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終わったら……1
しおりを挟む最近授業をサボる回数が増えてきた。そろそろ真面目に戻らないと、とは頭では理解している。実際行動に出られないのは主にアデリッサとレーヴのせい。放課後まで図書室にいたシェリとミエーレは、件の従者の元の主である令嬢と接触成功したヴェルデの報告を今受けていた。床に座ったままじゃなく、ちゃんとテーブル席に移動して。
「マリーベル・ライトカラー男爵令嬢が話してくれました」
「ライトカラー男爵家か。確か、魔法研究に力を注ぐ一族だったね」とミエーレが捕捉。
マリーベルの元従者の名はマティアスといい、マリーベルとは親戚に当たる。魔法の才能も優秀で且つ見目が良かったことからアデリッサに目を付けられ、無理矢理奪われたのだ。
「どう奪ったの?」
「マリーベル嬢に危害を加えないのを条件にマティアスが自分からアデリッサ様の従者になると申し出たようで」
「はあ……最低ね」
頭が痛い。仕事熱心、常に王国の為に働くナイジェル公爵が本当に不憫でならない。ミエーレの得た情報によって知ったアデリッサのコンプレックスが事実なら、多少性格が歪んでもおかしくはなさそうだが、それをカバーできる愛情をあの公爵が注がないのは変だ。やはり、持って生まれた性質なのだろう。
暫くヴェルデが得た情報を聞き。
次にヴェルデがシェリに問うた。
「2人はどうして図書室に?」
「察してよ」
ミエーレが苦笑混じりに言う。
何があったかおおよその見当がついたヴェルデが溜め息を吐く。
「……オーンジュ嬢。殿下のことですが……“転換の魔法”が解除されなかったら」
「……ヴェルデ様。わたし、もう殿下のことは諦めますわ」
今日向けられた、嫌悪だけじゃない憎しみまで篭った瞳で睨まれ、碌に証言も欲しないで現場の状況だけでシェリを悪と決め付けたレーヴに対する恋心は粉々に砕けた。
ずっとレーヴのせいじゃない、魔法にかけられているせいと言い聞かせていても。シェリだって普通の女の子。好きな人に冷たくされ続けた果ての行為にもう限界だった。
シェリを好きな気持ちの矢印を強制的にアデリッサに向けられた副作用で気持ちが揺らいでいたにせよ、どうせ解除方法がないのなら……もういい。
「だけど……このままアデリッサを野放しにはしないわ。しっかりと落とし前はつけてもらわないと」
「さっき、おれとシェリで話してたんだ」
アデリッサにはキツい罰を、従者のマティアスには軽い罰をと。
彼の場合はアデリッサに脅されている可能性が高いのでなるべく救う手立てがあるか探る。ただ、不敵に笑うミエーレのこと。どうせもう手があるのだろう。
そういえば、とシェリはミルティーはどうしたのだとヴェルデに聞く。
「ミルティーですか? 彼女は教会に行っていますよ。【聖女】の魔法を早く自分の物にしたいと張り切っていましたよ」
「そう……。あまり、魔力操作上手じゃないから心配だわ」
「そこはミルティーの努力次第ですよ。さて、ぼくはこれで」
ヴェルデは席を立った。
彼がいなくなると再びミエーレと2人きりに。
「……ミエーレ、これから時間をいただける?」
「いいけど」
「手伝って欲しいの」
「何を?」
「……殿下への想いを捨てるのを」
「……いいよ」
今までレーヴから沢山のプレゼントを頂いてきた。全部シェリの大切な宝物。だが、それも今日まで。
それら全てを処分して、改めてレーヴへの好意を過去のものにする。
図書室を出たシェリに続いてミエーレも続く。この後、昼食時の出来事をレーヴと話す予定だったのをシェリはきっと忘れている。
「今度、新作のスイーツの試食をしてよ。シェリの意見も聞きたい」
「まあ、是非!」
それはそれでいい。
だって──
「…………」
呆然とした面持ちでシェリとミエーレを見つける青く輝く宝石眼が……遠くにあるから。
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