と【聖女】様の婚約はなかったことになるんだろう? なら、彼女に正式な婚約を申し込める」
ミルティーの様子からするに、きっと彼女もヴェルデを好いている。ラビラント伯爵家に養女として迎えられ、最初に仲良くなったのがヴェルデ。親愛が恋愛に変わる時だって大いにある。羨ましくなる反面、自身も今回の事が終わったら真面目に次の婚約者を探さないとならない。冗談混じりにミエーレは自分がと言うが、貴族の当主は自由を愛するミエーレには似合わない。卒業したら、彼なりに王家の番犬としての責務を全うする姿が目に浮かぶ。そちらの方がよく似合う。
「アデリッサを罰したとしても、解除不可能な“転換の魔法”をかけられた殿下は……他の誰かを好きなるのは」
「ないね」と付け足された。
「マティアスに実際会ってみないとだけど……殿下にかけられた“転換の魔法”にはさ、面白い性質が付加されてるんだ」
「付加が?」
魔法には元々備わった性質と故意に与える性質の2種類が存在する。人と同じで後者の場合は魔法との相性が悪いと効力は十分に発揮されない。ミエーレの碧眼は何を読み取ったのか。訊ねると欠伸を挟んで答えてくれた。
「ふわあ…………“増幅”だよ」
「増幅?」
「そう。アデリッサの従者をするマティアスが殿下とシェリの関係をアデリッサからは当然聞かされていた筈だ。恐らく、シェリへの嫌いな感情をアデリッサに転換させ、尚且つ感情を増幅させて余計嫌われるよう仕向けようとしたんだろうね」
無理矢理元の主から引き離された従者なりの復讐が思わぬ形でアデリッサの思惑を成功させてしまうのだから、世の中は何が起きるか誰にも読めない。神ですらもきっと掴めない人の運命。魅了と転換の違いを魔法の才能に乏しいアデリッサが見抜く術はない。そもそも、魅了と信じ切っているので疑うことすらしていない。
「はあ……ねえ、マティアスに会えるなら、わたしも同席していい?」
「いいよ。シェリは被害者なんだ。1番の被害者は殿下なんだろうけど」
アデリッサが仕掛けさえしなければ、シェリもレーヴも婚約者としてやり直せていただろう。禁忌指定されなかった“転換の魔法”だが、今後は指定される可能性が大きい。軍事活動には極めて重要な効果を発揮する為、使用制限付きの指定とされる方が助かる、とはミエーレの言い分。扱える人間が限られている分、条件は軽くしてほしいと今度国王にお願いするのだとか。
するとミエーレの手がシェリの頭に乗った。
「なによ」
「前におれが言ったの覚えてる? シェリの婚約者に立候補しようかなって」
「ええ。……え? 本気だったの?」
「うん。おれにしては珍しく。終わってからでいい。考えといて」
「……」
普段の不敵さも、眠気も、愉快な色もない。純粋に昔からの友人を気遣う仕草はあるが、深慮を彷彿とさせる碧眼の奥にはシェリへの情を訴えていた。初めてミエーレから友人以上の気持ちを向けられ恥ずかしくなったシェリは俯いた。
19
お気に入りに追加
990
あなたにおすすめの小説

[完結]私を巻き込まないで下さい
シマ
恋愛
私、イリーナ15歳。賊に襲われているのを助けられた8歳の時から、師匠と一緒に暮らしている。
魔力持ちと分かって魔法を教えて貰ったけど、何故か全然発動しなかった。
でも、魔物を倒した時に採れる魔石。石の魔力が無くなると使えなくなるけど、その魔石に魔力を注いで甦らせる事が出来た。
その力を生かして、師匠と装具や魔道具の修理の仕事をしながら、のんびり暮らしていた。
ある日、師匠を訪ねて来た、お客さんから生活が変わっていく。
え?今、話題の勇者様が兄弟子?師匠が王族?ナニそれ私、知らないよ。
平凡で普通の生活がしたいの。
私を巻き込まないで下さい!
恋愛要素は、中盤以降から出てきます
9月28日 本編完結
10月4日 番外編完結
長い間、お付き合い頂きありがとうございました。

今更ですか?結構です。
みん
恋愛
完結後に、“置き場”に後日談を投稿しています。
エルダイン辺境伯の長女フェリシティは、自国であるコルネリア王国の第一王子メルヴィルの5人居る婚約者候補の1人である。その婚約者候補5人の中でも幼い頃から仲が良かった為、フェリシティが婚約者になると思われていたが──。
え?今更ですか?誰もがそれを望んでいるとは思わないで下さい──と、フェリシティはニッコリ微笑んだ。
相変わらずのゆるふわ設定なので、優しく見てもらえると助かります。

【完結】母になります。
たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。
この子、わたしの子供なの?
旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら?
ふふっ、でも、可愛いわよね?
わたしとお友達にならない?
事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。
ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ!
だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

結婚式をボイコットした王女
椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。
しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。
※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※
1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。
1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

好きだった人 〜二度目の恋は本物か〜
ぐう
恋愛
アンジェラ編
幼い頃から大好だった。彼も優しく会いに来てくれていたけれど…
彼が選んだのは噂の王女様だった。
初恋とさよならしたアンジェラ、失恋したはずがいつのまにか…
ミラ編
婚約者とその恋人に陥れられて婚約破棄されたミラ。冤罪で全て捨てたはずのミラ。意外なところからいつのまにか…
ミラ編の方がアンジェラ編より過去から始まります。登場人物はリンクしています。
小説家になろうに投稿していたミラ編の分岐部分を改稿したものを投稿します。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる