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その瞳に映すのは2

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 生真面目な者特有のサボり癖。ミエーレは真面目であり、不真面目である。魔法に関しては3日眠らず研究するくせに、他に対しては興味を示さない。学年の成績はトップクラスだからヴァンシュタイン公爵も深く注意をしない。
 魅力的なお誘いに感じるかはその人次第。シェリのちょっと前の不安定な心だったら乗ったが今は安定して魅力的には映らなかった。


「断るわ。放課後は?」
「おれの気分」
「あのね……」


 猫か、と突っ込みたくなる。
 会話は終わり。2人は再び食事を進めた。
 時折他愛もないやり取りを交え、平穏に昼食は終わった。
 ……かと思いきや、幸せをシェリに見せ付けたいアデリッサの自慢からは逃げられなかった。
 トレーを持ったアデリッサがシェリとミエーレのいる席まで態々来た。


「あらあ、ご機嫌ようシェリ様、ミエーレ様」


 悦に浸った人間の顔はなんと醜いことか。元が整った可憐な美貌の持ち主でも、内面が汚れていれば表面にも出る。暇ね、とカフェモカを飲みながらシェリが呆れて言う。
 何を自慢しても、悔しがるどころか馬鹿にしかされないアデリッサは当然怒りで顔を赤く染める。レ―ヴの心を手に入れても、内面が変わりさえしなければ何れ捨てられる。
 そのことをアデリッサは理解しているのか。


「っ、ほんと、気に食わない女っ。そんなんだから、レ―ヴ様に捨てられるのよ!」
「ふん。殿下に魔法をかけてまで見てもらおうとまでは思わないわ」


 ひゅっと息を呑んだ音がした。顔面蒼白となるアデリッサから、優雅にカフェモカを味わうミエーレへ意味ありげに瞳を滑らせた。
 アデリッサがヴァンシュタイン公爵家の天才の実力を知らない筈がない。
 碧眼に走る複雑な術式。凡る相手の情報を読み取るヴァンシュタイン公爵家の秘宝。それがアデリッサへ向けられている。
 ミエーレの目に映らない情報はない。即ち、自身がレ―ヴにかけた魔法が見破られている。禁忌魔法を使用していると自覚はあったらしく、顔の色は蝋燭と同じに、地震が起きてないのに体が小刻みに震えている。


「あ……なっ……」


 言葉にならない声を絞り出され、冷えた紫水晶の瞳で睨んだ。
 次の行動を予測していたら、近くを給仕が通っていく。トレイに乗せたスープを運んでいるようだ。
 アデリッサが咄嗟にスープの器を奪った。シェリは自分が掛けられると顔を腕で防いだが――


「きゃあああああああああぁっ!!」


 有り得ないことにアデリッサが出来立てのスープを自分にかけた。頭から全身に浴びたアデリッサは赤色――トマトスープに染まっていく。
 場所は食堂内。
 当然、悲鳴は全体に響いた。


「アデリッサ!!」


 アデリッサの悲鳴を聞き付けたレ―ヴが大慌てでやって来る。トマトスープまみれになって蹲るアデリッサの肩を抱くと……凄まじい嫌悪と敵意を含んだ青い宝石眼でシェリを見据えた。

 分かっている。
 レ―ヴが好きなのは自分。
 好意の矢印をアデリッサへ転換させられただけ。

 分かっている。
 ……分かっていても、怒りと憎しみに染まった青の瞳に映されるだけで、全身を天空から地上へ叩きつけられた激しい痛みを伴う。


「シェリ、これはどういうことだっ」


 ずっと好きだった。
 どんなに冷たくされても、声を掛けられなくても、何時かはと期待していた。
 ……所詮シェリもただの人間。ただの女の子。いくら、シェリへの好意があったからこそ絶大な効果を発揮したと言えど、違う相手を真に慈しむ光景を何度も突き付けられてしまえば……


「シェリ」


 落ちていく。レ―ヴへの気持ちが底へと落ちていく様をヴァンシュタインの秘宝は映している。場の雰囲気にそぐわない極めて平穏な美声がシェリをどん底から引き揚げた。


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